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第27話


【視点:松本由美】


「だーかーらー、ここに入院してるのは分かってるんですよ!!!」


「いえ、ですから何かの間違いかと………」


 このやり取りも、もう何度目になるか分からなかった。


「じゃあ桜ヶ丘のどこに、他の病院があるって言うんです?」


 突撃っ!! なんて勢い込んできたはいいものの、さっきから病院の受付の看護婦さん(今は看護士さんて言わなきゃいけないのか)はずっとこの調子で全然使い物にならない。


「さあ、それはこちらにも分かりかねますが………」


 私が遼君の名前を出した途端、急に様子がおかしくなった。どうせあの金持ち嫌味お嬢様に金でも掴まされているんだろう。

 遼君が私に二度と会いたくないっていうのも彼女の嘘だったし、全くあの雌猫、とんだ策士だ。きっと電話を切ったのも彼女に違いない。


「隠したっていいことないんですよ~!!」

「あまり大きな声を出されても他の患者さんに迷惑ですので、どうかお引取りください」


 どうやらこの人に何を言っても無駄のようだ。こうなったらもう一部屋一部屋確認して、遼君がどこにいるか探し出してやる。


「分かりました、もう結構です!!」


 と、言って歩き出そうとしたのだが、


「……へ?」


 目の前が、真っ暗だった。もとい、真っ黒だった。


 見上げると私の頭より二つ分くらい高い位置に、黒いサングラス+角刈りの仏頂面が暗闇に浮かんでいた。私が暗闇だと思ったそれは、彼の着ていたスーツで、つまり私はいかにもSPというような男に真正面から進路を塞がれていたという訳だった。


「お引取り願います」


 低く厳しい声で彼はそう言い、私の両腕を掴み入り口へと引きずって行った。


「ちょ、ちょ、ちょっと!!!」


 私の抗議も虚しく、結局正面玄関から外に引きずり出されてしまった。もう一度病院内に入ろうとしても、黒尽くめが入り口前に立ちはだかっているため、それも出来なそうだ。

 恐らくこの黒尽くめは、あの時遼君を誘拐したのと同じで、綾瀬楓の手下なのだろう。


「………この野郎~」


 そう言って睨みつけてみるが、相変わらず黒尽くめは無表情で立ち尽くしていた。こいつが居る限り病院内への進入は不可能。そうなると私に出来ることは、


「根競べよっ!!!!」


 これしかないだろう。私は黒尽くめの正面にどっかりと腰を下ろした。地面はコンクリートなので、お尻が冷たい。


「………………………………………」

「………………………………………」


 目の前の厳つい大男とただひたすら睨み合う。訓練されてきたのだろう、相手は動く気配を微塵も見せない。

 空は相変わらずどんより曇っていて、今にも降り出しそうだ。長期戦は厳しいかもしれない。


「………………でも」


 それでも戦うしかないのだ。私が遼君に会うためには、ここで逃げたらいけない。雨が降ろうが、雪が降ろうが、槍が降ろうが私はここから退くわけには行かないのだ。


 目の前の岩はとても動きそうになくて、外は切ないくらい寒くて、状況は圧倒的に不利。それでも私の気持ちは砕けない。だって私には『力』があるから。遼君からもらった言葉、温もり、優しさ、それらが全部私の『力』になる。


 だから目の前の男も怖くない。北風も全然冷たくないし、寒くない。


 さあ、どっからでもかかって来い!!!


「…………へっくしょん!!!!」


 流石に寒くないというのは、嘘だけれど。



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