第一章 遭遇 ⑥
俺はスプーンを動かしていた手を止めた。
「心…臓…?俺の、心臓を、貰いに、きた?」
「うむ」
…なんてこった。
まさか、第二ボタンよりも先に心臓をおねだりされるとは…。
………………………………。
「……………もしかして、さ……」
俺は恐る恐る尋ねてみる。
「……遠回しに、タヒねって言ってる?」
「…………………そんなことぉ…ありませんよぉ…。」
「……………………。」
(マジか?マジで心臓を…?)
俺はカレーライスを急いで口に流し込む。
「私には、『心臓』が必要なんだ」
春野京子はそう言うと、床に右手をつけた。
「見せてやる。錬金術を」
「…!!」
(逃げる……か?つーか、逃げられるのか?)
我が家は一軒家。だが、今いる俺の部屋は換気用の小さな窓があるだけだ。
(玄関まで…走って…十秒……)
春野を見ると、右手が床から少しずつ離れていき、右手と床の間には銀色のギラギラとした物体が現れている。
心なしか、刀のように見える。
(………………ヤバくね…?)
…俺は、腹をくくる事にした。
「うらぁっ!」
叫ぶと同時に、俺は部屋を飛び出した。
「ああっ!ちょっとぉ…!」
春野の声が離れていった。
俺は、靴も履かずに家から飛び出た。