亡命───逃げ延びようとする者
とっくに悲鳴を上げている身体を無理に動かし前へと走る。
何処までも、何処までも、追手が来ない場所まで逃げなければ行けない。
手が折れようと、足が折れようと、肋骨が折れようと、魔物に襲われようとも、矢で撃ち抜かれようとも、 魔法で足止めされようとも、逃げて、逃げて、逃げ延びなければいけない。
俺はあの国から逃げなければ『死』ぬ。
「あ」
地面から突き出ていた小石に足を引っ掻けてしまった。そのまま倒れ込んでしまう。不思議と身体には力が入らなく立ち上がれなかった。
何で、こんな所に小石が………。
ここは補強された道に見えるから今躓いた小石などは無いはずなのに。あー、そっか、もう終わりなのか。逃げる時間は。
逃げ続けて半年近くになる、と思う。正確には分からないが感覚的にはそれぐらいは経ったと思う。
神は相変わらず人に残酷な道を与える。いや、神なんて物は存在しない。するんだったらこの世界の人々は戦争したり、平等ではない生活を送ったりはしない。それら全ては上に立つ人間がそうしているだけ。でも今だけは神のせいにさせてくれ。じゃなきゃ怨みで化けて出そうだ。
馬車の音がする。もう追い着かれたのか。逃げようとも身体に力が入らない。可笑しいな、今まで身体に力が入らなくても動いたのに。
馬車が止まる音がした。瞼が重くて視界はうっすらとしたものになるから耳に届く音で判断するしかない。戦場で培った聴力は伊達ではない。
足音が複数………いや、一つだ。可笑しい、追手なら数人は居るはずなのに一つだなんて。
意識が途絶える中、最後に聞こえた声は俺を心配する声だった。