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三倍返しのお約束  作者: まほろ
三倍返し
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恩も恨みも三倍返し(後)

「国の一部を渡せと?」

「嫌なら、シディアンという国自体が消えるかもね」すっかり悪役の台詞が板についてきた。

「そ、それより、お前たちが力を貸してくれればトルンカータを手にできる。そうすればもっといいものが与えられる」

 誰がシディアンに利益なんてやるものか。

 悪いけど、シディアンに許された答えは一つしかないんだ。

「どうするの? 攻められたいの?」

 抵抗するって言われると非常に困るんだけど、そんな素振りは見せずに堂々としている。やがて、アルベール王子は決心した。

「……わかった」

 よしっ。

 私は心の中でガッツポーズをとる。

 三倍返しの仕返し完了! 誰も怪我などせずにスマートだったな。これから王子は国の一部を失って責められるだろうが、自業自得だもんね。

 私はしっかり王様との約束も取り付ける。さらに、久しぶりにシリスとゲイルにも会って近いうちにまた遊びに来ることを約束した。私がまた来るって言ったときのアルベール王子の苦々しい顔が忘れられないわ。 

さて、ここからが最後の仕上げだ。ジュハは上手くやってくれたかな?



「お帰りなさい。わたしの協力は必要なかったようね」

 意気揚々として森へ戻った私たちを師匠は満面の笑みで迎えてくれる。

「アスカ、格好良かった!」

 そういえば、ロウの活躍の場面なかったね、ごめんよ。

「さすが、わたしの弟子ね。それはそうと、レンちゃんは放心してるけど?」

「どうして、アディスを……?」

「まだ、現実を受け取れられないだけ! 師匠、私にできないことでお願いがあります!」

 現実を認識してもらうには、実物を見てもらうのが一番だ。

「お願い? そうね、いいわよ。あそこはわたし、行ったことあるから」

 目的地はここからそう遠くないのだが、移動時間は短いに越したことはない。

「やった! ほら、リュート行くよ」

 ロウには自分で立ってもらい、私はリュートの腕をとる。

「じゃあ、行くわよ」

 師匠の魔法に間違いがあるはずもなく、私たちはあっという間にかつてのアディス、火山の麓へと辿り着いた。

「ここは……」

「リュートの故郷でしょ? シディアンからもらったのとトルンカータからもらったの、合わせても以前より小さいらしいけどさ」

「トルンカータ?」

 そう、私はシディアンに行く前にトルンカータにも同じような交渉を持ちかけていた。

「王子二人には反省してもらわないとね」

 悪戯っぽく笑ったが、リュートはまだ呆然としていていまいち反応がない。

「迷惑だった?」

 遠慮がちに聞くと、ようやくリュートの表情が変わる。

 私の質問に対して、リュートの返事はなかった。だけど答えは零れ落ちた一つの滴にすべて込められていた。

「よくお戻りになってくださいました」

 私たちの会話が終わるのを待って、恭しく迎えてくれたのは今回の共犯者であるジュハだ。

「ジュハも一枚噛んでいたのか……」

 リュートが嫉妬している間にサプライズを用意できたなんて、完璧すぎる私の計画に乾杯だ。

「作戦成功だね、ジュハ!」

 計画通りに事が進んだことを喜び合おうと私はジュハに手を出す。

 しかし、その手は触れられることなくジュハは私とリュートの目の前に跪いた。

「我らの大切な方に心からの感謝と敬愛を」

「えっ、えっ……ちょっと止めてよ」

 私は慌ててジュハや、その後ろにいるアディスの人たちを止める。

 私はリュートに助けてもらった恩を偶々持っていた魔力のおかげで返せた。魔力がなければ、トルンカータで力尽きていたことを考えれば、まだまだ修行が足りない。

「止めません。ありがとうございます」

 感謝されるのは照れくさい。それに私はここにいる人たちを思って行動したわけじゃないから、ちょっと悪い気もする。

「リュートに言って。私はまだまだ足りないかもしれないけどリュートへの恩返しに今回の計画を実行したから。全部、リュートのおかげだよ!」

「俺? 俺は何もできなかった……」

 それは過去の後悔だろうか、今回のことだろうか。いつのことだとしても、リュートはアディスに負い目を感じている。そんな必要はないことを早く知って欲しい。

「お二人ともアディスにとって大事な方でいいじゃないですか。どうして固辞しようとするのです? レンリュート様はずっとアディスのことを忘れずにいてくれた。そして、アスカ様を連れてきてくれた。アスカ様はアディスのために奔走し、レンリュート様を再びこの地へ呼んでくれた」

