第16話
【視点:綾瀬楓】
私と遼さんは手を繋いで一緒に教室を出た。
行為の後始末をしてから出たので、時間は少し遅くなってしまっていた。
後始末の最中、私が体に付いた遼さんの精液を指で掬って舐めると、遼さんは真っ赤になって止めてきた。
「き、汚いから止めなって」
「だってもったいないじゃないですか。それに遼さんのだから汚くないです」
そう言うと遼さんはさらに真っ赤になった。あははっ、可愛い。
本当は中に出してもらっても良かった、というか是非中に欲しかった。
だけど私は、あそこでコンドームを取りに行くフリをしなくてはならなかったから、『今日は危険日だ』ということにするしかなかった。
次する時は絶対中に下さいね、遼さん?
下校時刻を過ぎていて通常の昇降口は閉まってしまったので、私たちは教員用の昇降口へと歩いた。
「えへへ………」
その間、終始私はにやけっぱなしだった。そのにやけを隠すこともなく、私は遼さんにくっついて歩く。
まだ私の中に遼さんが入っているような、そんな感じがして少し歩きづらかったのだが、そんなものは今の幸せに比べたらちっぽけなものだった。
遼さんが私のことを抱きしめてくれた、遼さんとキスをした、遼さんに抱かれた、好きっていってもらえた。一気に幸せが私に押し寄せてきたのだ。ああもう幸せ過ぎる。
何もかもが私の思惑通り、いやそれ以上に進んでいた。
愉快で愉快でたまらない。
――――そう。あそこに松本先輩を呼んだのは、私だ。
遼さんが落としていった携帯電話を使って、コンドームを取りに行くフリをしたとき、教室まで来るようにメールを送って………そして松本先輩はそんなことも知らずにノコノコとやってきたのだった。
本当は別に、キスだけでも良かった。それだけだって十分過ぎるくらい幸せだし、松本先輩にみせつけるのにも効果はあった。
だけど、キスしているときに、遼さんのアレがどんどん大きくなっていくのが分かって、それがどうにも嬉しくって、遼さんが私に欲情しているのだと分かるとどうしようもなく堪らなくなって、私は遼さんを誘った。
遼さんは優しく、優しく私を抱いてくれた。
私はもちろん初めてだったのだけれど、緊張する私を遼さんは優しくリードしてくれた。
遼さんのが入ってきたときは本当に痛かった。そのときも、遼さんは私にキスをしたりして、必死に痛みを紛らわせようとしてくれた。ああ、思い出すとまた濡れてしまいそう。
それに、それに何より愉快だったのがあの人の顔だ。
あはははっ、もうホントに凄かったなあ。
呆然としたあの顔も、嫉妬に狂って私を睨むあの顔も。もうまさに『千年の恋も冷める』って感じの顔だったなあ。あ、でも遼さんはあなたに千年どころか一瞬たりとも恋なんかしてないですから、残念!! ってあはは、ちょっと古いですかね?
「もう真っ暗だね」
「そうですね」
外に出ると、陽はもう完全に落ちきっていてあたりは闇に包まれていた。
「あの……、今日は送っていってくれませんか?」
「え? でもいつものベンツは……」
「さっき連絡して、今日は先に帰ってもらいました」
だって今日は、今日はもっと遼さんと一緒にいたいから、まだ別れたくないから。
「……そっか、うん。構わないよ」
私の意図を汲み取って、優しく笑う遼さん。それだけで寒さなんか吹き飛んでしまいそうだった。
「はいっ、ありがとうございます!!!」
やった、遼さんと一緒に帰れる。
「それに……、ちょっと話したいこともあるしね」
話したいこと、何だろうか? もしかしたら、『ともこ』のことだろうか。気になるけれど、遼さんとああやって結ばれたあとでは些末なことに思えた。
腕を遼さんと絡ませる。そうすると遼さんは照れたように笑いながら、でも拒否はしてこなかった。
星を見上げながら白い息を吐く遼さん、その表情には教室でみたあの哀しさが見えるような気がした。
もうすぐ校門に差し掛かろうというところで、遼さんは口を開いた。
「あのさ、楓」
「はい………」
きっとこれから話し出すのだろう。私も心して聞こう。
そして全部受け止めて、遼さんからその哀しさを取り去ってあげよう。
それが出来るのは、私だけなのだから。
―――――と、遼さんが息を吸ったところだった。
「もう~遅いよ~遼く~ん」
―――――そこには、松本先輩が立っていた。




