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三倍返しのお約束  作者: まほろ
突撃! 隣国
37/58

参加資格は王子様

こんなときにどこからか取り出した水晶玉に手をかざしたヴィルヘルムがため息とともに声を漏らす。

以前、アスカが口にしたこの水晶玉はヴィルヘルムの気に入りのアイテムの一つとなっている。

「アスカは本当に王子ってものと縁深いわね……」

 確かに呼び出したのも奪ったのも王子だ。そして俺はその深い縁とやらを笑って聞くことができない。

「王子ですか……」

 ジュハの視線を背中にしっかりと感じる。

言いたいことがあるなら言え! いや、やっぱり言わない方がいいな、事態が混乱してしまうだろう。

「多分、戦いを始めるつもりよね。となると一番有効なのはアル坊に協力してもらうってところかしら」

「あの王子に? お断りだ」

 ヴィルヘルムが呼んだアル坊っていうおかしな呼び名はあえて突っ込まないで、俺は反対の意思だけを示す。

「レンちゃんたちがアル坊を嫌っているのは理由を聞いているから納得よ~。勝手に召喚、望まない従僕、怨まれても仕方がないわ。でも、あの生意気坊主は昔から魔力は強いしセンスがあるからね、利用すれば役に立つわよ」

ヴィルヘルムの見た目は俺よりいくつか年上くらいにしか見えない。それなのにアルベール王子を坊主呼ばわりとはやはりヴィルへルムは謎が多い。機会があれば、じっくりと話してみたいところだ。

「ですが、逆にこちらが利用される可能性もあります。アスカを助けるという大義名分でシディアンは トルンカータへ攻め込めます」

「それはそうね。トルンカータを刺激しちゃう可能性もあるから駄目ね」

アルベール王子に助けを請う作戦はジュハの一言ですぐに打ち切りとなる。

「でも、占いでは王子がいると無事救出って出てたのよ」 

どこまで本気なのか、ヴィルへルムは冗談ともつかないことを続けて言ってくる。

「アスカが助かるなら、僕頼んで来てもいい」

「あら~。ロウは本当に良い子ね」

 厚い胸板に挟まれたロウは窒息しかけているぞ、目が白黒している。

「事は一刻を争うのです。迷っている暇などないですね」

 ジュハの発言が胸に刺さる。

い、いや別にヴィルヘルムの占いなんて信じていない、アスカを助けるのは王子じゃなくても構わないはずだ。

「アル坊がアスカを助けて、それでもって二人は恋に落ちる。そうしたら、アスカのミレイへの仕返し完了でしょう? 物語としては出来上がっているわね」

 どこがだ、バットエンドも甚だしい。アスカにとっても俺にとっても絶対にあってはいけないラストだ。

「……呼び出したのがシディアン、奪ったのがトルンカータ、それぞれもう役目は終えてるだろう。アルベール王子が助けるという二役目はふさわしくない。今必要なのは新しい人物だろ」

「あら~、レンちゃんは新たな王子に心当たりでもあるわけ?」

 ヴィルへルムはこんなときに愉快そうな顔する。アスカが大変だろうときに不謹慎だ。

「ある。だから、さっさとトルンカータに乗り込む。王宮には行けなくても街には行けるだろう」

「行けるけど……まぁ、王子なんていなくてもいいわね。わたしの占いはよく当たるんだけど」

 ヴィルへルムは俺の心当たりが、早く行動したいがための嘘だと思っているようだ。

「だから王子は本当にいる。占い通り、アスカを助ける……この俺が」

「レンちゃんって……」

 ヴィルへルムが息を飲む。驚いただろう、何せこの俺がアディスの――

「そういうキャラだったの? 自分はアスカにとっての白馬の王子だ的な……ちょっと痛いわよ、それって」

「お、俺は本当に王子だ!」

 痛いとはどういうことだ。俺は事実を言ったまでなのに。王子の俺は痛いのか、アスカに嫌われるのか。

「ヴィルへルム殿、レンリュート様は正真正銘、王子です……いや、王亡き今は王と言っていいのです」

「王亡きというか、国もないからな。元王子の方がしっくりいくか」

「国がない……アディスね。ずっとシディアンにいたの……知らなかったわ」

 ジュハのとりなしでヴィルへルムは俺が王子であることを信じたらしい。

 そうなれば、物分かりのいいヴィルへルムにはすべてを説明しなくてもわかってもらえた。

「十五年以上も昔の終わった話だ」

 まさかそれが今になって名乗ることになるとは、人生とはわからないものだ。

「シディアンの王子はレンちゃんの正体を知っているのよね?」

「あぁ、だから協力なんてありえない」

 その昔、いよいよ火山活動が活発になったとき父と母、すなわち王と王妃は方々に使者を送った。

 国を助けてくれ、それが無理なら国民を受け入れてくれと。

 人道的な願いは叶えられると信じていたが、答えはまさかの拒絶。避難できた者もいるが、噴火に飲み込まれた者、侵略に潰された者は大勢いて生き残りは少ないと後から聞いた。

 そのとき俺はシディアンにいた。

 父と母がせめて次代の王子はと、使者に託したのが俺だった。まぁ、その思いも引き裂かれるわけだ。

 当時、家来ごっこという遊びを気に入っていたアルベール王子に目を付けられた俺は、使者と共に国に帰る、ここに留まってくださいという攻防中に思わぬ形で負けた。

 国に帰れなかった俺は、まざまざと生き延びたのだ。アルベール王子は俺がアディスの王子だと知らないで従わせたらしい。くだらない主従の茶番に十五年以上も付き合ってきたが、まったく情はわかなかった。

 そんな俺を見て、王子は優越感と少しばかりの不安を持っていた。そして、逃げ出された今は不安だけが残っているのだろう。

 俺に復讐されるんじゃないかという恐れ、だからシディアンの街であんなに必死で探されていた。

「まったく……嫌な話ね。でもレンちゃんが生きていてよかったわ。だってそうじゃなきゃ、みんなアスカには会えなかったし、きっとアスカは酷い目にあったでしょ」

 確かに、アスカに救われた俺だが、俺もアスカを救っている。そう考えると報われる。

「ねー、どうでもいいから早くアスカのとこ!」

 一人、俺のことなんか興味のないロウが急かしてくる。

 だが、俺のことなんかどうでもいい、アスカを助けることが重要だという意見には大賛成だ。

「そうだな、行こう」

「ちょっと待って。それはどういう目的? あわよくば国の再興とか狙っているのかしら?」

 そんなことに、俺は興味がない。

 でもヴィルへルムは本当にアスカにとって良い師匠なんだろう。弟子を口実に利用されないかを本気で心配している。うん、美しき師弟愛だ。そう、それ以上の想いは許さないぞ。

 ちょっと余計なことを考えてしまったが、俺はヴィルへルムに向かって当たり前すぎることを宣言した。

「俺の目的はただ一つだ」

それは、アスカだけ。

だが、それを口にする前に邪魔が入ってしまった。

俺がアスカのことに関して重要なことを言おうとするといつもこれだ。

思い出せば、さっきだって告白の途中……しかもアスカだっていい感じの雰囲気だった。

早く、続きを。

俺は、とりあえず発言の邪魔をしたジュハに鋭い睨みを与えてやった。


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