 涙を流して抱き合い喜び合う人々を前に、私もリュートもこれ以上否定はできなかった。

「……アスカ、ありがとう」

「うん」

 そう、私はみんなの喜んだ顔も嬉しいけど、本当はこれだけが欲しかった。

 しっかりと繋いだ手からはリュートの熱が伝わってきて、私は頬を赤くした。


 それから、この地の治め方についてちょっとだけ揉めた。

 アディスのみんなはリュートが王として立ち治めていくことを望んだが、リュートは首を縦に振らなかった。

「そんな権利、俺にはない」

 だそうだ。頑固だから、説得は難しいだろうな。

 長期戦を見込んでいたが、それは師匠の一言で収まった。

「自治制の強い国にすればいいじゃない? レンちゃんは王だけど、それは対外的なもので独裁をしなきゃいいのよ」

「対外的……そうだな、シディアンとトルンカータがこのまま黙っているとも思えないしな」

 あのダメ王子たちなら約束を破りかねない。心配だな。

「大丈夫だ。アスカからもらったチャンスだ、今度こそ守る」

 頭にポンッと置かれた手に安心はできるが、心配は簡単に消えない。

「僕もいる! アスカを待ってる」

「そうねぇ、わたしも住みやすいなら定住しようかしら。森での暮らしも飽きたしねぇ」

 決してリュートだけじゃ頼りないわけじゃないが、ロウに師匠もいれば心配は少なくなる。

 こうして話はどんどんと進んでいき、いつしかお祭り騒ぎがはじまった。


「アスカ、もう帰るのか?」

 賑やかな騒ぎから少し離れた場所で、私はリュートに声をかけられた。本当は声をかけられるのを待っていたんだ、遅いぞ。みんなリュートと話したいのはわかるから我慢してあげるけど。

「うん。いつまでもいたら、同じ時間には戻れるっていっても私が老けちゃうし」

 ここにあと少し、あと少しと留まれば決心が鈍るのはわかっている。

「私、戻ってこれるかな」

「来るだろう」

 よっぽどリュートの方が私より落ち着いているな。なんか、立場が逆転したみたいで悔しいな。

「もっと惜しんでくれるかと思った」

「気持ちを押さえておかないと、力づくでも返さないという手段に出るかもしれないからな」

 リュートってクールなのか、情熱的なのか両極端だ。

「この楽しい時間に水は差さないよ。お祭り騒ぎが終わったら……」

「そうか、まだ一緒にいられるな」

 挨拶とかもあるし、明日すぐとは言わない。この騒ぎはきっと二三日くらいは続くかな。私の旅立ちはその後だ。

 ただ隣にいられる時間を私たちは楽しんだ。


そして、あっという間に時間は過ぎる。 

別れが悲しいのか、リュートは昨日の夜から姿が見えない。顔も見ないで帰れっていうのか。

「アスカ!」

 ちゃんと取っておいた制服を着て準備万端の私の腕が後ろから引っ張られる。

「間に合った……これを」

 私の腕には以前イクス王子に壊された腕環に似た、でもそれよりももっと繊細で綺麗な腕環がはめられた。

「これって?」

「ずっと暇を見て作っていたんだが、最後の仕上げは時間がなくて焦った」

 リュートは職人の国の王だけあって、手先が器用らしい。職人としてもやっていけそうだ。

「私にくれるの?」

「アスカ以外に誰がいる。アディスに伝わる腕環はもうないが、もう一度……新たなはじまりの腕環だ。アスカに貰って欲しい」

 リュートの腕にも同じようなデザインの腕環がはまっている。

 恥ずかしい、嬉しい、恥ずかしい…………嬉しい!

「リュート、またすぐに戻ってくるね!」

 私は向かうところ敵なしという気分。この高揚感に流されて帰還しよう。そうしないと、また迷ってしまう。

 勢いついた私は、ちょっとだけ大胆な行動を思いつく。信条? そんなのは忘れたよ。

「ありがとう、リュート」

 見送りに来てくれた周囲の驚きぶりがなんだか笑える。私もかつての私のように、人前でキスするなと思われているのかな。

 ぼんやりと取りとめもないことを思いながら、私は帰還した。


「やっぱり、ダメか」

 帰還した私が一番にしたことは、家族の元へ走ることではなかった。

 思った時間軸とは少しずれて到着したのか、授業をさぼった形で放課後に突然姿を現した私を友人たちは驚いて質問責めにしてきたが、そんなこともどうでもいい。

「絶対に方法を見つけてやる……」

 あれは夢じゃなかった。腕環がその証拠に私の腕に輝いている。ただ……魔力がなくなっただけだ。

 零れる涙を拭うことも忘れて、私はあちらで切望していた家に帰った。


本編はあと一話です。

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