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はじまりの旅  作者: 藍澤 昴
第2章「ニタと幻の不死鳥」
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「おい、洞窟はどこに行った。」

「ん、どこだ?確かこっちの方だと…。」

 洞窟の入り口を求めてふらふらと彷徨いだす二つの影。

「この感覚、なんか妙だ。自然的ではないが、決して人工的ではない。魔法の類か?」

「さすがリタルダンド。こんな糞田舎にも魔法が使える者がいるんだな。」

「まぁ、相手は希少種だ。ニルヴァ自身が魔法を使えてもおかしくはない。いずれにせよ、ニルヴァが近いことだけは間違いない。どこかに手がかりはあるはずだ。探すぞ。」

 二つの影は手分けして手掛かりとなるはずのものを探し始めた。

 クグレックは異常に緊張していた。山賊に見つかるかもしれない恐怖と魔法が途切れてしまうかもしれない不安がクグレックを襲ったのだ。ニルヴァを守るという責任はクグレックの幻影の魔法の成功の可否にかかっている。クグレックが失敗してしまえば、ニルヴァが山賊に殺される。常に祖母の後ろに隠れ、家に引きこもっていた世界を知らない小娘には、初めての大きなプレッシャーだった。クグレックはここまで深刻な『責任』を負ったことはなかった。

 今や祖母はいない。唯一の頼れる仲間のニタさえもいない。

 晩秋の夜、全く以て暑さは感じられないのに、クグレックは焦りから額から数粒の汗を流した。

 幻影の魔法はイメージが大切だ。イメージが鮮明であればあるほどその幻影の現実感が増す。クグレックは杖に意識を向けて集中した。今は恐怖や不安にとらわれることなく、ただ目の前に成すべきことに集中した。

 が、その時、クグレックはふいに自身の体が宙に浮くのを感じた。幻影が揺らいだ。

 気が付くと、クグレックは力自慢のリックに担がれている。

 リックの背後から聞こえる乱暴な怒号。防衛班一行は山賊にあっけなく見つかってしまったのだ。クグレックは集中しすぎて、山賊が近づいて来たことに気が付かなかった。ビートが何度も声をかけたが、クグレックには届かず。仕方なくリックが強硬手段に出て、クグレックを担いだのだ。

「魔女さん、気が付いたかい?どうやら我々は見つかってしまったらしい。合図を上げてくれるな?」

 ビートが困った表情でクグレックに言った。クグレックがあそこまで集中するとは思っていなかったらしい。

 クグレックはリックに抱えられたまま頷くと、立ち止まってもらって、自身の足で立った。そして、山賊に向かって杖を向けた。

「イエニス・レニート・フル・グランデ。はじけろ、火の花!」

 と、唱えると、杖の先から色とりどりの炎が飛び出し、山賊たちの目の前でパンと音を立てて破裂した。破裂した炎が山賊達に燃え移ることはなかったが、彼らの足を止めるには効果覿面であった。

 クグレックはさらに杖を夜空に向かって上げ、大きな声で「もっとはじけろ!フル・グランデ!」と叫んだ。

 すると、杖からは山賊に向かって飛び出していった炎よりも更に大きい炎が飛び出していき、上空で綺麗な花を咲かせた。

「山賊ども!こっちには本物の魔女がついている。近付いてみろ!今の花火をお前らにぶつけてやる!」

 ビートが言った。が、山賊達はひるむことなく向かって来ようとしたので、クグレックはもう一発花火を夜空に上げた。

 晩秋の澄んだ夜空に大輪が咲き開いた。

 ビートからのアイコンタクトによる指示を受け、クグレックは杖の先を山賊に向けた。

「さぁ、これ以上近付いてみろ。お前たちは魔法によってあの花火を全身に喰らって大やけどだ。」

 力自慢のリックやビート、エイトは、一様に携えて来た武器を手に構えた。

 山賊達はたじろぎながら一歩後ずさる。

 クグレックは杖を振り上げた。杖の先からは炎が飛び出した。先ほど山賊達に向かっていった炎よりも数倍大きい。

 花火のように爆発した火花は山賊達の服や髪に燃え移り、勢いよく燃え上がった。

「うわああ!」

 山賊達は狼狽えて、地べたを転げ回る。

 ビートたちはやったという表情をしたが、クグレックだけは静かに首を振った。

「どうしたんだい?」

 ビートがクグレックの様子に気付き、声をかけた。

「…ごめんなさい。あれは幻です。熱さや痛み、苦しさといった幻影を生み出すことは出来ましたが、そのうち幻だと気付かれてしまいます…。」

「なんだって!」

 クグレックはそれ以上喋らなかった。ニルヴァが殺されるのも嫌だが、自分が放った魔法で誰かを殺すのもひたすらに怖かった。だから、花火の魔法をクグレックは山賊達に放つことが出来なかったのだ。

「とりあえず、逃げよう。」

 防衛班の4人は体制を整えるために、洞窟へ向かって逃げて行った。

 クグレックは更に山賊の周りの木々にも炎がうつり燃え上がる幻をかけて、洞窟に向かおうとした。

 駆ける足が重く感じられた。汗もだくだくだ。頭もフラフラしている。クグレックは巻き毛の男達の背中に着いて行くのがやっとだった。何度か倒れそうになったが、なんとか洞窟の中までたどり着いた。

 洞窟の中に入ると、再び幻影の魔法をかけ、入り口を塞いで見せた。

「花火を上げて後30分くらいで襲撃班が合流するだろう。どうやって時間稼ぎをするかが問題だ。」

 ビートが言った。

「魔女さんの魔法があれば、洞窟は見つかることがないだろう。しかし…。」

 男達はクグレックを見る。クグレックは杖にもたれかかってしゃがんでいるが、一点を見つめる目はうつろで、汗を大量にかいており、様子がおかしい。話にも混ざって来ない。

「魔女さん、体力が限界なのかもしれない。あのニタの話によれば随分な箱入り娘だったから、体力が極端に少ないらしい。昼間にここまで来るのにも魔法を使い続けていた魔女さんは疲れていた。魔法を解いたら、魔女さんの体力は回復してきた。もしかすると、幻の魔法はもう持たないかもしれない。」

「そしたら、あとは我々であいつらを迎え撃つしかないな。」

「そういうことだ。」

 その時、どさり、という音が聞こえた。杖によって体重を支えていた魔女の娘が倒れたのだ。

 男達は洞窟の入り口をみた。洞窟の入り口はぼんやりと靄がかっており、まだ幻は解けていないようだ。

「もうじき、だな。」

 うつ伏せに倒れているクグレックを抱き起こし、荷物を枕代わりにしてリラックスした体制で寝かせると、男達は武器を取り、臨戦態勢に入った。

 洞窟の外では、幻に包まれていた山賊達が現実に戻り、血眼になってクグレックや男達を探していた。洞窟の入り口は徐々に靄が薄くなっていた。


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