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三倍返しのお約束  作者: まほろ
番外編
49/58

④彼と元彼

 リュートと並んで街を歩くと注目を浴びる。明らかに私より美人さんたちがリュートを見つめるのに気が付くと胸がぎゅっと締め付けられる。

 でも、リュートは私だけと言ってくれた。それは、前の彼氏からされた仕打ちを思い出すと私には大きな意味がある。

「私だけ……」

 小さく口にして、強く手を握れば同じように返してくれる。

「どうした?」

「ううん、こうしてリュートといるのが嬉しいけど不思議だなあって思っただけ」

「そうだな、たくさんの偶然が重なって俺はアスカに出会えた……でも、アスカを好きになったのは必然だがな」

 甘ーい! これだから外国人? は。日本人はシャイなんだよ、嬉しいけど。

 私が悶絶しているのをリュートが微笑ましく見ているのが悔しい。なんか負けた気分だ。

「わ、私だって……やっぱり無理」

 リュートが赤くなるような言葉は私のような恋愛初心者には荷が重い。

 でもいつか、この余裕顔を崩してやる!

 私が一人決意を新たにしていることなんて露知らず、リュートは満面の笑みで私の頭を撫でている。

 あぁ、この大きくて力強い手が好きだな。

 こんなことすぐ考えてしまう時点で私に勝ち目はないのかもしれない。それでも、幸せだからいいかな。

「そうだ、ヤマトと今日も組み手をしたぞ」

 リュートはいつの間にか、お兄ちゃんたちと交流を深めていたようだ。

 お兄ちゃんたちは子どもの頃のやんちゃから、この辺りでは一目置かれているというか恐れられている存在だ。でも、リュートは怖いなんて欠片も思っていない。

 妹としては嬉しいな。やっぱりお兄ちゃんが恐れられているのは悲しいからね。力が強くても、心は優しいんだから。

「相手をしてくれてありがとう」

 私はたくさんの意味を込めて礼を言う。

「家族とはいいな、俺も楽しんでいる」

 リュートにはもう家族と呼べる人がいないと私は思い出す。

「リュートは私の家族でしょ? だからお兄ちゃんたちも家族だよ。それとも違うっていうの?」

 ここで私のついさっき立てた決意があっさりと叶ってしまう。

「家族……そうだな、そう呼んで許されるなら」

 リュートの耳が赤くなるのを私は見逃さなかった。でも、からかうのはやめにする。

「許すなんて当たり前じゃん、捨てるなんて今さらダメ!」

「まさか捨てるなんて! 言っただろう、俺にはアスカだけだと」

「なら、私も同じだから……だから家族でしょ?」

 人目も気にせず私はリュートに抱きついた。いや、実のところ周囲に人がいないところをちゃんと確認していたのだが。

 でも間の悪いことってあるもんだ。偶々、私たちの睦みあいを目撃した男がいた。

「あっ、明日香」

 しかも相手が最悪。

「廉……」

「美麗とのことを責めたくせに、自分だって浮気していたんだろう!」

 言いがかりもいいとこだ、私は廉な振られてからリュートと出会ったのだ。

 でもいちいち説明するのは面倒だし、元彼になんと思われようとどうでもいいため私は黙って通りすぎるという選択をした。

「おい、無視するなよ」

 廉は私の腕を掴む。力がないくせに痛いのは所作が乱暴だから。リュートなら力は強くても優雅に振る舞う。本当にいいとこないよね。

「放せ」

 低い声が頭上から発せられる。私のために怒ってくれて胸キュンとか思っている場合じゃない。まさに一触即発の状態はまずすぎる。

リュートが殺人を犯してしまう!

「止めて、リュート!」

「こんな奴を庇うのか?」

悔しそうなリュートになぜか勝ち誇っている廉。こいつ美麗と似ているよな、ベストカップルだったんじゃないか?

「庇うとかじゃなくて、こんなの放っておこう。私と一緒にいるんだから、私に集中して!」

「……それもそうだな。せっかくアスカと一緒なんだ」

 リュートが今にも掴み掛かりそうだった怒りの気配を解く。

「でしょ、わかってもらえてよかった」

 再び手を繋ぎ直して歩きだそうとしたのに、また邪魔が入る。

「待てよ、謝れよ。私も浮気してましたってな。だからまた誘ってやったときもあぁいう態度だったってわけか……」

 一人て勝手に盛り上がっている廉になぜ私が謝らなくてはいけないのか、頭が痛くなる。ちょっとびびらせておこう。

「私は悪いことなんてしていないから謝らない。あと、そうそう。お兄ちゃんたちが廉を締めようって言っていたよ」

 廉の顔が引き連る。うちの高校のボスは代々お兄ちゃんたちだからね。

「な、なんだよ。脅しか?」

「全然。断っておいたよ。私は廉と別れてよかったと思っているからね……それと、やっぱり仕返しは自分の手じゃないと。あっ、足か」

 いつかのイクス王子みたいに鼻血を出してもらおうかな。

「ひぃっ、明日香も乱暴かよ」

 そういえば、私も猫をかぶっていた。もうビリビリ剥がすけど。

 私が振り上げた足は、情けない悲鳴を上げた廉の鼻に向かうはずだった。

「スカートの中が見える。もったいない」

 攻撃が阻止されたことを突っ込むべきか、発言に突っ込むべきか。とにかくリュートが私の足を下げさしてしまう。

「リュートのむっつり」

 とりあえず文句を言って拳を出せば、リュートは心外だという表情を浮かべて受けてくる。

「アスカのあられもない姿を披露させるわけがないだろ」

「言い方がエロい、卑猥」

拳の応酬と共に軽快に言い合いが続く。

「おっと、手が滑った」

 滑るところなんてどこにもないのに、ベタな言い訳をしたリュートの拳が流れて呆然としていた廉を掠める。

「ふべっ」

 ちょっとボディーに入っただけなのに弱いな。腹筋したほうがいいよ。ってそうじゃなかった。

「リュート、何やっているの!」

「仕返しは自分でしないと、なんだろう?」

「リュートがなんで廉に仕返し? もう、そんなのどうでもいいや逃げよう!」

騒ぎになっては面倒だ。幸い、周りには人がいないため目撃者はいない。

「ぼおっと立っているから悪いんだ」

 珍しくリュートは怒っているようだ。だから、気になって逃げた後に聞いてしまう。

「廉にどうして仕返し?」

「アスカにキスしようと迫ったのだろう」

「……あっ!」

 リュートはどうやら、アディスに帰還する直前のことを言っているらしい。私はすっかり忘れていた。

「だから、仕返し?」

「そうだ。アスカに不快な思いをさせたし……俺も面白くなかったからな」

 これって嫉妬してくれてたことになるよね、しかも激しくしつこく。

「へへっ、嬉しいや」

 自分のために怒ってくれたって知って、私は胸を躍らせる。

「当然のことだろう」

「じゃあ、私もリュートに纏わりつく女がいたら、攻撃してもいい? って冗談だよ」

 私が攻撃したら、笑いごとじゃすまないからね。

「そんなことにはならないから安心しろ」

「じゃあ、もしそうなったらリュートに攻撃しとくね」

「構わないぞ。自信があるからな」

 私たちは暗くなり始めた街から離れ、家路に着いた。


残りあと一話です。

ということで、次の話を考えたのですが二つで迷っています。

活動報告で詳しく書かせてもらいますが、序だけ二つとも上げさせてもらっています。

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