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はじまりの旅  作者: 藍澤 昴
第7章「ハワイにて」
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 しかし、ムーの言う通りなのだ。ムーが言う通り彼らはクワド島へ行き、宙船に乗って、『滅亡と再生の大陸』にあるアルトフールへ行くだけなのだ。金の心配は当面必要はないだろう。

 ルルを仲間にして、ハワイ島での最後の夜を過ごす。

 最後の夜はホテルの屋外ラウンジで豪華ディナーを食べた。ハワイ島でとれる新鮮な海の幸や果物、豪華な肉料理などに舌鼓を打ち、終始リラックスした時間を過ごすことが出来た。途中ハワイ島伝統の踊り『フラ=ダンス』が行われ、飛び入りでニタやディレィッシュも参加して、実に楽しい時間となった。ディナータイムの最後には沢山の打ち上げ花火が夜空を彩鮮やかに覆った。

 ドーンと腹に響く音を上げて、派手に散り行く花火を見ながら、クグレックはこの平穏を幸せに感じた。

「クク、花火、綺麗だな。」

 ハッシュが話しかけて来た。

「うん。ずっと見てられる。」

「まさかクク達とこんな風に過ごすことになるとは、思わなかったな。」

「どういうこと?」

「俺達はポルカで出会ったけど、まさか、一緒に旅をするとは思わなかった。そもそも、国を追い出されるなんてことも思ってはいなかったけどな。」

 と、言うハッシュにクグレックは押し黙った。ハッシュたちトリコ兄弟の平穏をぶち壊したのはクグレックの黒魔女としての力なのだ。彼らが楽しんで過ごしているのならば良いのだが、本心はどう思っているのか分からない。

「でも、こういうのも意外と悪くないもんだな。楽しい。トリコに居た時もそれなりに外遊はしていたけど、自由に過ごせたわけではないからな。常に仕事の一環だった。山に登ったり、ドラゴンに遭ったり、魔物をやっつけたり、見知らぬ土地へ足を踏み入れたり。全部自分の足だ。面白いもんだな。」

 まるで少年のように目を輝かせてハッシュは話を続ける。

「最初にお前たちに会った時は、ただの子供が危ないな、と思ってたけど、今は出会えて良かったと思うよ。生きてるって感じがする。この先何が起こるか分からないけど、頑張っていこうな。」

「うん。」

 クグレックは静かに頷く。

 ハッシュと話をするとやっぱりなんだか安心する。まやかしの恋に惑わされたし、彼の優しさはクグレックだけのものでもないことは知っている。それでも、ハッシュがいてくれると嬉しい。

 ドーンという重低音が連続する。クグレックも言葉を返したかったが、花火がその隙を与えない。

 やがて、二人で話していることに気がついたニタが二人の間に割って入って来た。

「むむむ、ハッシュ、ククに変なこと、吹き込んでないでしょうね!」

 と言ってクグレックの膝の上にうつぶせになり、ハッシュを睨み付けるニタ。

「ニタ、もう、大丈夫だってば。」

 度々こうやってニタは無理矢理ハッシュとクグレックの間に入ってくるものだから、クグレックもイラッとして、じゃれついて来るニタの頭を少し強めにぽんぽんと叩いた。

「たーまやー。花火が上がる時にたーまやーって言うんだって。」

 ニタが言った。

「なんで?」

「知らない。」

 その時、再び打ちあがる音が連続する。夜空に炸裂する光の花。これでもかと花火が連続で打ち上げられ、ニタは狂ったように「たーまやー」を連発した。クグレックもニタの真似をしようと花火が打ちあがるタイミングを計るが丁度花火が途切れてしまった。が、一際大きい重低音が放たれると、今度は今までの2倍くらいの大きさの大輪が夜空に広がった。

「た、たーまやー」

 クグレックはこの言葉の意味を知らないが、何となく気分が高揚してくるのを感じた。

 もう一度言ってみたいとクグレックは思ったが、花火は今ので最後だったらしい。再び夜空に大輪の花が浮かぶことはなかった。

 やがて観客たちは花火の時間が終了したことを理解したのだろう。再び元のディナー会場へと戻って行った。



********


 そして翌日。一行はハワイ島を後にした。

 再び船の旅である。

 やはり、船は黒雲に襲われた。もともとは年に1回あるかないかの黒雲だが、おそらくクグレックの魔の力が呼び寄せているのだろう。

 しかし、行きとは異なり、クグレックも安定して魔法が使えるようになったし、守りの名手のルルもいる。船はバリアによって守られ、黒雲とその魔物はあっという間に駆逐された。船乗り達からは大変賞賛され、就航中の用心棒をやらないかと誘われたが、本当にお金が必要になった時に考えておくということにして保留にした。

 行きよりも安全な船の旅だったが夕日が沈むころ、船内がざわめいた。

 どうやらどこかで船が難破したらしく、ボートの様な小型の木船に乗っていた海難者を救助したらしい。救助されたのは14歳くらいの少年と少女だった。少年の方は意識がなく、少女の方は衰弱しきっていたが意識はあった。

 クグレックとニタも救助された二人のことが気になり、甲板に上がってみたところ、その意外な人物に吃驚した。

「え、あれ、クライドじゃん。」

 と、ニタが言う通り少年の方はあのクライドだった。そのため、先に甲板に出ていたディレィッシュが焦った様子で少年の容体を確認していた。さらにニタは少女を見て眉根を寄せる。ニタは少女をどこかで見たことあるのだが、それはどこなのか思い出せないのだ。

 ニタとクグレックは少女に近付く。すると、それに気が付いた少女は、小さく微笑みを浮かべた。

「あぁ、ニタちゃん…。港町での夜ぶりね…。」

 と、少女に言われて、ニタはハッとした。

「あの時の女!?」

 ディレィッシュがアルドブ熱に侵された際に、白魔女の隠れ家に関する情報をニタに教えてくれた女性だった。その際にニタは彼女からしこたま酒を飲まされ、酷い酩酊状態になってしまったが、彼女のことを思い出すことが出来た。

「どうしてここに?」

「…ちょっとね…。でも、…あなたたちに会えて良かった…。」

 少女はそういうと、安心したのか突然意識を失い、眠りについた。

「…一体どういうこと?あの女、随分と若返っちゃったみたいだし、クライドもいるしなんだかよくわかんない…。」

 そう呟くニタに、クグレックも同じ気持ちだった。

 クライドは白魔女に実験体にされ、少女と同様に若返ってしまったうえ、記憶を失くしてしまっていた。あれからまだ1週間が経つか経たないかというのに、白魔女とクライドの間で一体何が起きたのか。

 突然の出来事にただただびっくりするばかりの一行はとりあえず少女と少年の目が覚めるのを待つこととなった。



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