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序 ユメの道化はかく語りき

 叶わなかった夢はどこへ行くのだろう。

 人が夢見て、そうして諦めてしまった夢は一体どこへ行くのだろうか。

 夢に破れた気持ちが何処にも行き場がないように、諦めてしまった夢も今頃どこかで行き場を失くし、彷徨っているのだろうか。

 だとしたら、それはなんて―――――惨め、だろう。

 社会のことなんて何も知らないころに見た夢は、大体が途方もないくらいに無計画で無秩序で、大きくなって振り返ってみると呆れてしまう。

 もっとも、その成りたいものすら、本当は大人達に流され、形づくられただけの紛いものに過ぎないのだけれど。

 夢は逆夢。

 現実と夢は異なる。

 時が経つにつれて、荒唐無稽な夢は形を整えられていき、段々と現実に侵食されて――――これはできる。あれはできない。なんていう限界で肉付けされていく。

 今では将来の夢は、正義の味方でもなければ、スポーツ選手でも、勿論お嫁さんでもない。公務員というのだから、情けなくて笑えてくる。

 こんな不況を煽る馬鹿ばかりの世の中じゃ、安定安心が一番というわけだ。

 夢よりも実利をとる世の中じゃ、簡単に夢なんてやつは捨てられる。今、こんなくだらないことを言っている間にも、拡大再生産された大量の夢の成れの果て、産業廃棄物よろしく、膨大な数の夢がうち捨てられている。

 夢を拾うものも、継ぎをあてるものも無く、ただ無残に投げ出され、朽ちゆく時を待っている。この大量消費の世の中じゃ、少しでも傷ついた夢なんか、必要ないのだから。


 サキノハカ。

 そう呼ばれる場所がある。

 夢が最後に行きつく場所。

 夢の最終処分場。

 そこは世界の果てにあるとも、人の隣にあるともいう。

 行くことは簡単だが、戻ってくることは珍しい。

 サキノハカ。

 誰もが夢見て多くが諦めた、夢の行きつく死後の場所。

 サキノハカ。

 そこは夢の通い路。現実と夢の交錯するたった一つだけの場所。

 

 この話は、夢に破れた男が、それでも夢見ることを止められなかった。そんな格好の悪い話だ。



 さあさ、よってらっしゃい。見てらっしゃい。


 子どものころに見た夢ってやつは今思うと、途方もなさ過ぎて呆れちまうね。

 正義の定義なんてどこへやら、ただ目の前の悪そうな奴を殴り倒す正義の味方に憧れた少年や、結婚生活の煩雑さも知らず、きれいなドレスに憧れて、お嫁さんだなんて可愛らしくも願った少女……。

 そんな時代もあったのさ。

 考えなしの成りたいものが、子どものころの夢だった。

 成れないなんて思わない。

 なりたきゃなんでも成れたのさ。

 夢は叶わないから夢なのさ……なんてね。

 現実を知った子どもはすぐさま夢を下方修正。

 優しく金持ちかっこいい。……しょうがないから、優しさかっこよさは妥協しよう。

 ほどほどならいいか。ってな具合にね。

 身の丈にあった幸せを。身の丈にあった夢を、ってなもんだ。

 現実に夢は磨かれる。

 大きく膨らんだ夢という名の原石を、ギコギコ削って、できないものはサヨナラさ。

 あっという間に、小さくなった夢を抱えて、右往左往であっぷあぷ。

 これが現実、仕方がないさ。

 それは見事な宝玉か? それともチンケな石ころか?

 チンケな石ならまだマシさ。中途で割れる屑もある。

 もっとも今次の一番人気は、正義の味方でもお嫁さんでもないときた。

 手厚い保険に、退職金。定時に退社。公務員だっていうんだから、つまらなさ過ぎて笑えちまう。

 安心様様。普通の生活で親御さんも一安心、というわけだ。

(なに? 普通が悪いのかって? そんなこたないさ。普通は一番難しい。普通なんて世の中に一つだってないんだからな。まあ、そんなことは置いときまして)


 そんな夢よりも実利をとる世の中じゃ、簡単に夢なんてやつは捨てられる。

 今、この瞬間にも拡大再生産された大量の産業廃棄物よろしく捨てられている。

 非難に、否定に、諦めと。

 夢は継ぎ接ぎされることもなく、ただ無残に打ち捨てられる。

 少しでも傷ついた夢なんて、今の子どもにはまったく必要ないんだ。

 夢なんて規格品。そこらを見てみりゃ、ごろごろ転がってやがるんだからさ。傷がついてみっともなくなりゃ、捨てちまって、新しく拾い直せばそれでいい。

 どいつもこいつも同じようなもんだろう?


 話は変わるが、俺の夢は継ぎ接ぎだらけだ。

 おっと、勘違いはしないでくれよ。別に夢を捨てずにいることを誇るつもりなんてありゃしない。子どものころに見た夢を捨てられないなんて、ただの大人になれないガキでしかないんだからな。

 まったく、なんて惨めだろう、って話さ。

 俺もまっさら新品の安心安全な夢が欲しいもんだが、どうしたって出来やしない。

 どうしてか、って?

 よくぞ聞いてくれました。それがこれから俺の話すことさ。

 ま、話し終えたとこで分かってもらえるかどうか分からないが、少しばかりお耳を拝借させていただきましょう。


 つまんなければ、御愛嬌。

 面白ければ、拍手喝采。万々歳のめでたし、めでたし。どんとはれ、ということで。

 さあて、それじゃあ、惨めな惨めな夢物語をはじめるか。



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