表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はじまりの旅  作者: 藍澤 昴
第7章「ハワイにて」
108/115

ディレィッシュは籐で出来たゆるりとした傾斜の背もたれのリラックスソファに深く座り込んだ。そして、

「さて、ムーよ、これからどうするんだ?」

と。ムーに尋ねた。

「そうですね。今日は船旅の疲れもありますので、皆さんは銘々くつろいでいただければなと。ハワイ島を散策するもよし、浜辺で泳ぐのもよし。その間僕はちょっと気になることがあるので、フィンに確認してみます。友人に会うのは早ければ明日。遅くても明後日には友人に会いに行けるように準備したいなと思います。」

「うーむ…、なんだかずっとムーにまかせっきりになってしまっているな…。」

「いえ。全然大丈夫なので、気にしないでください。皆さんはゆっくりしててください。僕は情報収集に行ってきます。」

 そう言ってムーは部屋を出ていこうとしたが、ニタがムーの尻尾をきゅっとつかんだ。

「な、何するんですか。」

 ムーは離してくれと訴えるかのようにぷりぷりと尻尾を動かすが、ニタは離そうとしない。

「いやいや、ムー君。別に君一人で頑張らないでいいんじゃないかな。そんなに長い付き合いじゃないけど、少なくともニタはムーのこと友達位には思ってるから、頼ってくれてもいいんだよ。」

 ムーの動きが止まり、ムーは恐る恐るニタ達を見上げる。

「いいんですか?」

「いいもなにも。それよりも、ムーは気を遣いすぎだよ。言葉遣いだってもっとフランクな感じでいいんだよ。」

 ニタの言葉に呼応して、ディレィッシュもにこりと微笑む。

「確かに。ムーもアルトフールまで一緒に旅をする仲間なんだから、他人行儀でいる必要はないだろう。私達もムーの抱えている心配事を共有させてはもらえないかな。」

 ムーは面食らったような表情をしたが、大きく深呼吸をすると、粛々と話しだした。

「実を言うと、僕の友人はルルというんですが、ルルがこのハワイ島に来る前に何かがあったみたいなんです。のっぴきならない事情があってこのハワイ島にやって来たみたいなんですが、ハワイ島にルルが来てからというもの、連絡が途絶えちゃって。僕たちは思念で会話が出来るんですけど、どういうわけかそれも出来ない。ルルは何かに追われていたらしいんです。」

 と、ムーが言った。

「なるほど。なにやら危険な香りだな。」

 と、ディレィッシュが言った。

「まさか密猟者とか…?」

 ハッシュが呟くとニタとムーは小さく竦み上がった。希少種は何かと生きづらいのだ。

「…それは考えたくはありませんが…。いえ、あの時のルルの思念はそう言う感じじゃなかったので、多分違う筈です。」

 と、断言するムーだが、目は泳ぎ、その口調も必死に自分に言い聞かせるものだった。

 そんなムーをニタはじっとムーを見つめる。


「じゃ、電話してみようか。」

 と、ニタが言った。

「え?」

 ムーとハッシュとクグレックははぽかんとした。ディレィッシュは嬉しそうにニタを見つめた。

「だって、困ったことがあったらフィンが電話して聞けって言ってたじゃん。」

 そう言ってニタは壁掛けの受話器を取り会話を始めた。

「わ、フィン?あのね、えっと、ニタ達ルルって子を探してるんだけど、知ってる?――えっと、人間じゃなくて、確か、うーんと、カーバンクル?って種族で、どっかから逃げ込んで来たらしいんだけど、――え?いない?あぁ、そうなんだ。うーん、多分リゾートを楽しみに来たわけじゃないと思うよ。――そっか。でも、このハワイ島にいるらしいんだよ。どっかいそうなところとかわかんない?――ふむふむ、えーそうなの?じゃぁ、うん、聞いてみてよ。うん、うん。ありがとう。待ってるよ。じゃぁね。」

 がちゃりと受話器を置くニタ。電話での会話はほんの数分のことだったが、ニタの電話での応答を聞くに収穫はゼロではなさそうである。

 ニタはぽてぽてと歩いて籐のスツールに腰掛け、電話で得た情報を共有する。

「フィンがルルがいるところに心当たりがあるっぽくて、場所とか教えてくれるらしいよ。」

 ムーの目が歓喜にきらりと輝く。

「ニタ、すごいです、いや、すごいね!この前の宿屋のお姉さんからもけろりと情報を聞き出すし、流石だよ!」

 と、ムーに褒められればニタは鼻高々になって、もっと褒めてくれと言わんばかりににんまりと目を細める。

 それから30分程でフィンがやって来た。

 フィンはテーブルにハワイ島の地図を開いて、ルルがいそうな場所について話を始めた。

「残念ながら、ニタさんがおっしゃる「ルル」さんがどこにいるのかは把握できていなんですけど、もしかすると、このあたりにいるかもしれません。」

 そういって、フィンは地図上の卵型をしたハワイ島の北西端を指差した。該当箇所には観光名所がイラスト付きで書かれており、今いるホテルや港、ビーチは島の南東に密集している。島の南側に多くの建物やら景色のイラストが多くあり、どうやら島の南側には観光名所が多くあるようだ。北側は標高1000メートルににも満たない山、高原が広がっており、イラストも所々にしかない。だが、それは北東部に限っての話だ。島の北西部はただ山が広がっているだけで、イラストは何もない。何もない鬱蒼とした緑を隠す様にハワイ島という文字と縮尺、方位が描かれている。

 フィンが話を続ける。

「このあたりはリリィが過ごす神域なので、観光客は立ち入ることが出来ないようになっています。」

「え、てことは行けないの?」

「リリィが許せば大丈夫です。一応山門があるんですけど、リリィが許さなければその門は開きません。」

「あ、そんなもんなの。」

「リリィは神ではありませんから。神域はリリィの家とでも思っていただければ。さすがのリリィも知らない人を家にあげることはしませんよ。それに、ハワイ島は神域に行かずとも観光客を満足させる要因が揃っていますから、ただの山である神域に行くよりも、この地図に書いてある箇所に行った方が有意義ですよ。ハワイ島の北西部は天候も悪くなりやすいですし。時々魔物も出るそうです。」

「リリィは過酷な場所で暮らしているんだな。自分を犠牲にしてまで観光客をもてなすとは大した心構えだ。」

「そういうことになりますね。」

「もし、リリィが許してくれなかったら、僕達は神域に立ち入ることが出来ないの?」

 ムーが心配そうに尋ねる。

「そういうことになりますが、どうしても神域に入る必要がある人なら入れてくれると思いますよ。リリィはそこまで厳格ではないので。それでも、神域に入るには事務手続きが必要なのでお日にちを頂きますけどね。」

 と言うフィンの話を聞いてムーはほっと安心するように息を吐いた。

「では私は神域への手続きを済ませて来ますが、こちらは皆さんで行かれるのですか?」

 と、フィンは一向に尋ねる。

「…うーんと、ディッシュは休まないといけないから、ニタとハッシュとククとムーの4人で行くよ。」

「分かりました。では、明日の夜までには手続きが完了すると思いますので、皆さんはそれまでどうぞハワイ島でごくつろぎ下さい。また何かありましたら、お電話で呼んでくださいね。」

 そう言って、フィンは部屋を出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