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三倍返しのお約束  作者: まほろ
突撃! 隣国
39/58

妄想はすべて三割増し

 珍しい果実が並べられた出店の横を通り抜け、妖しげな雰囲気がする香水屋の天幕の前を過ぎていく。

 迷わず歩くロウに置いていかれないようにしっかりと着いていく。

 小さな体は人ごみに紛れてしまいそうだが、ロウはトルンカータの民の中でも目立つ整った容姿をしているためそう大変ではなかった。

 ただ、逆に目立つ容姿が災いして人さらいのようなものたちに何度か狙われた。そのたびにロウは容赦なく噛み付いていて、俺たちの出番はなかった。

「ずいぶん柄が悪いの多いわね。わたしも気を付けなきゃ」

 いや、ヴィルヘルムは大丈夫だろう。大体連れて行くにはかさばる図体だ。

「何よ、文句ありそうな顔ね。レンちゃんなんか浚われちゃえ」

「無理だろ……そういうのは小さくて愛らしい者が対象だと相場は決まって……そ、そうか、アスカが狙われたのは魔力だけじゃないかもしれないのか!」

「落ち着いてください」

 ジュハに宥められるが、とても落ち着いてなどいられない。

「もう、レンちゃんたら想像力が豊かなんだから。アスカみたいなちんちくりんは魔力目当てに浚われたのよ」

 ヴィルヘルムの言葉は一見すると悪口だが、親愛がこもっているのはわかる。だが、納得はいかない。

「アスカは魅力的だろう?」

「どういう意味で魅力的なのかって考える必要があるわね」

「どういう意味でもだろう? あぁ、心配だ……」

「ここまでくると想像というより妄想ね。レンちゃんはむっつりスケベだったのねぇ」

 失礼なことをいう男だ。俺の考えていることは真実だ。

「むっつり~? 早く行くよ」

 ロウまで変な呼び方をするな。アスカに知られたら絶対に笑われる。いや、それくらいで笑ってくれるならいいか。



 ロウが案内してくれたのは、隠れ家のような場所だった。

「ここは?」

「イクス様に仕えている使い魔の家」

「それはまずいのではないですか?」

 ジュハが警戒を強めるが、ロウは首を振る。

「仕えているっていっても、別に望んでいるわけじゃないよ。イクス様、魔力強いから逃げられないし」

 呼び出されれば拒否できない。そんな使い魔たちが暮らす家らしい。

「ロウだ!」

「本当だ、ロウ。どこへ行っていたの?」

「イクス様から離れられたのはどうしてさ?」

 扉を開けると、ロウと同じくらいの子どもたちが雪崩のように飛び出してきて質問責めしてくる。

「みんな、少し落ち着いて!」

 ロウが頼めば、興奮した様子の子どもたちが静かになる。意外にもロウはリーダーシップがあるようだ。

「新しい主人を見つけた」

「えっ、それってこの人?」

 指差されたのはヴィルヘルム。俺たちの中では抜群に魔力が高い。

「違うよ~。僕、変人は好きじゃないよ。もっと可愛い人だよ」

「へぇ、言うじゃない……」

 ロウは可愛い顔して結構辛辣なことを言う。ヴィルヘルムは青筋を浮かべているぞ。

「いいなぁ、ロウ」

「私たちにも紹介してよ」

 ロウは自慢気な顔を一瞬覗かせてから、すぐに表情を暗くする。

「紹介したいけど、今はいないんだ」

「どうして?」

「なんで?」

 また一斉に子どもたちの甲高い声が家に響く。

「イクス様が連れて行っちゃった……」

「えっ、イクス様……それってかわいそう。わたし、撫でられるの嫌い」

「僕、すりすりされるの嫌」

 次々に使い魔たちが不満を零す。

 そして、その不満は聞き捨てならないぞ。撫でられる? すりすり? そんなことをアスカにしていたらどうしてくれよう。

「僕も逃げようとしたら首輪……ムカついた」

「なにおぉぉぉ―――――!」

 俺の叫びに使い魔たちは驚いて肩を揺らす。ヴィルヘルムが笑い、ジュハが困った顔をしているのがわかるがそんなことどうでもいい。


「可愛いな、アスカは」

「放して!」

「一人でこの国にいて寂しいだろう。慰めてあげるよ」

「結構です……やっ……」

「アスカの肌は柔らかいな、私が触れたら怒るかい? それもまた楽しみだ」

「助けて……リュート」

 変態王子がアスカの柔らかな頬を撫で、首筋を手でなぞる。

そしてその先は豊かな? 胸……?


「妄想よ、レンちゃん」

 ヴィルヘルムが背後から俺の頭を叩く。いかん、すっかり白昼夢を見てしまった。しかも声に出していたらしい。

「失礼ながらアスカ様は豊かな~とは形容しがたいでしょうね」

 別に豊かじゃなくてもアスカならいい。いや、これはどうでもいいことだな。

「今頃、アスカは大変な目に! 一刻も早く助けに!」

「まぁ、その可能性もなくはないけどねぇ。でも使い魔たちにしていた行為は、動物型によ。アスカも動物っぽいところがあるけど……」

「動物型?」

 忘れていたが、ロウは自称狼(限りなく子犬に近い)姿になれるんだったな。

「イクス様、動物好き」

「でも、近づくと嫌われるの。だから、僕たちみたいな使い魔を使役させるの」

 動物の純粋な心は変態を嗅ぎわけることができるらしい。好きなのに、嫌われる。それで使い魔たちを愛でているのか。

「それで、僕たちに協力してくれない?」

 ロウが使い魔たちに頼む。彼らは王宮に入れるだろうからな。

「うーん。そのロウの主人、僕たちも受け入れてくれる?」

「私もそっちに行きたい!」

「そうしたら、協力してあげる」

 みんながアスカを望むだと。助けてやりたいが、アスカを独占できなくなってしまう。

「それは大人げない人が睨んでるから、どうかな?」

 俺のことを言っているのか? そうさ、大人げないが反対だ。

「じゃあ、私はこの人でもいい」

 一人の少女がヴィルヘルムにくっつく。あぁ、そこはかとなく犯罪臭がする。

「あら~わたし? どうしてこう女の子ばかりかしらね。もっと鍛えがいのある有望な男の子はいないのかしら?」

「女の子でも、私が一番強いわ」

「違う! 私よ」

 いつの間にやらヴィルヘルムを取り合う構図ができている。こいつは女装家だぞ。

「主人の件はすべてが片付いたらということにしたらどうです? 時間もないことですし」

 そうだ、ジュハ! いいことを言った。というか、俺は急いでいるんだ。ここまで、あっさりと進んでいるようだが実は日にちが経っているんだぞ。

「みんな、それでいい?」

「は~い」

 ロウの問いかけに、使い魔たちは行儀よく揃って手を上げてくれる。

 これでようやくアスカの元へと馳せ参ぜられる。

 使い魔たちと俺たちは急いで計画を練り、実行に移した。


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