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短い地獄  作者: 桝田空気
3/3

百一~百五十


「百一」



路地裏に、顔が落ちていた。大人の女のひとの綺麗な顔だ。あまりにも美しかったので、持ち帰って壁に飾った。




翌日から毎晩、顔の持ち主が血を滴らせながらたずねてくるようになったが、わたしは居留守を使って、いないふりをしている。






「百二」



クラスメートのAちゃんが、畜生の霊にとり憑かれてしまったので、学校の飼育小屋で飼うことになった。



飼育当番は、わたしだ。



憧れの美少女だったAちゃんが、わたしが世話をしないと生きていけない体になったのだと思うと、少し興奮した。





「百三」



「助けてくれてありがとう!」



という叫びと共に、突然肩をつかまれた。



ふりむくと、顔が半分しかない女がいた。



「わたしの身代わりになってくれるんだよね!?」


女はわけのわからないことを言った。





「百四」



山奥で骨を拾った。


綺麗な少年の骨だと何故か分かった。


うっとりとして、持ち帰ろうとしたが、何故だか山から出られなくなってしまった。いくら歩いても人里に着かない。


多分、骨を拾ったせいだ。


わたしは骨を捨てたくなかった。



なので、わたしもこの山で骨になった。





「百五」



A子さんは、とある占いサイトを、盲目的に信じていた。



ヒマさえあれば、スマフォで何度もアクセスし、そのサイトで紹介されたラッキーアイテムは、借金をしてでも必ず手に入れた。この占いの通りに生きていけば、必ず幸せになれると思っていた。



