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はじまりの旅  作者: 藍澤 昴
第2章「ニタと幻の不死鳥」
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 そして、食事を終えた頃、ニタは何かを決意したかのように立ち上がり、男達の方へ歩いて行った。クグレックは後を追おうと思ったが、知らない男性達の中に入っていくのは気が引けた。ニタが離れて行ってしまったことを不安に感じながら、男達の一群を見つめる。

 ニタはぽてぽてと男達の環の中に入り、大きな声で「たのもー!」と言って男達の気を引いた。

 男たちは「なんだなんだ」と言ってざわつき、男たちの視線はニタに集中した。

 ニタはテーブルの上によじ登ると仁王立ちになり、拳を突き上げてのたまった。

「我は勇敢なるペポ族の戦士ニタなり!此度の希少種ニルヴァのための山賊退治、ニタも参加しよう!」

 一瞬の沈黙の間。

 そして爆発的に起こる嘲笑の声。

「なんだ?ぬいぐるみ風情の人外に何が出来るってんだ。」

「子供の遊びじゃねえんだぞ!」

「のんびりポルカの観光でもしていきやがれ!」

 ニタはバンとテーブルを踏み鳴らし「うるさーい」と叫んだ。男たちは、びっくりして、再び静まり返った。

「ぬいぐるみ扱いするんじゃない!ニタはニタだっつの!ニタの手にかかれば、お前らなんて一捻りなんだからな!ほら、そこのでっかいの、ニタを殴ってみろ!」

 ニタはぴょんとテーブルから飛び降りた。そして男達の中で一番体格の大きい男に対して、来い来いと言わんばかりに手を仰ぎ、男の攻撃を待つ。

 男は、なめんなよ、と言いながら、手を鳴らし、腕を回した。ゆっくりとニタに近付き、その丸太のように鍛え上げられた上腕二頭筋を振り上げ、ニタに向かって拳を放った。

 ニタは「楽勝楽勝」と言って、その猛虎の如き拳を、可愛らしい肉球のついたもふもふとした白い毛に包まれた手で、衝撃ごと受け止めた。余裕の表情を浮かべて、ニタは「もっと本気だしたら?」と煽る。

 男はこめかみに青筋を浮かばせながら、拳に力を入れるが、ニタはびくとも動かなかった。

 しばらく力比べが拮抗していたが、ニタは片手で口を押えながらあくびを一つ。

「ふわぁ。あんまり暴れると、おかみさんに迷惑がかかっちゃうからね。このデカいお兄さん、今から倒れちゃうから、周りのお兄さんは支えてあげてね。じゃ。」

 ニタは拳を受け止める力を少し弱めると、それまで拮抗していた力のバランスが崩れ、男は前にぐらついた。その隙をつき、ニタは飛び上がって男の顔に向かい、可愛らしい肉球を握りしめ、殴りつけた。

「肉球パンチ!」

 ニタに殴られた男は、今度はニタのパンチの衝撃を受け、仰向けになって吹き飛ばされた。取り囲む男達が飛んできた男を支えたため、倒れることはなかったが、男の頬っぺたにはニタの可愛らしい肉球跡が残っていた。

「どうだ!」

 ニタは腰に両手をあて、胸を張ってふんぞり返った。

「村一番の力自慢のリックを手籠めにするとは。しかし…。」

 ニタが殴り飛ばした男、リックとニタを交互に見回しながら、口籠る巻き毛の男。その表情は戸惑いに包まれていた。


「あ、あの」

 と、そこへ、一人の少女が立ち上がった。

 黒いローブをを着た黒髪ショートヘアの16歳の少女、クグレックだ。右手にはスプーンを持っている。口を付ける方を握って柄を男たちの方に向け、立ちはだかった。

「クク」

 ニタは思わず叫んだ。

「わ、私はドルセード王国のマルトの村から来たクグレック・シュタイン。ま、魔女です。」

 『魔女』の一言に男たちは「魔女だって?」「本物か?」「こんな女の子が」と、どよめいた。

 少々上ずってはいるものの、しっかりと声を張り上げて、クグレックは続けた。

「私もニタと一緒に行動します。だから、同行を許してください。」

「え、君みたいな女の子じゃ危ないよ。しかも、魔女だなんて嘘ついちゃって。」

 当惑しながら巻き毛の男が言う。

「え、嘘…?」

 クグレックも困惑した。クグレックは渾身の勇気を振り絞って、自身が魔女であることを打ち明けたのだ。マルトの村人達のように、襲い掛かってくるかもしれない恐怖を乗り越えて明かしたというのに、目の前の人々は全く以て動じない。

 世の中の、世界における魔女という存在は一体どうなっているのだろう。クグレックはどうしたら良いのか分からなくなったが、スプーンを握りしめる手に力を込めた。

「わ、私は魔女です!獅子よ、襲い掛かれ!」

 クグレックはスプーンの柄を一振りした。すると、クグレックの目の前に靄が発生し、その中から一頭の獅子が現れた。獅子は低い唸り声をあげ、男達を威嚇する。巻き毛の男の方へゆっくりとにじり寄り、大きな咆哮を上げたかと思うと、巻き毛の男に飛びかかった。巻き毛の男は尻餅をつき「うわぁぁぁ!」と悲鳴を上げた。

 

 と、思いきや、彼の体は無傷だった。

 たった今、自分を襲おうとした獅子はどこにもいない。黒いローブを着た黒髪ショートヘアの一人の少女が緊張した面持ちで巻き毛の男にスプーンの柄を向けて立っているだけだった。

「今のは、一体?」

 きょろきょろあたりを見回しながら巻き毛の男が言った。

 周りの男達もざわめく。

「確かに、今、獅子がいた。」

「ビートに襲い掛かったと思った。」

「でも、突然消えた。」

「何だったんだ?」

 男達もまた目の前の不思議な出来事に頭の処理が追いつかなかった。

 その時、マシアスが立ち上がり、ようやく口を開いた。

「今のが魔法だよ。」

「今のが、魔法…?」

 巻き毛の男が尻の埃を叩き落とし、マシアスの方を向いて立ち上がりながら呟いた。

「幻を見せるのも魔法だ。お前たちは魔法は見たことがなかったか。」

「は、はい。白魔女様がたまにいらっしゃいましたが、彼女は治癒魔法専門で、このような魔法は初めて見ました。」

「白魔女が来ることの方が珍しいけど…。ビート、この二人、連れて行こう。」

「え、でもこの二人には危険ではないでしょうか?」

「ニルヴァを狙う山賊は大したことないから、この二人でも大丈夫だ。」

 マシアスはニタとクグレックに目くばせをした。二人は嬉しそうに顔を見合わせ、声を揃えて

「よろしくお願いします!」

と深々と頭を下げた。


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