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1-4


 その後、王都から自前の足で1時間ほどの狩場で、二人は結局ちまちまとキラーラビットを狩っていた。

「中々しつこかったね、あのお兄さん」

「心底どうでもいい」

「いーかげん、もうちょっとその人見知り治しなよ」

「あ"!?」

 美人の凄んだ顔はかなりの迫力があるが、相手が子供のころから10年も付き合っている場合は除く。

「はいはい、よけーなお世話でした。さーて。こんだけ狩ったら十分かな?一日で終わったね、今日はさっさと帰って一緒にご飯たべ…」

「どうしたリカ」

 リカは急にあらぬ方向を向いた。数拍遅れてユウもそちらから人が近づいてくることに気付いてフードを被った。その人物は気配を隠すこともなくそのまま無造作に歩いてきた。


 

「おっ。だれかと思えばさっきの坊主たち」

「さっさと失せろ」

 ユウの聞きようによっては敵意も含む語調も気にせず、そのお兄さんはあくまで笑顔だった。この国の人間に多いこげ茶の髪に瞳の20代半ばぐらいの歳の平々凡々な見た目のお兄さんだった。腰に下げている剣は拵えはボロボロではあるが、こざっぱりとしていて手入れは行き届いているようだ。それなりに腕のいいハンターであろうことが伺える。


「おいおい、いきなりご挨拶だな。…大量じゃねーか。小さい方の坊主が言ってたことはホントなのか。お前がDなのは」

「うん。そうだよ。でもあんまり言いふらさないでね。こいつみたいに若い奴がDだとうるさい人もいるから」

 ユウとは対照的にリカは朗らかに答えた。

「はっはっは。言うなあチビスケ。分かった分かった、言いふらしたりしねーよ」

「話はそれだけか。行くぞリカ」

「いーじゃねーか、折角知り合ったんだから組んでみねーか?ああ、もちろんその既に狩ってある獲物の分け前を寄越せなんて言わねえよ?」

「断る」

 硬直しそうな空気にリカの明るい声が割入る。


「まあまあ、良いじゃん。バッティングしちゃったものはしょうがないし、このぼっちのお兄さんでもおと…生餌くらいにはなるよ」

「そうそう…っておい、なんでわざわざ悪く言い直した!?ていうか失礼だなぼっちとか!」

「チッ、仕方ねえな。勝手にしろ」

「お前もそこで納得すんなよ!!!」

「ところでおじさんは位階はいくらなの?」

「俺か?俺もDだぜ」

「へえー、中々だね」

「駆け出しの癖に生意気だな。そんだけ図太けりゃあ大物になれるぞ」

「ありがとうお兄さん」


「とっとと追い払え、あんな奴」

「害はなさそうだからいいじゃん。…それに、あのままだと寝ざめの悪い展開になりそうだったから。Dだから問題なかったかもしれないけど」

「どういう事だ?」

「…兎に角もう引き上げよう」

 勝手に話を進めるリカの耳元でおっさんに聞こえない様に抗議するユウに、リカも小声で答えた。

「おーい、気持ちは分かるが感じ悪いぞー」

「お兄さん、さっき組もうって言ったけど、俺たちもう引き上げようかと思うんだ。お兄さんはどうする?」

「実は俺も引き上げようかと思ってたところなんだ。一緒しようぜ。なんだか今日の森はいつもより静かでな。実入りもなさそうだ」


「ところで、俺の名前はガイだ。坊主たちの名前は?」

「俺はリカード」

「…ユウ」

 他の二人の、主にリカの視線を受けてユウも嫌々名乗った。そこでまたユウは背後を振り返った。


「…なるほどな」

 ちらりとリカと目を合わせると、リカは肩をすくめた。


「おいお前、死にたくなかったら木の上にでもいろ」

「は?」

「魔物の群れに囲まれたみたい。ユウに任せて木の上に避難した方がいいよ」

「は?チビスケいつの間に木の上に、っておいおい」


 話についていけていないガイを無視してユウと名乗ったフードの男は、もうこちらに背を向けて周囲を警戒していた。


「群れって、何がどのくらい一体どこに?」

 声をかけるがユウはこちらに目もくれない。次の瞬間、ユウのマントが揺れ、そちらの方角の茂みから獣のうめき声がした。数秒後に、彼が何か飛び道具を使ったことに理解が及んだ。次の瞬間ハウンドウルフの群れが全方位から姿を現した。


「なっ」


 ハウンドウルフの危険度はD。単純に位階で考えれば対応可能な範囲内だ。だがそれはパーティを組んだ場合の話だ。少なくとも10頭前後で群れを形成するこの魔物は、下位ランクのハンターが単独で挑むようなものではない。

 この木の上に避難した子供は、兄貴分の実力を妄信して呑気に構えている。内心ぼろくそに罵って、初対面の推定剣術主体のこの男と近距離(ショートレンジ)でもなんとか切り抜けるしかないと判断し、剣を抜いたガイは全く正しい。


 だが、例外というものは常に存在する。


 ユウは単独で飛び込んで行き、チビスケの言葉通り一人でハウンドウルフの群れを圧倒していた。


 なんといっても手数の多さが尋常ではない。マントで見えなかったが、ユウと名乗った男は双剣使いだった。右の剣で一匹の首を刎ね飛ばしたと思ったら、左の剣は一匹の胴を薙ぎ、返しの動作でさらに一匹仕留めている。一太刀で2匹仕留める事さえある。まるで初めからそうなると決まっている演武のように、吸い込まれるように銀閃がハウンドウルフの急所を切り裂いていく。


 おそらく30頭前後の群れだったハウンドウルフは、ユウが半数程度切り倒したところで撤退していった。チビスケが避難している大木を背にしたガイは、ユウを警戒してこちらを威嚇するだけのウルフとにらめっこするだけで終わってしまった。




「こりゃあ…すげえな」

「いった通りだろ?」

 これまたいつの間にか木から降りてきた、リカードと名乗った子供は得意げだった。



「というわけでお兄さん、荷物運びのアルバイトはどう?」



ストックはここまで。次話からの更新はぼちぼちになります。

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