ある日、その占いサイトが誤植を起こして、ラッキーアイテムは「おじいさんの脳髄」だと表示された。



A子さんは・・・・・・







「百六」



放課後、教室でため息をついて、ふと上を見あげたとき、



電灯の隙間に小さな紫色の赤ん坊を見つけた。



目があった。





翌日、それは、わたしの喉の奥にいた。





「百七」



夏の終わりのある日、



「おなかの中が、かゆいんだ」



朝、顔を青くしながら兄が言った。



夕方、兄は突然倒れて血を吐いた。



血の中には、何万匹もの蚊がびちゃびちゃとのたうちまわっていた。







「百八」



夜、鏡の中に、目をえぐられた私と、口を引き裂かれた私と、耳をちぎりとられた私が、三人、映っていた。





「どれがいい?」



と鏡の中の三人が聞いてきた。





「百九」



マンションのベランダから、まだ会ったことのない、隣の住人の部屋の中が少しだけ見えた。





女の頭にムカデの体を持った何かが、壁にはりついて、動いていた。






「百十」



時々、深夜、窓の外から、誰もいないのに、



ごきっ ぶちゃあっ



という音が聞こえる。



なぜか、腕の骨を折る音と、腕をひきちぎる音だと分かる。



おばあちゃんに聞いた、戦争中、近所で大勢のひとが、不時着したアメリカ兵をなぶり殺したという話をふと思い出す。





「百十一」



カマキリの頭を持つ女子高生とお付き合いをしています。



カマキリは交尾の後、オスの体を食べるそうですが、



ぼくは、かまいません。






「百十二」



同窓会で、十年ぶりに高校時代の友人に会った。



彼女は何か灰色の塊をバッグに入れて持ち歩いていた。



「それ何?」



「ああ、これ?私の子供。今年で五歳になるんだけど、ずっと粘土ばかり食べさせてたら、こうなったの。はははっ」



よく見ると、その塊には目と口があった。





「百十三」



夜、裸になった母が、口紅で、全身に細かくびっしりと、たくさんの目玉を描いていた。



「今夜、お迎えにいかなきゃいけないから」



と、母は少しうれしそうに言った。







「百十四」



電車の向かいの席に、スーツを着た男が、頭を抱えて座っていた。



「頭痛えなあ。くそ、頭痛えよ」



と、何度もつぶやいていた。



駅に着くと、男は絶叫しながら、自分の頭をもぎ取り、床にたたきつけた。



頭を失った男の体は、すっきりとしたような、軽やかな足取りで、電車を降りた。





「百十五」



駐車場へ行くと、私の車の中が、血まみれになっていた。



巨大な、びっしりと毛が生えた虫の足のようなものが、内側から窓を引っ掻いている。



子供が








「百十六」




「みいん、みいん」



と、よなか、せんせいが、わたしのへやのまどにへばりついて、ないていました。







「百十七」



夕方、学校の帰り、いつも廃工場の横を通るときに、首のすぐ後ろあたりから視線を感じる。



10回に1回くらいの割合で、振り向くと、



一瞬、焼けただれた顔が見える。







「百十八」



田中君は、気が狂ってるけどかわいい。

だから、家で飼うことにした。

血まみれの彼は、今日も「ここから出してくれ」と泣きながら懇願する。

わたしのもとから、離れようなんて、まったく気が狂ってる。

でも、かわいい。だから、ちょっと切るだけで許す。







「百十九」



デパートの屋上で見たあれは、たぶんヒーローショーだったと思う。たくさんの子どもたちが喜んでいたし。ただ、血がたくさん出ていた。腕がちぎれていた。首がもげて客席に転がっていた。たくさんの子どもたちが、笑っていた。たぶん、ヒーローショーだったと思う。そうでないとあれは・・・・・・








