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館は森の奥に
広大な国境沿いの領地を越え、隣国まで広がりをみせる、深い森。
夜の国のような森林地帯に、窪みのような浅く広い谷がありました。
丁度、森の裂け目のように、その窪みは存在します。
まるで、何かの入り口のように。
館は、そこにあるのです。
『赤薔薇の館』。
領民は皆、その小城のような建築物を、そう呼んでおります。
そして、恐れているのです。誰も近づきません。
その館に住むのは、ただ二人。
勘当された貴族の子女と、その召使だけ。
今、その妖しげで上質な館に、一人の少女が、『貢物』として、やってきました。
彼女の名前は、シエラというそうな。
シエラは、妖しくも上質で、そして広大な『赤薔薇の館』で、一体何を見るのでしょう。
――――そして。
彼女は何処へ、連れて行かれるのでしょう……。