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三倍返しのお約束  作者: まほろ
突撃! 隣国
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要求は堅いベッドと臭い飯

 差し出された手など掴めるはずがない。

 私はイクス王子からジリジリと距離をとりながら様子を窺う。

「シディアンはいつ動く……もう時間はないかもしれない」

 イクス王子が焦るほど、私にかかる危険も高くなる。国同士のことは勝手にやってよと思うが、問題をややこしくしているのはシディアンに手を貸す形になっている美麗とフリーの私にあるのもまた事実。

「もう時間はない。何か方法を」

 イクス王子は私の手助けを諦めたのか、急に踵を返して出ていってしまう。

 美麗の魔力がアルベール王子に移るとどのくらい大変なのか実感がないから、焦れないけどイクス王子をみたらトルンカータは危ないのか。

「魔力ね……」

 ふいに手首の痣を見れば、薄く消えかけている。

「これって」

 魔力を封じるのだって一生ではない。もしかしたら魔力封じの期限は近いのかもしれない。

「これが消えれば帰れる……裏を返せば、イクス王子はそれまでに行動を起こす」

 師匠は誰もが認める魔法使い、ロウはトルンカータのことを良く知っている、そしてリュートだって私を探してくれているはずだ。

「なのに、どうして辿りつかないかな~」

 他力本願なのは私らしくないが、こういうときはヒーローが格好良く助けに来てくれるものだ。所詮私はヒロインじゃないってことか。

 目下の目標は、この痣をもっと小さくしつつその事実をイクス王子には伏せておくこと。そうすれば、移動魔法で私は無事にリュートのところへ帰れるってわけ。

 うん、今私はさらっとリュートのところにって思った……いや間違いじゃないんだけどさ。駄目だ、なんか日に日に私はこればかりだ。

 はいはい、そうですよ。認めるよ、私はリュートのことが気になっています。今更だよ、きっとキスしたとき……いや、助けてくれたときからずっと気になっていたんだと思う。

 認めてしまえば楽だ。しかも、ここには本人がいないからうっかりばれることもなく素直になれる。断じてここにいたいわけではないけどね。

「さて、シディアンが余計な刺激を与えないで数日いてくれれば私にとってはありがたいんだけど……」

 この異世界に降り立って、未だかつてそんな都合の良い展開など一度もなかった。今こそ使っていなかった運を使うべき時だろうと思うが、やっぱり事はお約束通りに動きだす。



「シディアンが戦の準備をしている」

「……それは大変ですね。でも、私は加わりませんよ」

「あちらにはミレイという魔力補給機があって、こちらには何もない。不公平だと思わないか?」

 まったく思わないと私はイクス王子を無視するが、その態度が気に食わなかったのか足の鎖を引っ張られる。

 そういえばこんなのも付いていた。もう足にも馴染んでしまっていたからすっかり忘れていた。これってよくバトルマンがでよくある修行になるのかな。ということは、私の足が速くなっているかもしれない。

 それにしても変態キャラが演技だとわかったとたん、イクス王子は違う方向へ変態チェンジを行ったようだ。これじゃ、私が虐められているみたいだ。

「引っ張られて、引きずられても大人しい……ついに諦めましたか?」

 私が静かだから、折れたとでも思ったのだろう。残念だけどそれはない。痣はもう消えかけているし、自分でも魔力の気配が漏れ出しているのが感じられる。

「こんなところで私に頼らないで、自分たちでなんとかするために話し合った方が懸命。いくら説得しても無駄だから」

 戦を推奨するわけではないが、トルンカータにだって兵や魔法使いはいるわけで戦えないわけではない。

「私は勝ちたいのだ」

「だから、それに人を巻き込むなってーの」

 この前の感情を爆発させたイクス王子を忘れたわけではないが、また軽い態度に戻っていたため油断した。

「巻き込むのではない。参加は必然だ」

「はっ?」

 首を傾げる私に手が伸びてくる。

 私は引きずられた体勢を立て直し、鎖がついていない足を振り上げる。

 狙いは相手のみぞおち。しかしその狙いはすんでのところで後ろに引かれて逃げられる。

 本当なら今度は振り上げた足を床について、その反動で逆足を回転させて攻撃する回し蹴りが得意なんだけど、今はできない。

「ちっ……」

 思わず舌打ちしてしまってから、私は打撃を与えたい一心で拳を出してしまう。当たらないとムキになる性格は直した方がいいと、いつも試合前に兄からアドバイスされていたのに。

 パシッ

 渾身の力を込めた拳が、イクス王子の手のひらで受け止められる。多分無事では済んでいないだろう手を気にした様子もなく、私は受け止められた手でやすやすと拘束される。

「少し手ぬるかったようだな……アスカがこういう行動に出るのなら、強引でもいいということ。少々、変態を望んでいたのだろう?」

 おかしな解釈は止めて欲しい。これだと私が変態みたいではないか。

「大丈夫、きっと喜ぶ」

 頭のネジがきっと二三本緩んでいるに違いない。私がどうして喜ぶっていうんだ。今の状況は拘束だよ、拘束。

 なんとか逃げ出さないと、とは思うもののしっかりと固められた体は動かすことができない。もやしっこじゃないんだな。

「これは何か企んでいるのかい?」

 不自然ではないように、この国の格好に合わせて隠していた手首の痣が暴かれる。

「もう少しで、私は帰れる。もう、魔力が零れている」

「それは危ない。逃げられないように閉じ込めておかないと」

 たいして危ないと思っていないようなイクスの言い方に引っ掛かりを覚える。

「閉じ込めたって無駄」

 移動魔法さえ使えればそれだけでいい。

「それが、無駄ではないんだ。すべて上手くいく方法がある」

 どうせろくなことじゃない。

「答えは意外にも近くにあったのに気が付かなくて悪かった。アスカはきっとこれを待っていたんだね。アルベールが結婚するって噂が流れてきて、思い出した」

 ほらっ、結婚とかいう単語。ありえない。というか、結婚するだけで魔力が与えられる?

「さて、行こう」

「ど、どこに行くの!」

「もちろん、花嫁を拘束する場所は一つ」

 手首はいつの間にか痣を隠していた布で縛られている。そのため浮かび上がった体は不安定に感じて怖い。

「誰が花嫁じゃー!」

「アスカの望みだろう?まったく従わないと思ったが、この方法を待っていたとは……」

 あぁ、嫌な予感。というか私の予感が正しいなら、ダメだ。何としても逃げなくては。

「はーなーせー。従う、従わないの前に花嫁なんてごめんだー!」

「大丈夫、望み通りだ」

 何だかんだで運ばれてしまった一室はこれまた豪華で、広い。それなのに目に入る物は一つっておかしい。

「趣味悪い……」

「最高級の檻だろう」

 四柱に支えられた天蓋から薄い紗がひらひらと垂れ下がる寝台が部屋の中央に鎮座している。

「最高級なんていらない、いらない!」

 冷たい地下で暗くてもいい、妖しげな香の薫りが漂ったムーディーな場所なんて望みません。

「そう言わずに、ほらっ」

「わっ……んぐっ」

柔らかなシーツと積み上げられたクッションに挟まれて私はうめき声を上げる。ここは、ダメ。そう思って立ち上がろうとしたが遅かった。

 さすが高級な寝台、おもいっきり乗り上げられても軋まないや。

 現実逃避なのはわかっているけど、許して欲しい。だって、現実は……私、押し倒されてる!

 なんだよ、この突然の展開。捕まえるなら囚人らしく、牢に入れろ!

 自ら牢に入りたがる囚人も珍しいとは思うが、私は今それを切に願っている。


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