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三倍返しのお約束  作者: まほろ
100万PV記念中編
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⑤夏の夜の夢

リュートに連れられて、私は部屋まで運ばれる。部屋の中央にある大きなソファーに下ろされると、ようやく一息つけた。



「ふぅ」


安心感から吐き出した息と共に、プチン・プチンという聞き慣れない音がする。


「ん?」


私は、なぜかやけにすっきりした開放感のある胸に違和感を覚える。だって、さっきまではちきれそうだったのに。

魔法の効果が切れましたというのなら歓迎だが、どうやら違うようだ。私は、起こった事態が信じられなくて目を見開く。


「こんなことって、本当にあるんだ」


人は、 本当驚くと妙に冷静になるのかもしれない。

私は、弾け飛んだ胸元のボタンを見て他人事のようにそんなことを考えた。


「アスカ」


ふわりと私の身体に肌触りの良いシャツがかけられる。そこで、ようやく私の羞恥心が呼び戻される。


「きゃっ――!」


「落ち着け、大丈夫だから」


この部屋にはリュートしかいないし、胸元を隠せている。私は、状況を思い出して少し落ち着く。


「リュート、ありがとう」


シャツの礼を言えば、リュートは当然と笑う。他の奴らとは大違いだ。


「ヴィルヘルムか?」


端的だが的確な問いに私は頷く。


「待っていてくれ」


リュートはまた私の頭を一撫ですると、すぐに師匠のところへ行こうと動き出す。


「でも、師匠が簡単に――」


「なんとかする。そのままは、目のやり場に困る」


リュートがほんの少し頬を赤く染めたため、私もまた恥ずかしくなって赤くなる。

案外、リュートに任せた方が上手くいくかもしれない。師匠は私をからかうのが好きだが、リュートにはメロメロ? だと思う。なんていったって、好みの身体だからね。


「お願いします」


他人任せは好きではないが、今までの状況から私が出ても混乱するだけとわかっている。なら、大人しくリュートに任せることにしよう。


「外に一応兵を置いていくからな」


私の耳元でリュートは優しく囁くと、部屋を出て行く。

私はそれに安心したのか疲れがどっと出て、ソファーにだらしなく沈み込んだ。



ふわふわ、気持ちよくて私は笑みを浮かべる。

いつの間にかウトウトしてしまっていた私を誰かが、優しく運んでくれている。誰かといっても、相手は一人しかいない。


「リュート……」


「大丈夫、寝てろ」


頬に指を滑らされ、私はくすぐったくてクスクス笑う。


「ふふっ、リュートが戻ってきた」


ようやく会えた嬉しさから、私はいつもより大胆になってリュートの首に手を回す。


「あぁ、ただいま」


リュートは私の額に口づけを落とすと、丁寧に柔らかなベッドの上に降ろしてくれる。

このままぐっすりおやすみなさいは、とっても魅力的なことだが、目の前にはリュートがいる。せっかくの再会なんだから、もう少し話したい。


「んっー、うん……うーん」


大きく伸びをして起き上がると、また胸が苦しかった。また、成長したらしい。


「まだ、寝ていていい」


「う――ん、大丈夫」


私は目を擦りながら返事をする。


「そうか、ヴィルヘルムから解き方を聞いてきた」


「それなら、尚更寝ている場合じゃない!」


私はぴょんと軽くベッドから飛ぶ。胸がぷるんと動く。これは、はじめての経験でちょっとだけ嬉しくなる。


「アスカ、動かなくていい。むしろ、ここの方が都合いい」


「ここ? 都合?」


何だろう、すごく嫌な予感がする。


「方法は簡単、魔力を押し出せばいいらしい。それなら、あちらよりこちらでやる方がいいだろ」


あちらとはリュートの仕事スペース、こちらは寝室……でも、どちらがいいという問題ではない。


「ロウ方式、ロウ方式なの!」


私は萎んでいったロウを思い出して取り乱す。


「わ、わかった。恥ずかしいから一人でやるね。リュートは、悪いけどちょっと外して」


私は当然リュートを追い出そうとさしたが、リュートは引き下がらない。

いや、むしろ私との距離を詰めてきている。

後ずさりする私は、あっという間にベッドの上に戻ることになってしまう。


「自分では解放できないらしい」


なるほど、だからリュートがやってくれるってことね。


「って、納得できるかぁ――!」


「逃げるな、アスカ。元に戻りたいだろう?」


がっちり拘束された私はそれでも足掻く。


「このままでもいいよ。セクターボディー上等!」


「いつまでも魔力を体内に取り込んでいるのはよくない。胸が欲しいなら、自分の本当のものがいいだろう。それはそれで協力してやるから。ほら、大人しくしろ」


そう言われて大人しくするわけにはいかない。

色々問題がありすぎる。とりあえず、一旦落ち着きたい。


「ちょった、待って!」


私が腕を必死でつっぱらせると、リュートはやや不満気だが止まってくれる。


「俺じゃ、嫌なのか?」


あぁ、これは反則だ。嫌だなんて嘘でも言えない。


「……嫌、じゃない」


「なら」


「――でも、恥ずかしい! それに、こういうやむにやまれてみたいな状況が……いや」


リュートは、病気の処置くらいの気持ちかもしれないが私はそう思えない。頬を膨らませて顔を背ければ、大きな手に包まれてリュートの方を向かせられる。


「魔力を抜く方がついでだろう。気がついたら抜けている。なぁ、大丈夫だ」


私はリュートのまっすぐ見つめてくる視線を受け入れ、そのまま目を閉じた。





ふわふわ、ふわふわ、気持ちいい。


「んっ――、うーん!」


なんだかすっきりした目覚め、胸の苦しさも消えている。


「あっ――――! 小さくなってる」


私はつい寂しくなって胸をモミモミしてみる。


「何をしている……アスカ」


「ん?」


声をした方を見ると、リュートが怪訝そうな顔をしている。


「着いたとたん寝続けていたから、心配したんだぞ。寝ぼけているのか?」


「へっ?」


何を言っているのか意味がわからない。リュートが、リュートが……


「リュートが胸の魔力解放してくれたのに何を言ってるの?」


「胸? 何の話だ?」


「やだな~、リュートが……えっ、違うの?」


話がどうも噛み合わない。


「えっと……リュートは仕事に行っていたよね?」


「ずっとここにいた」


「私、師匠に魔法をかけられた?」


「寝ぼけているのか?」


私は寝癖のついた髪をかきむしって、ようやく現実を悟った。


「……全部、夢」


どうりでおかしいと思ったのだ、これは徹夜でゲームをした代償だろう。


「あっ――――、よかったぁ?」


「一体、どんな夢を見ていたんだ?」


「んっ――、それはね……その前にただいま、リュート」


なんだかいつもよりも懐かしく感じる恋人に私は手を伸ばす。


「おかえり」


リュートの温もりは夢の中でも安心したが、やっぱり本物がいい。


「それで、胸とは何の話だ」


「あっ――」


できれば黙っておきたい夢の話をどうやって誤魔化すか、私はとりあえず抱きつくことでやり過ごすのだった。


あと一話で終わりです

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