朝ご飯は和食に限る
気がつくと朝を迎えていた。
「んんっー、眩しいな。」
誰も聞いていない、ただ広いだけの、布団しかない部屋で一人そう呟いた。まるで、湯船に張られたお湯に、一滴の雫が落ちたかのように、部屋に響く。
「さて、今日も一日優雅にだらけますか!」
獺祭麗華は寝たまま伸びをして、布団から出た。
「今日は何をしようかな〜。せっかくの良い天気だし、外で散歩とか、カフェ巡りとかしようかな〜。うん、いいかも!なんか女子って感じする!」
そう決めて彼女はキッチンに向かい、朝ご飯の支度を始めた。
「お腹は空いてないし、程々でいいかな。納豆と海苔と卵焼き、それとお味噌汁があればいいかな!よしよし、健康的だ!」
そのメニューが本当に健康的なのかは全く分かっておらず、只々適当に口に出しているだけである。
それはともかくとして、彼女はいそいそと朝ご飯の準備を進めた。
お米を炊き忘れていることも知らずに。
あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!!と叫び声が聞こえたのは朝食の準備が済んだ(と思っていた)頃、つまり準備を始めて10分が経過した頃であった。
「あー、お米炊き忘れてるなんてなー。前にもこんな事やってたなぁ。ははは、いや笑えないな。草も生えないとはこのことか…。このお米大好きマンが2度もお米を炊き忘れるなんて、クソッ!なんたる不覚…!こんな姿天国のじっちゃんとばっちゃんが見たら悲しんじまうぜ!おらぁなんて祖父母不幸者なんだ!」
と、しょうもない一人芝居を一通り行なった後、お米を2合炊き始めた。
「それにしても、文明ってやつはすごいなぁ。一昔前はスイッチ1つじゃお米炊けなかったのに、今はこれが当たり前…。いつの日か人間が働かなくなって、全部ロボットにやらせるってことが本当にくるのかもしれないなあ。
まぁ私は既に働いてないんだけどね。お米炊けるまで時間あるし、少し布団で横になっていようかな。15分後にタイマーかけて…っと。おやすみなさーい」
誰もいない部屋であるが、こう言った挨拶は忘れずに行う。これが獺祭麗華である。
今から始まるのは社会からフェードアウトした自称奇跡のニート、獺祭麗華の休日を記した物語である。
そして彼女が次に目を覚ますのは4時間後の正午過ぎであった。
卵焼きはしまい忘れておりカピカピになっていた。