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はじまりの旅  作者: 藍澤 昴
第6章「薬物騒動とまやかしの恋」
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 と、その時であった。突然部屋の扉が勢いよく開いたのだ。ニタは驚いて白い毛が逆立っている。

「こんばんは、うふふ」

 と艶めかしい声で挨拶してきたのは、白いローブにフードを被った背の高い女性だった。フードの下からは獅子のようにうねる紅い髪とエメラルドの様な緑色の瞳が覗いている。

 白魔女が来訪したのだ。

「お前は、あの時の…!」

 ニタは立ち上がって、警戒するように戦闘態勢に入る。ニタに気付いた白魔女は

「あら、ペポ族の戦士かしら?まだ一緒にいたのね。」

 と言った。

「ククに何の用だ!」

 ニタは険しい表情で大声をあげる。白魔女が一歩たりとも近付けば襲い掛かりそうな様子だ。

「黒魔女にはいつだって用事があるわ。でも、むしろ、今用事があるのは黒魔女の方がアタシに用事があるわよね?」

 そう言って白魔女は懐から小さな透明の小瓶をちらつかせる。中には群青色の液体が入っていた。

 クグレックはその小瓶が意図するものに気付き、ニタに声をかける。

「ニタ、その人は白魔女さんだよ。二人の間に何があったのかわからないけど、落ち着いて。」

 と、クグレックに宥められるもニタは

「でも、こいつはメイトーの森でククを殺そうとしてきた奴だよ?覚えてないの?」

と、言った。どういうことかとクグレックは首を傾げた。ただ、あの紅い髪と緑の瞳はどこかで見たことがあるのだ。クグレックは旅の始まりへ記憶を遡ってみる。

「そういえば!」

 と、クグレックは声を上げた。

 メイトーの森を出てから色々なことがあり過ぎた上に、昨日会った白魔女が二日酔いでグロッキーだったこともあって、すっかり忘れていたが、この白魔女と呼ばれる女性は確かにメイトーの森でニタとクグレックを襲った人物だ。今日は持っていないが、杖でニタのことを吹き飛ばし、クグレックの首を絞めて殺そうとした女だ。たしか、祖母のエレンとは旧知の仲だと言っていた。

 が、白魔女が持っている薬を見ると、抵抗することは良くないと感じた。

 だが、当の白魔女はなかなか思いだせずにいたクグレックに不満げな様子だった。

「ちょっと、黒魔女ってばアタシのこと忘れてたの?薄情な子ねぇ。アタシこそが天下最強の白魔女サマよ。覚えておきなさい。」

 白魔女はニタにも目をくれず、ゆっくりとクグレックのもとへ近付いて行く。

「ま、今日はこのアタシが直々に出向いてあげたんだから、感謝しなさい。」

 そうして、白魔女はクグレックに群青色の液体が入った小瓶を渡す。

「解熱剤よ。で、第一皇子の薬の効き目はどの位だったのかしら?」

「第一皇子?どうしてそれを?」

 ニタが会話に割って入ろうとしたが、クグレックがニタの方に手を向けて制止する。

「今朝には元に戻っていました。寝る前はまだ、効果があったと思います。」

「へぇ、そう。まだまだ効き目が弱いわねぇ。改良の余地ありだわ。で、熱にうかされたトリコ王はどこかしら?」

 白魔女はディレィッシュがトリコ王であることも知っていたことにクグレックは驚く。

「…隣の部屋にいます。」

「そうそう、じゃぁ、案内して。ちょっと試したいことがあるのよ。ふふふ。」

 上機嫌な様子で白魔女が言うので、クグレックは部屋を出た。すると、部屋の外ではクライドにそっくりなあの少年の姿があった。少年は冷たい瞳でクグレックを一瞥した。この仕草もまたクライド本人にそっくりだなとクグレックは思いながら、白魔女を隣のディレィッシュ達の部屋へ案内した。

