秘密
今日も前向きに。
「お願い…!助けて…!」
「今助ける…!必ず…!」
なんで、なんで彼女を───────
ジリリリリリリ!!
いつも通りの大きな音がなる。なんか大事な夢を見ていた気がするが、思い出せない。学校が始まって一週間。そろそろこの生活にも慣れてきた。
いつも通りの制服。いつも通りの髪型。
「裕大、起きろー!↑↑」
そしていつも通りの声。学校が始まって一週間。毎日美幸と登校している。何気ない会話も美幸が上手く花を咲かせて盛り上げてくれる。
「弁当と水筒持った?」
またこれか。毎日聞いてくる。お世話係も俺の面倒見るの大変なんだな。と思ったその時、思い出した。弁当をカバンに入れた記憶がない。
「あー…弁当忘れた」
今更取りに行くのはめんどくさい。
「どうすんの?」
「コンビニで買う」
母親には申し訳ないが、その弁当は母親の昼にでも食べてもらおう。と思いメールで連絡を入れる。
登校途中にあるコンビニに立ち寄り、弁当を眺める。すると、一人の女子生徒がコンビニに入ってくる。
ギョッとした。その生徒は肩にエンブレムをつけている。伊切高校の制服でエンブレムをつけているのは、生徒会のメンバーのみ。
生徒会は伊切高校のエリートの集まりで主に2年生中心となる組織である。学校の運営を行い、様々な行事の軸となり運営するのだ。
生徒会の話は担任の鈴木先生からも散々聞かされた。とにかく優秀らしい。
そしてその女子生徒は生徒会の中でもトップの生徒会長のエンブレムをつけている。
彼女の名前は"西村 結衣"入学式でしか見たことなかったが、こんな所にいるとは…と思いながら危機感を感じる。
入学式で察していたが、すごく厳しいのだ。ルール、マナーに厳しく、先生でもあまり接することはない…らしい。
あまりに恐ろしく目線をそらすことしかできない。本能がそう語りかけてくる。
キリッとした目つきは相手を怯ませるほどの威圧感を放っており、猛獣のようだ。
生徒会長も弁当を選び始めたので、無意識に脇へ行き、生徒会長が選び終わるのを待つ。すると
「裕大、お前弁当選ぶの遅スギィ!」
おい、静かにしろ!生徒会長がいるんだぞ!と言いたいが声に出ない。生徒会長は声の主、美幸の方へ振り向く。
(生徒会長に目つけられて、学校生活終わったナリ)
俺はそう確信した。生徒会長に謝る言葉を必死に考えたが、生徒会長のピリピリした雰囲気は消えていた。
「ああ、美幸か。久しいな。会えて嬉しいが、コンビニでは静かにな」
訳がわからない。生徒会長のイメージが自分の中で崩れ去り、混乱する。
「結衣こそ、こんなところにいるんだ。びっくり。」
「ああ、弁当を忘れてしまってな」
意外と普通の人間だったってことに安堵し、そして同じ理由で弁当を買いに来たことに驚く。
「裕大と一緒なのね。ん、彼が裕大」
と俺の手を引っぱりそばへ寄せる。目の前に生徒会長がいるのはやはり緊張する。しかもすぐ目の前に。
「裕大君は美幸の彼氏なのかい?」
想像の範疇を超えた質問に驚く。返答しようと言葉を探していると
「違う、幼馴染よ!」
ホッと胸を撫で下ろす。美幸のコミュ力の高さに改めて感心する。
「そうか、美幸とは仲が良さそうだな。ありがとう。これからも美幸をよろしく頼む。」
生徒会長の言葉は優しかった。丸みのある、全てを包んでくれそうな優しい声。
コクン、と頷く。
生徒会長はレジで会計を済ませ、足早に駅へ向かっていく。
「緊張した…。美幸はなんであんなに話せるんだよ」
「だって、昔から知ってるもん」
会話を振り返ると、互いに名前で呼び合っていたことに気付く。
「いつからの友人?」
「中学校ぐらいかな、ほら、裕大が────」
美幸はハッとした顔で会話を止める。
「ん?俺が?」
すかさず返す。そこまで言ったなら言ってくれてもいいのに。と思う。
「ん、何も無いよ。親が仲良くて、それでね」
「ふーん、そっか」
会話を止めた理由がわからないが、気にしないことにした。
「ほら、はやくいこ!学校遅れるよ!」
美幸に手をひっぱられて、駅へ向かった。