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小瓶が割れるとともに、なんだかデジャブを感じる様子でカルガイが飛び出した。ただ前と違うのは、カルガイが大きくなっているということだ。私の3倍はあるんじゃないだろうか。本当に巨人だったんだ。ルキツさんの目の前に人差し指を突き出したカルガイは、ルキツさんを吹っ飛ばさんばかりの勢いだ。
「黙って聞いてりゃお前は! ルイの言うとおり言葉が足りないんだよバカ!」
「私のような偉大な魔術師に向かって馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。どっちかと言うとカルガイの方が馬鹿だろう」
「そういう話じゃねえよ! オレにも分かるように話ができないって意味で」
「ストップ!!」
ダメだ。言葉が足りないんじゃなくて、肝心なことを言えない二人なんだ!
「二人とも落ち着いて。ルキツさん、なんでカルガイを封印したかちゃんと話してください」
ルキツさんは戸惑った様子で私を見やる。私は黙って頷いた。
「……小人に比べて巨人の寿命は遥かに長い。私は自分の死期が分かってしまったから、その先一人残される君のことを考えずにはいられなかった。その時、類さんのことを知ったんだ」
「ルイ?」
「予知で、ね。私と類さんの力を合わせれば巨人のカルガイを眠らせることができる。だからカルガイを未来に託したんだ」
カルガイは俯いたまま聞いていた。
「オマエは昔っから言葉が足りないんだよ……」
カルガイは俯いたままで、その表情は見えない。
「オレだってちゃんと言ってくれれば踏ん切りが付いたよ! 一人で逝っちまうなんてずるいじゃないか! ちゃんと見送ってやりたかったよ……」
その声はいつもの様子からは想像が付かないほど弱々しくて、拳は硬く握られていた。
「悪かったな、カルガイ」
ルキツさんの目は優しくカルガイを見つめていた。カルガイはゆっくりと顔を上げる。
「ちゃんと君を見送らせてくれ」
二人の体は淡い光に包まれ始めていた。
「カルガイ……? ルキツさん……?」
「類さん、ありがとう。あなたのおかげでようやく穏やかな気持ちで天国に行ける。巻き込んでしまって悪かったね」
「お別れ、なの?」
ルキツさんはゆっくり頷いた。
「ルイ、短い間だったけど世話になったな。ありがとう」
私は視界が滲んで返事どころではなかった。こうなることが頭では分かっていたのに心が追いつかない。
「そんなに泣くな。別れづらいじゃないか」
カルガイは苦笑する。そんなこと言われたって、止まらないものはしょうがないじゃないか。
大きな指がそっと私の頭に触れた。
「また、いつか会おうな」
離れていく指に私は何度も何度も頷いた。
「類さん」
ルキツさんが手招きして、耳打ちしようとする。私が耳を寄せると囁かれた言葉に大声を上げてしまった。
「なんだよ?」
「内緒。さ、行くよカルガイ」
光はどんどん大きくなる。私は告げられた言葉に一人で慌てふためいていた。
「ルイ」
それでもカルガイがまっすぐな目で私を呼ぶから、私も見つめ返した。
「ありがとな」
その言葉とともに、二人は消えていった。




