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はじまりの旅  作者: 藍澤 昴
第2章「ニタと幻の不死鳥」
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**********


「ここの村の人は優しい人が多いのかな。」

「うん。なんだかそんな気がする。」

 宿屋の部屋を宛がわれた二人は荷物を置いて部屋でのんびりごろごろしていた。外に散歩に行くのも良かったが、これまでずっと歩き通しだったのだ。二人はとにかくゆっくり休みたかった。特に貧弱なクグレックにとって休息は大事だった。

「マルトってさ、」

 ニタがぽつりと呟いた。

「北の辺境の地にあって、他との交流がないから、どこか閉鎖的で冷たい印象がするよね。」

「そうなの?」

 マルトの村しか知らないクグレックにはニタの言うことが理解できなかった。

「うん。なんというか。エレンは優しかったけど。土地柄っていうのがあるんだよ。」

「トチガラ。」

「そ。ほら、温かい土地の人は大らかだって聞いたことがある?」

「なんで?」

「うーん、たしか、温かい土地は食べ物も豊かでひもじい思いをすることがないし、温かくて服もそんなに着なくていいから開放的な気持ちになるみたいだよ。ククも夏になると、わくわくしない?春でも良いけど。」

 クグレックは、春を思い出す。確かに、春から夏にかけては寒い思いをしなくても良いので、嬉しい。温かい土地の人は常に嬉しい気持ちでいるのだろうか、と考えると、クグレックは温かい土地の人々が羨ましくなった。

「因みにニタも食べ物に困らない過ごしやすいところに住んでいたから、こんなにおおらかな性格なのさ。」

 鼻高々に語るニタ。

「え、ニタはメイトーの森出身じゃないの?」

 クグレックの問いにニタはパチパチと瞬きを行う。ニタは一言「うん」と頷くだけで、それ以上は語らなかった。表情豊かなニタの表情が消えた。だが、またいつもの調子で「だから、メイトーの森はニタには寒かった。」と言った。

 妙な雰囲気が流れてしまい、クグレックは話しづらくなってしまった。

 ニタがフード付きのローブを着てから、クグレックはニタとなんとなくギクシャクしている。

「さ、クク、そろそろ夕ご飯の時間だし、食堂の方に行ってみようよ。」

「う、うん。」

 二人の部屋は2階にあり、1階には宿屋受付と食堂兼酒場があった。正面ロビーの階段すぐ横に受付があり、壁一つ隔てて食堂がある。食堂は大勢の男たちが集まり賑やかで、酒場としての面を色濃く映し出していた。

 クグレック達を招いてくれた宿屋兼食堂のおかみさんは忙しそうにしていたが、二人を目にすると、笑顔で席に案内してくれた。窓際の二人掛けのテーブル席だ。

「ごめんね。村の自衛団の男たちが、決起集会で飲んだくれちゃって。ちょっとうるさいと思うけど、我慢してね。」

「自衛団?」

「そ、自衛団。最近山賊がこの辺を荒らし始めててね。狙いがこのあたりにしか存在しない希少種なのよ。それらを守るために、村の若い男たちが立ち上がってね。まぁ、山賊なんかに手なんて出さない方が良いと思うんだけどね。」

「希少種…。」

 ニタが呟いた。おかみさんは、男達に酒の注文で呼ばれ、「ご飯はすぐに出すからね」と言って慌ただしく二人の元を去って行った。

 希少種とは、不思議な力を持った生き物のことで、生息数が極端に少ない希少な存在なので、希少種と呼ばれている。白猫の姿をしたメイトーも希少種であるし、人語を操り力持ちなニタも希少種である。

「なんだかとってもにぎやかだね。」

 決起集会を行う男達を見ながら、クグレックは言った。男達は自分たちに喝を入れたいのか、ただ皆で集まってに楽しく飲みたいだけなのか、良く分からない。ひたすら楽しそうである。


 ただ無造作に酒を飲む青年団の中の20代後半程の男性がパンパンと手を叩く。黒くてちりちりとした短い巻き毛の体格のいい男性だ。

 男たちは、騒ぐのをやめて、巻き毛の男に注目した。

「我々は明後日より、ポルカ高原のみ生息が確認される希少種ニルヴァを狙わんとする山賊を討伐に向かう。ニルヴァは我々ポルカの民にとっての友であり、象徴でもある。尊き存在を踏みにじる外からの輩に、我々は立ち向かわねばならぬ!リタルダンドの英雄フーコの如く悪には立ち向かわなければならぬ!」

 巻き毛の男が、重々しく言い切ると、周りの男たちは「うおー」と酒の入ったジョッキを突き上げ声を上げる。

「ただ、我々には山賊と争うには経験が少なすぎる。そこで、我々は上級ハンターのマシアス氏の手を借り、山賊に立ち向かう。マシアス氏、どうぞお言葉を。」

 そう言って、巻き毛の男が手を差し伸べた先のマシアスと呼ばれた男は、嫌そうに手を振った。マシアスは頭にターバンのような布を巻き、スカーフ、マント、ローブといった長さのある布製品を重ねて着た男性が座っていた。伝統的な砂漠の民の衣装だ。

 巻き毛の男は腰を低くして

「いやいや、マシアス氏、皆、貴方の言葉を欲しがっているんです。ここは是非。」

 と、食い下がることなく笑顔で言った。

「いや、いい。俺はお前たちのことを助けるだけだ。山賊を倒し、お前たちが大切と思う希少種を守りきるだけなのだから、それ以上はいいだろう。」

 そう言って、マシアスは杯を仰ぐ。だが、巻き毛の男を初めとした青年団は言葉を貰えたことが嬉しかったのだろう。再び「うおー」と大きな声を上げて、嬉しそうに傍の同志と自らの杯をぶつけ、飲み干し合う。男達から「おかみさん、酒おかわり」の声が立て続けに上がった。

 それからはまた、豪快で騒々しい宴会が再開された。

 しばらくして、おかみさんがニタとクグレックの席に食事を持って来た。美味しそうなデミグラスソースの煮込みハンバーグとコーンクリームスープと焼きたてのパンだった。

 数日間は野宿で粗末な食事だったので、二人は暖かみのある食事が嬉しかった。

「おいしいね。」

 と、ククが言った。

「うん。とっても美味しい。」

 コーンクリームスープを啜りながらニタが言った。

「あの人たちは、ニルヴァっていう生き物を山賊から守るんだね。ニルヴァって、マルトで言えばメイトー様みたいなものなのかな。」

 クグレックからの問いに対して、ニタはその味を堪能するかのように目を閉じてコーンスープを啜った。

「多分ね。そんな存在を狙うなんて、山賊、許せない。」

「本当に。ところでニタ、ハンターって何?」

「うーん、何でも屋、かな。依頼者の望むものを狩猟、採集して入手する人たちのことを言うんだけど、最近じゃ傭兵もやるし、なんでもやる。秘密裏で人殺しだってやっちゃうらしいよ。お金さえあれば。ドルセード王国では確かハンター制度を禁止している国だったけど、他では割と普通に居るかな。特にリタルダンドみたいな不安定な国だとハンターは多いかな。色んな人が特別な手を借りたがってるから。」

「へぇ。」

「ハンターにも上級、中級、下級なんて位もあるけど、結構偽造する人も多いから、雇う側はしっかり見極めないといけないよ。あのマシアスってやつが本物かどうかは怪しいもんだ。」

「そうなんだ。」

 ニタとクグレックは青年団を横目に和やかに食事を進めた。


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