リーダーのお仕事
それは、俺がちゃんとまとめ役をやろうと決めた日より一週間後の事だった。
『すみません!リーダー!』
「ん?」
オーリから誤字(この世界での、ね!)の指摘を受けながら事務作業をこなしていた所、事務室に入ってくるや否や声を揃えて謝ってきた四人の若者達。
彼らの声に作業の手を止めて顔を上げると、オーリとキエルはビクリ!と肩を震わせていた。
その反応の理由は、続く彼らの言葉で勝手に察しがついてしまう。
『依頼を……失敗してしまいましたっ!』
「……あー、そういう事か」
依頼の失敗。
それはパーティー所属の冒険者において、『看板に泥を塗る行為』というのが共通認識だ。パーティーランクに関わる問題でもあるので、仕方ないのは仕方ないのだが。
そして、プライドの高いパウロは殊更それを嫌っていた。
中堅クラスのメンバーでも、依頼を失敗したら盛大にキレ散らかして即追放。
多少の失敗が許されるデッドラインはラギルくらいまでだろうか?
それが『パウロ=D=アレクサ』という男の本来の姿だ。
今日まで真面目に、大人しく、フレンドリーにやってきたつもりなんだけど……まだまだ信用は回復出来ていないのか。それとも、染み付いたものは簡単には抜けないのか。
パウロがまた爆発するかも……と戦々恐々としているのだろうオーリとキエルの様子にため息をついて、俺は椅子から腰を上げた。今度は全員が身を震わせる。
……オジサン、ちょっと悲しい……
「怪我は……してないみたいだな、四人とも」
『は、はいっ!』
「なら良し。話はラウンジで聞こうか。ああ、別にクビにしようとかそんな気はないからな。それは心配すんな。まずは反省会だ、反省会」
そう言いながら、愕然となっている四人を「それいけ」とラウンジへと追い立てる。
そして、同じく愕然となっているオーリとキエルに後の事を任せ、俺も事務室を後にした。
そろそろ慣れるか、何かを察するかして欲しいなー……
◎
『依頼の失敗』とは、ほとんどの場合『期限付きの依頼を期限内に達成出来なかった』という事態を指す言葉だ。
『請けたはいいが手に負えなかった魔獣討伐の依頼を冒険者ギルドに戻す』というのも『依頼失敗』ではあるが、こういう場合は大体、採算度外視で人数をブッ込んでゴリ押しで解決するのが常らしい。
パーティーの名に傷がつくよりマシ、という判断だろう。
今回この四人が請けていた依頼は『三日月兎の毛皮(良質な物)を五頭分納品』というものだ。本来は五『羽』だけどなー。
これは『捕獲系』と呼ばれる類いの依頼で、必要なのは『戦う力』より猟師のような『狩る力』である。
だが、このBランク四人組の編成は……
サラサラ金髪のイケメン剣士、レド。
茶短髪のゴリマッチョ盾役、ギデオン。
金髪ロングのお嬢様系治癒術師、シャーロット。
ウェーブのかかった赤髪の、ちょっとエロい魔術師、エーデル。
……という典型的な『勇者・戦士・僧侶・魔法使い』の『討伐系』編成だった。
……若いコには分っかんねーかなー……
「……いやー、これは完全に依頼の選択ミスじゃない?」
ラウンジの端の方の丸テーブル。
今日の夕方で期限切れとなる依頼書を受け取った俺は、それを片手に四人に苦笑い顔を向ける。
俺が怒っていない事は伝わったらしく先程までの悲壮感はなくなっていたが、四人はショボンと肩を落としていた。
「まぁ一つお小言を言わせてもらうと、こうなる前に誰かに相談しなさい、かな。俺に言いにくいのはパウロの責任でもあるからさ、そこはあまりとやかく言わないけど……こういうのが得意なヤツに相談するとか、方法はあったでしょ?」
「はい……すみませんでした……」
ささやかな苦言に、四人を代表してレドが謝罪の言葉を返してくる。
「お前らはガムシャラに遊んで夏休み最終日を迎えた小学生か?」とツッコミたい気持ちはあったのだが、どうせ伝わんないしなー。
ま、十分反省しているようなので、お説教はこれで終わりとしましょう。
ただ、「これにて全て終了」とするのはどうも収まりが悪い気がする。なので、俺は拠点内を見回し、見つけた目当ての人物に声を掛けた。
「おっ、いた。おーい、フォリス!ちょっといい?」
「えっ!?あっ!は、はいっ!なんでしょうかっ!?」