「こんばんはぁ。」

 ハッシュとムーは白魔女の姿に驚き戸惑いの色を隠せずにいた。そして、その傍らにいるクライド似の少年の姿にも驚いていた。

「薬の受け渡しは明日では…?」

 ハッシュが言った。

「日付上では受け渡しの日よ。ちょっとだけ面白いことがありそうで、こっちまで来ちゃったの。あ、薬は黒魔女に渡したから。」

 と、白魔女が言ったので、クグレックは白魔女の後ろからこそっと小瓶を二人に見せてみた。

 ハッシュとムーは安堵の表情を浮かべた。が、目の前には白魔女が存在するので下手に警戒心を解くことは出来ない。

 白魔女は少年を二人の前に出した。

「この子、現トリコ王国の軍団長をやってたんだけどね、ちょっと拉致しちゃった。トリコ王国では騒ぎになっているでしょうね。でも、可哀相だったんだもの。精神と体がちぐはぐになっていて、生きづらそうだった。だから、天才である白魔女サマが治療してあげようと思ったの。ちょっと投薬しすぎちゃったんだけどね。」

「じゃぁ、その少年は本当にクライドなのか?」

「そうなのよ。ちょっと薬のせいで記憶がめちゃくちゃになったり、感情に乏しくなっちゃったりしちゃったんだけど、あ、感情が乏しいのは元々だったわね。とにかくこの子は元トリコ王国軍団長のクライドなのよ。ちっちゃくなってもイケメンよね。あ、黒魔女、薬をトリコ王に飲ませたげて。」

 と、白魔女に言われたクグレックはディレィッシュの傍に立ち、白魔女から受け取った小瓶の蓋を開けた。ハッシュが「俺も手伝うよ。」と言って、ディレィッシュの上半身を抱き起した。ディレィッシュは息苦しそうに眠り続けるが、ハッシュに「ディッシュ、薬だ。起きてくれ。」と、声を掛けられると、目は開かなかったが、うっすらと口を開いた。ハッシュはクグレックから小瓶を受け取ると、ゆっくりと薬をディレィッシュの口に流し込んだ。

 こくん、こくんとディレィッシュの喉が動く。

「あ、杖忘れちゃった。」

 白魔女が呟いた。

「ちょっと黒魔女、アンタの杖貸しなさいよ。本当は薬飲んで1日くらいで熱は下がるんだけど、ちょっとトリコ王と話したいから、力を使っちゃうわ。特別サービスよね。」

 白魔女はクグレックに向けてウインクを放った。謎の言動にクグレックは一瞬混乱したが、自室の樫の木の杖を取って来てそれを白魔女に渡した。

 白魔女は樫の木の杖を品定めするように振り回す。「エレンの魔力もちょっと残ってるのね。うーん、ていうかわざと残してるのかしら。アタシの魔法と相性は悪そうだけど、まぁやってみないと分からないしね。しかし古くて汚い杖だこと。」などとぶつくさ独り言をつぶやいて、杖をディレィッシュに向けた。

「うーん、やっぱり重いわね。」

 白魔女はしっくりくる持ち方を探った。先を持つのがいいのか、真ん中を持つのがいいのか。両手持ちか片手持ちか。試行錯誤した結果、白魔女はクグレックの杖の真ん中を両手で持つことで落ち着いた。ふと力を込めると白魔女からぽわぽわとした淡い色をした光の玉が発生する。

「彼の者の生命の龍脈よ、地の力を介して今一度活性化し癒しを齎せ。」

 と、白魔女が詠唱すると、ディレィッシュの周りにも淡い色をした光の玉が次々と発生し、彼の中に吸収されていった。みるみるうちに顔色も元の色に戻り、呼吸も落ち着いていく。

「はいっと。これでオッケーよ。」

 白魔女はクグレックの方へ杖を向ける。「邪魔だから返すわ」と一言添えられて、クグレックは自分の杖を受け取った。

「今のは、生命魔法…?」

 ムーが呟いた。

「白魔女様の生命魔法でーす。一番簡単な奴だから、体力まで回復したわけじゃないからね。とりあえず熱は下がった感じ。」

 白魔女はあっさり答えた。

 と、その時、ディレィッシュが目を覚ました。


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