青年、決意をする。
…武士の世は終わったのだ。
性別が変わって生まれ変わる。最初はパニック状態が続いていたが、数年生きたら違う身体にもなれてきた。
前世では許されなかった事をしまくろうと決意した。
周防隆文のご先祖様は立派な武士やら帝国軍人が多かったらしく家風や家訓も質実剛健、質素倹約、文武両道を掲げていた。
男子たるもの弱きを助け強きをくじく。強く誠実に主君に忠誠を誓い身を粉にして働けといった感じで、今って何時代?とセルフツッコミ満載であった。
周防隆文は可愛い物、お洒落な物、女の子が好きそうな物もこよなく愛していた。
大和撫子な姉妹達が、親から強制されていた習い事を羨ましいと思っていた。
料理、お裁縫、お茶にお花のお稽古、ピアノに琴に習字に薙刀。
最後はいかがと思うが、文句を言いながらも楽しそうに教室に通う姉妹を羨んでいた。
学習塾に剣道空手柔道合気道弓道ボクシングにスイミングに乗馬に習字そろばんを習わされた自分。武士の世は終わったのだと叫びたかった。茶道と華道だけは姉妹と習わさて貰えたが、もう一度言う武士の世は終わったのだ。
ぐれるなんて力はなかった。毎日毎日習い事と学習塾の往復でくたくたになったらそんな反発心など折られる。
屈折した心はある日救われた。
生きる力をつける為と言われ子供サマーキャンプに投げ込まれたのだ。
そこで生涯の親友となった守口猛に出会ったのだ。
話し掛けたのは周防隆文からだった。
猛暑の中、やみくもに山中を歩き回るという虐待一歩手前の行進で列から離れてしまった少年の元に駆けて行って声をかけた。
「大丈夫かい?水を飲むと良い。リュックを僕が運んであげるよ」
「あ、ありがとう。でも、水はもう無いんだ。薬の時間にこぼしてしまったから…」
「薬って。身体悪いの?僕のを飲んで少し休もう。君もお父さんとお母さんに無理矢理参加させられたの?」
「ははっ。違うよ。パパとママは反対をした。僕がどうしても参加をしたくて主治医の先生にお願いして、パパとママを説得してもらったんだ。…病室からいつも見ていた山なんだ。キャンプがしたい、同年代の友達が欲しい、夏の空の下で汗を流したい。夢が叶ったんだ。誤算は僕自身の体力がなかったことだね……」
少年の言葉に衝撃を受け、更に少年がぶっ倒れた事に更なる衝撃を受けた。
守口猛を背負うと、集団の先頭を歩く責任者の元へと全力疾走した。
自分にとっての当たり前が他人にとっては当たり前でない。その事に気付かされた。自分の面倒臭いが誰かにとっては憧れであり夢である。走りながら泣いた。同い年だというのに彼は自分自身を知り戦う事を知っている。自分の病と戦っているのだ。
心技体が揃わなければ一流の武人にはなれない。
武人になりたいとは思わないが、心が強くなりたいと思った。
あまっちょろいくせに自分は強いと思っていた自分を変えてくれた守口猛に友人になってくれと頼みこんだ。
そうして文通友達となった。長期休暇には必ず彼のお見舞いにいった。彼は博識で多趣味で自分も武術以外にも趣味が持てた。
高校は示し合わせて同じ高校にした。全寮制。アルバイトでお金を稼ぎサークル参加をした。
《ふみたけや》
守口猛が文を書き周防隆文が絵を描いた。
萌えキャラをドールやフィギュアとして再現した。
幸せだった。屈折していた、溜め込まれていたストレスが作品へと昇華されていったのだ。
周防家家訓《男は寡黙で働き者であれ。》
働き者は良いけど、今時寡黙すぎるのって人生において不利じゃね?とセルフツッコミ(以下略)な暮らしの反動として、学友に対してフレンドリーな犬、間違えたフレンドリーな青年へと変われた。
そう。変われたのだ。人間はいつでも勇気が持てれば変われるのだ。気づければやり直せるのだ。
周防隆文はノワール・キャスティン・フミールへと変わった。
周防隆文が姉妹と親友とともにこっそりと攻略に燃えていたゲーム《赤の乙女と緑の乙女。恋愛・友情・冒険・商売・格闘・ホラー・育成・推理・ハーレムあなたの選択でゲーム内容は変わります!》
これって何のゲームよ?とツッコミ満載のゲームの緑の瞳の主人公へと変わった。ちなみにこのゲーム、性別が男も選べた。男を選択するとしょっぱなからもう片方も男になり親友。男性キャラが女性キャラになり登場していた。
女性として、前世で出来なかった事を全てやる。
緑のポコポコタヌキ、ではなくノワールとして俺は生きよう。攻略をはじめていた商人エンディングを目指そうと決めた。
職人でも良いな。自分で作品を作って売りたい。作るのも売るのも楽しかったし。
そう、生まれ変わった今生こそは、武術とか武士道とは解き放たれて生きていくのだ。
希望に満ちている幼女。