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伝えるもの、伝わるもの


「パ、パウロさんっ!?なんでここに?」

「よっ。ちょっと様子を見に来たんだけど……もう帰るトコだったか」


帰路の途中。

渓谷を渡る吊り橋の上にいた俺を見つけて、トッシュ達は橋の手前で驚いた顔をしていた。


もちろん、俺は今やってきたわけではない。

彼らが帰り支度を始めたのを見て、ここに先回りしたのだ。

ある目的のために……


彼らがいる方へと歩いていきながらチラリと橋の下を見やる。


橋の下、切り立った断崖の底を轟々と音を立てて流れる川まで二十メートル以上の高さがあるだろうか?

その流れの先には、これもまた二十メートル以上の落差がありそうな滝があるのを確認している。


高所故に感じる恐怖と、この後起きる事態を想像しての恐怖。

二つの恐怖に震えそうになる足に喝を入れ、笑顔を崩さないまま橋板を踏む。

俺の視線の先では、ジョウが気まずそうに目を逸らしていた。


「みんな、お疲れ様。怪我はないな?」


そんな言葉で彼らが橋に乗らぬよう牽制しつつ、歩を進める。

そして俺は覚悟を決め、わざと『その橋板』に全体重をかけた。


「うわっ!!!」

『パウロさんっ!!!』

「ダーリンッ!!!」


バギィッ!と音を立てて割れる橋板。

四人と一体の叫び声。

重力に引かれ落下する俺の体。


ここまでは俺の中の台本通りだった。

ただ一つの誤算は、恐怖からくる生存本能が覚悟を上回ってしまった事だ。


「くっ!」


意思に反して俺の右手は割れた橋板を掴んでしまい、俺の体はブラリと橋から垂れ下がったようになる。


「パ、パウロさんっ!!!すぐに助けますっ!」


いの一番に反応したのはサラだ。

だが、俺は助けを乞いたい気持ちを無理矢理抑えつけて彼女の行動を制する。


「来るなっ!!!橋板が腐ってる所が他にもあるかもしれねぇっ!」

『っ!?』


俺の叫びにサラだけではなく、皆が動きを止めたのが気配で分かった。

そんな彼らに俺は心の中で何度も何度も謝る。嘘をついてゴメン、と。


俺がわざと川に落ちる事で、ジョウに『俺を助けさせる』。

それが俺の目的だった。


そのために先回りして、橋板がすぐ割れるように仕込んでおいたのだ。

本当は橋板を踏み抜いてすぐに落ちるつもりだったのだが……


見下ろす先の激流は、さっきまでより遥かに遠くにあるように見えた。全身から冷や汗が吹き出しているのがハッキリと分かる。


原作でパウロは高い城壁から飛び降りていた。それも紅蓮の鎧を纏った状態で。

だからこのくらいの高さ、この体なら大したものではないだろう。わざと落水するなら息を溜める余裕もある。


問題があったのは中身の『(メンタル)』だけだ。


「ダーリンッ!待ってて!私が助けるからっ!」

「無理だっ!ディーネッ!俺は大丈夫だから、落ち着けっ!」


ただ一人、橋板を踏まないでいいディーネがこちらに飛んできているようだが、彼女の力では俺を引き上げるなんて不可能だ。


このままでは俺を引き上げようとするディーネまで巻き込んでしまう。

そう判断した時、俺は再度覚悟を決めていた。


橋自体が邪魔をして姿が見えないジョウの方を向き、見えないだろうが笑いかける。

頑張れ、と。お前なら出来るよ、と。


そして、俺は自分の意思で手を離した。


すんません!壊した橋板は、絶対に生きて帰って後で直しますっ!!!



「いやあぁぁぁぁぁっ!!!ダーリンッ!ダーリンッ!!!」

「パウロさんっ!!!」

「ダメッ!!!やめて!トッシュッ!!!」

「パウロさんっ!パウロさんっ!パウロさんっ!!!」


泣き叫ぶディーネ。

危険も(かえり)みず飛び下りようとするトッシュと、彼を必死で止めるサラ。

崖下を覗き込み、何度もパウロさんの名前を叫ぶエミリー。


だけどボクは……ボクだけは動くことも叫ぶことも出来ないまま、呆然と立ち尽くしていた……


ディーネと契約を交わして、力を手にして、ボクは強くなったと思っていた。そう、思い込んでいた。

だけど、そんなの全部嘘っぱちじゃないか……


身の丈に合わない力を振り回して、振り回されて、挙げ句はこんな時にさえ動くことすら出来ない。

ボクは……何も変わってなんていなかった……


全身の力が抜け、体が勝手に座り込もうとする。

だけどその時、ボクの脳裏に浮かんだのは、笑いながらボクの頭を撫でてくれるパウロさんの姿だった。


「っ!」


膝が地面に着くスレスレで全身に力が戻る。


……死なせないっ!絶対に死なせないっ!!!