「百二十」



道路に首のない子どもの体をならべて、募金箱を持つ母親を見た。






「百二十一」



誕生日の日の朝、枕元に手紙が置かれていた。



「10歳の誕生日おめでとう足が速くなりたいって言ってたよねお兄さんからのプレゼントだよ」





わたしの太ももから先に、大人の男のひとの両足が縫いつけられてあった。






「百二十二」



夜中、ずぶりという音がして、頭の中に何かが入りこむ感触があった。



しかし、私の外見に、何も変化は無かった。病院で検査を受けたが問題はない。





ただ、すれちがう小さな子どもが、みんな私を見て顔を青くする。






「百二十三」



何度削除しても何度削除してもスマホの待ち受け画面にあの娘の白い顔の写真が貼りつくわたしは何も悪くないあの娘が飛び降りるのをたまたま見ていただけで






「百二十四」



朝、母が鞄を食べていた。



それ以外はいつもの日常だった。



大丈夫だと思う。



たぶん。





「百二十五」



「何かが私を噛むの。寝たら、噛まれるの。だからずっと寝てないの」



顔中に絆創膏を貼った友人が目の下に隈を作って力なく言った。すごく眠そうだった。



五時間目、その友人が授業中に居眠りをした。




ぐじっという音がして、彼女のちぎれた頬肉が、私の机の上に飛んできた。







「百二十六」



「人間がさらに進化する手段を見つけたんだ」



と、彼が興奮した面持ちで言った。




その日から、彼の目や口の位置が、少しずつずれはじめた。






「百二十七」



スマフォの画面に、



首が映っていた。



かわいい女の子の首だ。



かわいいので、待ち受け画面代わりにそのままにしていたら、



ある日、わたしの首と入れ替わっていテワタシノ首ハスマフォノナカニ#&%”*






「百二十八」



疲れた顔をしたお婆さんが、壁からはみだした釘の切っ先に、思い切り自分の目玉を突き刺す夢を時々見る。



そのお婆さんの目元が、なんとなく私に似ている気がする。






「百二十九」



田舎町で、新聞配達のバイトしてたときのことなんだけどさ、



人間の首を郵便受けにしてる家を見つけたんだ。



実際は、ケルメっていう人間に似た生き物を加工したものらしいんだけどさ。



気味が悪かったなあ。






「百三十」



彼の腕に、噛み傷があった。


うちのペットにやられてさ、と言って、彼は笑っていた。


1ヶ月後、彼の腕が噛みちぎられていた。



うちのペットにやられてさ、と言って、彼はまた笑っていた。






「百三十一」



とある美しい女性が神に強く祈った。


「わたしの命を、自然を救うために役立ててください」


そう言ってアパートで自殺した。


死後、彼女の死体はゴキブリのエサになった。


自然を救ったのだ。






「百三十三」



彼の家で、「犬婆」と書かれた段ボール箱を見つけた。



中を見た。





翌日、私は彼と別れた。





それから数日後、彼に誘拐され、体を「犬婆」にされて箱に詰められた。



そのまま死ぬまで生きた。







「百三十四」



首女を見てしまった。



胴体のない、女の首に、直に腕と足だけが生えた形をした存在。



放課後の体育倉庫で、それと目があってしまった。





噂通りだとすると、明日わたしは自殺をする。






「百三十五」



家に帰ると、顔を真っ黒に塗りつぶした男が、息子の顔に何か黒いものを塗りたくっていた。


すると、なぜか「あの子は私の子供じゃない」と思い、


子どもが連れ去られたけど、何もせずに見送った。






「百三十六」


目覚めた瞬間、体の感覚がすごくおかしいと思った。そうだ、おれは確か自殺をして・・・


ベッドの横に立つ、顔を真っ白に塗りつぶした女が言った。


「電車に轢かれて、バラバラになったあなたを、ホッチキスで繋げて治したの。大変だったのよ」




自分の体を見た瞬間、おれは吐いた。










「百三十七」



放課後、同級生の埋められっ子が、校舎裏の地面に埋められているところを見た。


ひどいことするな、と思ったけど、あの子を助けたら、きっと私も埋められるので、見てみぬふりをした。


先生たちは気づいてないけど、校庭にはもっとたくさん埋まっている。











「百三十八」



天井裏に、牛のような大きさの虫がいることを、母から教えられた。


あれが、わたしの父だという。










「百三十九」



友達の家の壁に、なにやら赤いぶつぶつがあった。


「触ったらだめよ。人間じゃなくなるから」


と友達が言った。



裏庭に、人間じゃなくなった彼女の兄がいて、ぬぎょおおと鳴いていた。






「百四十」



奇妙な形の怪物が、目の前で、痛みに泣き叫ぶ友達をむさぼり喰っていた。こんな奴だ。



/(^o^)\



ネットの中で生まれたこいつは心を持ち進化し増殖し画面から飛び出してきて、いま世界は・・・

「!?」

気配を感じてわたしは振り向いた。






/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\/(^o^)\







「百四十一」



わたしの家に、腕男が出た。



首から下に、腕一本だけが生えた男だ。



これを逃がすと、不幸になるらしいので、逃がさないよう、両目を潰して家で飼うことになった。



ジャンケンで負けて、わたしの部屋で世話をすることになった。




いやだなあ。








「百四十二」



ある日、道ばたで、青黒い奇妙な形の花を見つけた。その花の花片をちぎって、「あの人は私を、好き、嫌い、好き、嫌い・・・」と占うと、「嫌い」が出た。



その日の夜、あの人が私を殺しにきた。








「百四十三」



「浮気した彼を床下に閉じ込めて、食べ物に虫だけを与えて五年間飼った結果★」


という題の、知らない女のひとのSNS投稿を見た。



変わり果てた父の姿が写っていた。










「百四十五」



父が窓になった。


マンションで独り暮らしをする娘のことが心配で、私の部屋の窓ガラスに体を変えたという。


私は父を叩き割った。


窓ガラスなので、罪には問われない。良かった。過保護で束縛が酷かったので、(逆らうと殴られる。)前から殺したかったのだ。







「百四十六」



深夜、タクシーで帰宅した。



タクシーを降りたとき、右足になにか、ねばりつくような重みを感じた。



「お客さん、支払いはいいですよ。・・・・・・・・・・・・そいつをひきとってくれるならね」



運転手がそう言い残して、タクシーは走り去っていった。



足元から、げぅぇ、という声がした。






「百四十七」


朝、妻の肉体が消えていた。



枕には、妻の長い髪だけがへばりついていた。



わたしのスマートフォンに、



「がびぜろ様が来たから。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


という妻からのメールが残っていた。









「百四十八」



ある日、人間に絶望した男は、人間をやめようと思い、百の赤子を焼き殺してできた炭で、



顔を真っ黒に塗りつぶした。



「百四十九」



世の中で唯一、その男を愛した女は、彼と寄り添いつづけたいと思い、百の老人を焼き殺してできた灰で、



顔を真っ白に塗りつぶした。






「百五十」



やがて二人は、ぐちゃっとひとつになり、






がびぜろ様と呼ばれるようになった。





















































































































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