俺に呼ばれて慌ててやってきたのは、Cランクの弓士であるフォリスという名の青年。黒に近い茶色の髪が目元を隠す、どこかジョウに似た雰囲気を持つ男だ。
イレギュラーを除けば、このパーティーで最下位ランクの存在でもある。
俺が彼を呼んだ理由。
それは、この依頼が彼の得意分野だと知っていたからだった。
「フォリスって確か、捕獲系の成績良かったよな?」
「は、はい!僕の地元には畑を荒らす害獣が多くて、子供の頃から父に色々教わってたんで……」
フォリスが、そしてレド達が驚いた表情をしているのは、末端メンバーであるフォリスの得手を俺が知っていたからだろう。
ちゃんとやるって決めましたからね。皆の得手不得手くらい調べてますよー。
五人の様子に「くっくっ」と笑いながら、さらにフォリスに問い掛ける。
「三日月兎って捕まえられそう?」
「え、ええ。いる場所さえ分かっていれば多分……」
「よっしゃ。じゃあ、レド達のサポートについて、三日月兎を最低五羽……五頭狩ってきてくれるか?」
『えっ!?』
驚きの声を上げたのはレド達四人だ。
まぁ、でしょうね。今からすぐ行って帰ってきても、期限には絶対間に合わないからね。
だけど、ちゃんと考えはありますよー。
俺は依頼書をピラピラ振りながらこの提案の意味を伝える。
「先方さんとしても素材が欲しいから依頼を出してるんだ。これから再発注かけて、って面倒な事するより、納期を少し延ばす方が結果的に早く手に入るでしょ?そこは交渉次第だと思うんだ。先方さんには俺が頭下げに行くからさ、そっちはお詫び用に一、二頭多めに狩ってきてよ」
「そ、そんなっ!?リーダーにそんな事させるわけには……!」
俺の提案に焦った声を出したのはシャーロットだが、他の三人も同じく焦った様子でコクコクと頷いている。
だけどねー、それは違いますよ。
四人に向かって手をパタパタと振り、俺は自身の意図を伝える。
「責任者だからこそ行く意味があるんだ。仕事させてください。それにこういうのはね、対応間違えなきゃ逆に評価上げるチャンスにもなるんだよ。だから、こっちは俺に任せとけ」
元々俺は、役職もないのにこういう仕事ばかりしていた人間だ。現場の人間でも、長く勤めればあちらこちらに知り合いが増えていくからね。
まぁ、上司がちゃんと責任負ってくれてれば、俺はそんな事しなくてもいいんだけど……
だから今の俺の行動は、責任を負いたがらない上司への婉曲な当てつけでもある。
しかし、そんな裏事情を知らないレド達四人はいたく感激したのか、一斉に頭を下げた。
「あ、ありがとうございます!リーダー!」
「俺ら!マジで頑張ります!」
「おう。でも、怪我には気をつけてな。フォリスもよろしく頼むわ」
ガチ泣きしているレドとギデオンに苦笑しつつ、立ち上がってフォリスの肩を叩く。と、彼は満面の笑みで「はいっ!」と元気良く応えた。
「それじゃ、四人ともしっかり学んでこい。年下だろうがランク下だろうが、自分に出来ない事を出来る人間ってのは皆先生だからなー」
『はいっ!』
素早く立ち上がり元気良く返事をする四人と、わずかに誇らしげな顔をする一人の姿に、俺も自然と笑顔になる。
ちったぁ年上らしい事が出来たかな?
そうして俺はリーダーの仕事をこなすべく事務室の方へと歩き出すと、慌てて室内に引っ込むオーリとキエルの姿がチラリと見えた。
こっちを覗いていたのは途中から気づいてたけどね(笑)
……というわけで、別件で提出する書類も持って冒険者ギルドへお使いに行く事になったのだが……
そこで俺は新たな『原作シナリオ』という名の流れに巻き込まれる事になるのだった。
高ランクの者が低ランクの者を無理矢理従わせるなんてことはナシで、報酬の上前を跳ねるなんて以ての外だ。
「上前をはねる」の「はねる」は「撥ねる」と書きますね。
アッシのスマホでは普通には出てきませんが。
くるぐつさん、正解でーす。
ヽ( ´∀`)ノ
投稿から五分で正解ですって、奥さんコノヤロー。
というわけで(?)、今回は豪華二本立てです(怒)
一つは誤字でもあり誤用でもある言葉。
もう一つは概念的な間違いでーす。
おらぁ、見つけられるモンなら見つけてみやがれ。
( ノシ゜Д ゜)ノシ