何度助けてもらったと思ってるんだっ!!!


そう思うと、体の奥底から力が湧き上がってくる。

そして、ボクは両手を前に思い切り突き出した。


「今度は……ボクがパウロさんを助ける番だっ!!!」


「お前なら出来るよ、ジョウ」

そんなパウロさんの声が聞こえた気がした。



予想以上の激流に揉まれ、もはや上も下も分からない。

そんな状態の中、俺は無理に流れに逆らわず、身を任せていた。


空気は目一杯吸い込んだ。このままパニックにさえならなければ、滝を落ちて滝壺に飲まれても何とか浮上出来るだろう。

……岩に叩きつけられたりしなければ……


そんな時だった。

川の流れが緩やかになっている事に気がついたのは。


……いや、違う。これ……水ごと浮き上がってる?


閉じていた目を開くと、水の向こうに緑が見えた。先程までの激流は完全に止まってしまっている。


差し込む太陽の光にようやく上下の判別がつき、俺は太陽を目指して浮上した。


「ぶはっ!」


水面から顔を出し、まず思い切り息を吸って顔を手で拭う。

そして目を開けたその瞬間……


「……はっ……?」


俺は間の抜けた声を漏らしていた。


目の前にそびえる山。その後ろに連なる山々。

濃緑の森林と、その向こうに広がる青々とした草原。

振り返ると、遠くにミニチュア模型のようなレクシオンの街も見える。


続いて眼下に目をやると、俺はそこでとんでもない事実に気がついた。


地を這う蛇のようだったあの川、俺が飲み込まれたあの川が、まるで鎌首をもたげるかの如く空に向かって伸びているのだ。

今俺がいるのはその先端、蛇の頭に当たる部分だった。


いや、こうなるともう蛇じゃなくて龍だな。水の龍だ。


吊り橋のそばを見ると、そこには唖然とした表情を晒すトッシュ、サラ、エミリーの姿が。

そして、必死の形相で両手をこちらに突き出すジョウと、そんな彼を支えるように寄り添うディーネの姿が見えた。


「ははっ。やっぱスッゲーな、ジョウ」


そうだ。彼はいつも規格外の力を振り回して辺りをメチャクチャにもしていたが、その根っこはいつも『誰かを助けたい』という気持ちだった。


だったら、その気持ちをもう少しだけ周りに広げてみればいいんだよ。

そうしたら、その力を向けるべき正しい道が見えるから。


降りたらそう伝えてあげよう。

そう思いながら、俺は高い場所から皆に手を振った。



地面に下りると、水の龍は俺の髪や服に染み込んだ水さえも引き連れて谷底へと戻っていった。そして、また轟々と流れる激流へと戻る。


無事に生還した俺を待っていたのは、まずディーネのボディアタックだった。


「ダーリンッ!!!良かった!生きてたっ!」

「わぷっ!ご、ごめんな、ディーネ」

『パウロさんっ!!!』

「おふっ!?し、心配かけてゴメン、みんな」


ベチンと顔に張りついたディーネを宥めていると、トッシュ、サラ、エミリーの三人も俺にタックルしてくる。

ギャン泣きしている三人を受け止め、それぞれの頭を撫でながらも、俺の胸は罪悪感でズキズキと痛かった。

ホンマすんません……


そして……


「ありがとうな、ジョウ。助かったよ」

「……パウロさん……」


強大な力を扱った反動か、ややフラフラしているジョウに礼を言いながら、俺はトッシュ達を落ち着かせる。

それから泣きじゃくるディーネを肩に乗せ、ジョウのそばに歩み寄った。


「お前、本当にスゲーよ。命の恩人だ」

「っ!!!」


笑いかけながらジョウの頭を撫でる。

と、彼は一気に大粒の涙をこぼし、俺の胸に飛び込んできた。


「良かったっ!無事で良かったっ!!!」

「うん、ジョウが助けてくれたおかげだよ。胸を張って言える。お前は自慢の仲間だ」

「わあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


大声を上げて泣く少年をギュッと抱き締めると、思わず俺の視界もぼやけていた。


お前もありがとうな、パウロ。

これは、お前の力があったから出来た事だ。


どこにいるかも分からないこの体の真の持ち主に感謝しながら、空を見上げてズズッ!と鼻を鳴らす。


