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三倍返しのお約束  作者: まほろ
はじまり
7/58

イケメンとは不可解な生き物である

「うわっ、あったまいたい……」

 グワングワンする頭と、すっきりしない胸のあたりを押さえながら私は目覚めた。そしてそれから数秒たっぷりとかけて昨夜の出来事を思い出す。記憶消去という、よく聞く便理な酒の力は私には適応されなかったらしい。

「やっちゃったよ……恩人に。女子高生クオリティが効かないこの国で私の価値ってある? そもそもリュートはイケメンだから、私がお金を払わないといけない?」

 起きぬけでしかも二日酔いらしき頭痛と胸の悪さという最悪コンディションの私が考えられることなど知れている。とりあえず頭だけでもシャキッとするべきだ。水でも飲もう。そう水~。

「つめたっ! 誰よ」

 頭上から被った水に怒りながら私がベッドから起き上がるが、部屋には誰もいない。

「どうした! 大丈夫か?」

 私の声が大きかったのか、やけに心配そうなリュートが部屋に駆けこんでくる。この人ってこんなにやる気ある人だったっけ? 

 窓際騎士で面倒くさがり、話だってシリスやゲイルが中心となっていた。それなのに、扉を壊さんとする勢いで登場し私に駆けよるのはおかしい。うん、違和感がある。

「お、おはようリュート。ごめんね、叫んで。なんか急に水がさ……」

「水が欲しいと望んだのではないか?」

「あっ、そうかも」

 昨夜の出来事よりも今朝の不可解な水事件の方が気になって、リュートと普通に会話ができたのは良かった点だろう。

「覚えているか? 昨夜、俺とキスしたのを」

「お、おおおお……覚えています」

 不意打ちは良くないと思う。しかも油断させておいての攻撃とは、さすが騎士中々やるな。とふざけている場合ではない。私は結局逃げていた話題に正面から向かい合う形にされてしまう。

「それで、俺はアスカに従うことになった」

「そうなんだ……って何それ――――!」

 一瞬適当に流してしまいそうだったけど、速効で拾いに戻ったよ。だって意味がわからないもの。

「うるさいよ、さっきから」

「もう朝か」

 部屋に誰もいないと思っていたが、どうやらシリスとゲイルは床に転がっていたらしい。リュートは手にパンを持っていることから朝食を取りに行っていたのだろう。

「ど、どういうことなの」

「あっー、昨日の説明かい? リュートの恩人だね」

「恩人? 私が?」

 一夜にして逆転したらしい立場だが、まったく実感はない。それに従わされて喜ぶとは、ひょっとしてリュートはちょっとアレな人なんだろうか?

「おい、レンリュート。アスカが引いているぞ」

「どうしてだ?」

 ゲイル、ナイスフォロー。リュートのキャラがわからなくなっているよ、私は。今も甲斐甲斐しく濡れた私の髪を拭いてくれている。おっと、忘れるところだった。

「この水は? あと、魔法で人を従わせるには強い魔力が必要なんじゃなかったの? 私は魔力ないんでしょう?」

 質問攻めの私に嫌な顔一つせず、リュートは一つ一つ答えてくれる。

「水はアスカが願ったから現れたのだろう。人を従わせるには強い魔力が必須だ、それをアスカは持っていた。魔力がないのではなく、見えていなかったんだ」

「へぇ、私は魔法使い……あれ! じゃあ、元の世界に帰れる?」

「あぁ、王子の魔力よりアスカの方が高い、もしくは同等で質が良いと証明された」

 あの王子よりも力があるというのは正直気持ちがいい。これは、お返しをするいいチャンスかもしれない。

「でもどうして突然魔法が使えたんだろう?」

 素朴な疑問は墓穴だった。世の中忘れておいた方が平和なこともある。

「俺とのキスで魔力に触れて興奮し、目覚めたのだろう」

「……興奮?」

「興奮」

 しばらくの間、沈黙が続く。無理矢理唇を奪ったあげく、興奮とはどこの変態なんだ私は。

「くくくっ、言い方が悪いよ。本能が目覚めたとかさ」

「いいよ、たいして変わらないから……」

 シリスの言い換え方も十分変だ。

「どうも御迷惑をおかけしました。私はリュートを服従させようなんて思いませんから自由にしてください。魔法が使えるならなんとか生きていけそうだから――」

「だから? 一人で去ると? それは許さない、俺だってここから解放されたんだ。その恩返しに服従させろ」

 自虐趣味でもあるのかと私はリュートの目を思わずまじまじと見つめてしまう。

「レン~、もっと詳しく説明しないと伝わらないよ。王子に服従しなくてはいけない立場だったのを塗り替えてもらえたってさ」

「王子……に服従」

 もっと考えるべきことはたくさんあるのに、私の頭の中は王子とリュートのキスシーンでいっぱいになった。

「王子は至宝の魔術師っていうくらい力があるからさ。それをいいことにリュートのような実力者を連れてきて無理矢理騎士にしてるんだよ」

「へ、へぇ」

 せっかくシリスが説明してくれているのに、私の中の王子とリュートのラブシーンは終わらない。

「どうしたんだ? あっ、もしかして王子とレンリュートを想像してるんだろ! いくら至宝の魔術師だからといってもキスしなくちゃいけないのは笑えるよな」

「ゲイル……思い出させるな。しかもあれはまだほんの子どもの頃のことだ」

 軽口を叩いたゲイルがリュートに締め上げられている。

「子どもって、そんな昔からリュートは王子に服従させられていたんだ……。みんなも?」

 がっちりと絞められた首に耐えられないと床を叩き訴えているゲイルは放っておく。あれくらいまだ大丈夫だよ。私のお兄ちゃんならもっと容赦ない。

「だからこそ、アスカに感謝しているんだよ。それと僕やゲイルはしがない貴族だから逆らえないんだ。一回反発して出世からはずれてここに来たんだ」

「貴族って偉い人ってことだよね?」

 まずい、言葉の選び方が馬鹿っぽい。でも私の中で貴族って、まろは~ごじゃるってイメージしかない。貧弱だ、ごめんシリス。

「階級が高い者は偉いと言われてるけど、僕たちみたいなのは貴族の雑用係みたいなものだからね。別に敬ってくれてもいいけど、何もでないよ」

「今まで通りでいいなら、敬わない」

 年上、親、先生のように理由があるならともかく貴族だからと言われても偉いと思えない。

「うん、それでいいよ。僕たちはこの第二騎士って立場をそれなりに楽しんでるけど、レンは王子に気に入られてていつも呼ばれるんだ。アスカにとってはラッキーだったね」

 昨日、あの場にリュートがいなければ私は生きていられなかったかもしれない。

「私もリュートに助けられたんだから、やっぱり服従はいらないよね」

「俺はもうここにいる必要がない。アスカもいつまでもここにいたくないだろう?」

「そりぁ、見つかりたくないからね。帰る方法も探さなきゃいけないし」

「なら、一緒にこの世界の騎士がいた方が便利だろう?」

 いつの間にか丸め込まれている気がするけど、はっきり言って私に損はない。自ら面倒に巻き込まれようとするリュートが謎なだけだ。

「刷り込みか? 魔力に当てられて酔っているとか」

「いや、自由になったところで再び王子に魔法使われたら嫌だろう。アスカが主人でいてくれた方がリュートは都合いいんだよ」

 なるほど、もう一度王子に魔法をかけられる……。子どもの頃ならまだしも、今は嫌だよね。シリスたちの隠れていない内緒話を聞いて、私は決心してリュートに向き直る。うっ、イケメンの期待に満ちた表情は眩しい。

「とりあえず、一緒に王子たちに仕返ししちゃう? 復讐っていうと重いからあくまで仕返しね」

 服従という件については、私が命令を出さなければいい話だから知らない振りをすることにする。だって、また王子に迫られたら可哀想だし。

「復讐……仕返しはいいな」

「はいはーい、話がまとまってよかったけど時間切れ! 変に疑われる前に仕事に行くよ」

 シリスに追い立てられるリュートは不満そう。リュートは私とキスして変わってしまった。そういうと私、小悪魔みたいだな。実際は王子と天秤にかけた結果だがそれでも、逃げるという選択肢もある。

「不可解なところもあるけど、味方はいた方がいいしね」

 私は大きく伸びをして、仕事へ向かう三人を見送った。


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