それからしばらくの間、渓谷には激しい水音と一緒に少年達の泣き声が響いていた。



「パウロさん。オレ、代わりましょうか?」

「いいよいいよ。みんな疲れてるんだから。せめて俺に背負わせてくれ」

「ふふっ。マスター、すごく幸せそうな顔してる」


カラスが「アホー」と鳴いている夕暮れの街道を、俺達はレクシオンに向かって歩いていた。

力を使い過ぎたのか泣き疲れたのか、眠ってしまったジョウは俺の背中でスゥスゥと寝息を立てている。


「うーん、やっぱりジョウくん可愛いなぁ……」

「そうだね。でも、本当にジョウくんの力はスゴいよ」


ジョウの寝顔を覗き込みながら歩くサラとエミリーの言葉には、恋愛感情らしきものはないように感じた。

なんというか、『弟を見るお姉さん』という感じだ。


それにホッとしながら、俺はおぶるジョウの体を少し持ち上げた。


「これで少しは自分の力が、使い方さえ間違えなければ色んなものを救える力だ、って思えるようになるかな?」


何気なく、本当に何気なく、そう呟く。

そこに誤算があった。


「……あっ!?ま、まさか……パウロさん、オレ達の話を聞いて、ジョウを立ち直らせるためにあんな事を……!?」

「はっ!?」


ハッとなって愕然とした表情を見せるトッシュに、俺の方はさらに愕然となる。

いやいやいや!お前、そんな察せるキャラじゃないやろっ!?


コイツは、ジョウが何をやっても「すごいぜ!ジョウ!」「さすがだぜ!ジョウ」と彼を持ち上げる太鼓持ちキャラだったはずだ。

深謀遠慮には程遠く、一話丸々「さすがだぜ!ジョウ!」だけで通した伝説すら持つ男のはずだ。


トッシュの発言に、ディーネも、サラもエミリーもハッとなっていた。


自分の頭で物を考えて行動出来るというのは大きな成長であり、喜ぶべき誤算だ。

だけど……ここは鈍いままでいて欲しかったなー……


「えっと……その、だな……」


全力で否定すると逆効果な気がして、俺は言葉を探してしどろもどろになる。


普通に考えれば激怒ものだろう。

たとえ誰かのためであっても、あんな事をしたら俺はまず怒る。褒めるのは説教の後で、だ。


だが、彼、彼女らは、まだまだ原作の影響下から抜けきっていないようだった。


「ダーリン、マスターのために……ダーリン!大好きっ!」

「さすがっす!パウロさん!」

「すごいっ!パウロさん!」

「パウロさん……カッコいい……」


「……はぁぁぁ……」


どこぞのヒーローでも見るかの如きキラキラした目に、俺の口から深い深いため息が漏れる。


とりあえず、この場は良かった……だが!良くねぇ!

そこはちゃんと怒れる人間になれ!お前ら!


どうやら、まだまだ俺にはやらなければならない事が、伝えなければならない事があるようだ。

だけど……


「……ん……パウロさん……」


まぁ、今日はいいか。


寝言でパウロ()の名を呼ぶジョウに苦笑して、俺はまた一歩足を踏み出すのだった。


倒木に腰掛けて『頭垂れる』ジョウの頭の上で、ディーネが悲しそうな表情を浮かべている。


正解は『項垂れる』

ルビまで振ってるのにまさかここが誤字だとは思うまいっ!


と思ってたのにサラリと見破られたわっ!

スゲーな!くるぐつさん!

はい、腹筋しましたよー。


今回はですねー、誤字?誤用?表現ミス?

ちょっと説明の難しいミスです。


さっ来ぉぉぉいっ!

ヽ( `Д´)ノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやいや、今日も良い脳トレと筋トレになりました(ん?) しかしもう脳が限界を迎えそう:(´ºωº`): アレだ、辞書でも買うかwww
[良い点] お前のためだ! とか言えばすべて許されそうなク○ラノベ世界。 [気になる点] 【25】 >「パ、パウロさんっ!?なんでここに?」 公式に『パパウロ』来ましたー! >四人と一体の絶…
[気になる点] なんかめっちゃ嘴さんとやり合ってた感が(´・ω・`)気のせい? [一言] >顧み とばっちり腹筋ゴメンナサイwww 私もやっときますョ
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