表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

リア充ハンター 〜リア充ハンター。それは恋を謳歌する者を嫌い、デートを妨害する者……〜

作者: hatisuke2040
掲載日:2025/12/29

〝リア充ハンター〟


 それは人目を気にせず公道でいちゃつく恋人共を、日本の夜の街を跋扈する恋に溺れた悪共を駆逐する、己の正義を信じて疑わない男。


 彼は今日も街を練り歩き、憎きリア充カップル共を粉砕するために暗躍していた。


 ……と。それが俺。比里ヒリアズマ。24歳。高卒フリーターであって、決してどこかの先輩のような学生ではない。


 今日は世の中が恋に湧く聖なる夜……要はクリスマスだ。俺はそんな夜を満たすイルミネーションの光の中を、幸せを謳歌している奴らを求めて彷徨っている。


 だがここは都内のデートスポットだから、見渡せば幸せそうな顔をして男女で腕を組んでるやつが嫌でも目に入る。


 しかしただそれだけではいけない。俺が求めるのはただのカップルではなくリア充……ラブコメ主人公みたいな『リアルに充実してる奴』だ。


 まあ、できればカップルなんてものは全員爆破してしまいたいが……それには社会的なリスクが付きまとうのでやめておこう。


 ともあれ、そんな『ラブコメ主人公』のようなやつが、その辺に歩いてやいないものだろうか……。


 ……む、何だあのビルの影からクリスマスツリーの下を見つめる少女たちは。……気になるな。まさかあの視線の先には我が宿敵があるのでは……?


 そーっとだ。彼女らの後ろからそーっと覗いてみよう。


 あの男……よし! どうやらビンゴのようだな。あれは紛れもなくリア充。しかもこの覗き少女たちを見るに、ハーレム系リア充の類だろう。


 覗いてる少女は金髪ツインテールと、黒髪ロングヘア、青髪三つ編み。君等は所謂いわゆる『負けヒロイン』と言うやつだな。


 そして如何いかにも爽やか系オタクといった雰囲気の男の隣にいるのは……黒髪ショートヘア眼鏡の巨乳ちゃんか。こっちも隠れオタクっぽい。


 とくれば、彼らの馴れ初めは想像するに容易い。おそらく、なにかの拍子に互いの趣味について話し合う機会があって、その時に意気投合したのだろう?


 そのままこいつら負けヒロインズを振りに振りまくってメガネちゃん一筋ってか? まったく一途を気取りやがって。腹立たしいことこの上ない。


 ……決まりだ。今日のターゲットはあいつらにしよう。リア充ハンターの前でイチャイチャしたこと、必ず後悔させてやる。


 歩き出したな。ほう、堂々と歩道の真ん中を往くか。イルミネーションの金色の光に包まれながら、二人で見つめ合って……あぁ、反吐が出るほどロマンチック。畜生ムカつく。


 今すぐにでも蹴り込んで、あいつらのロマンスをぶっ飛ばしてやりたいところだが、あいにく奴ら二人は負けヒロインズに監視されてる。


 だが今までの経験上、案外こういうのは堂々としていればバレないものである。故に俺は堂々と、こいつらの後ろについていく。


 はてさて、ところで俺は、どのようにこいつらの最悪に等しいラブロマンスを妨害してやるべきだろうか。


 奴らの前まで走っていって当たり屋みたいなことをしてやるのもいいが……それだと少々インパクトが弱い。かといってドロップキックをしたら暴行罪で逮捕だ。


 ……今のところできることは無さそうだな。大丈夫だ。ゆっくり待てば、いつかその時は来るだろう。


 ……ん? こいつら、突然建物に入ったぞ? ここは……あぁ、水族館か。ということは水族館デートのつもりか?


 畜生。魚たちと水槽を照らす照明が映し出す幻想的な空間で二人してイチャイチャしようってか? ふざけてる。魚が見たくて来た人に迷惑だろうが。


 よし。大義名分ができたな。必ず奴らのこの水族館デートを失敗させてやる。


 男は最初からチケットを取っていたようで、すんなり入場する。俺もこんなことがあろうかとチケットを一枚取っていたので、すんなりと入場した。


 だが、俺の後ろから着いてきていた負けヒロインズはチケットを取っていなかったらしい。全く準備が悪い。追跡者チェイサーとしての自覚が足らんのだ。


 内輪揉めをしながらチケット窓口の列に並びに行く負けヒロインズを横目に見ながら、あのリア充馬鹿ップルを追跡する。


 まず最初に現れたのは大水槽。馬鹿ップルは巣層の中を泳ぎ回るエイっぽいやつとか群れをなす小魚を眺め、初々しく手を繋いだ。


 大水槽の側でいちゃつくなよ。この水族館にお前らみたいなリア充カップルを見に来てるやつなんかいねえから。


 肩を寄せ合っちゃったりして……まったく青春を謳歌していて反吐が止まらん。……あ、お前ら互いに目を合わせたりして、一体何を向き合ってるんだ? まさか……。


 げ、やっぱりだ。こいつらキスするつもりだぞ。まずい。なんとかして阻止しなければ……。何か、何かやつらの唇が重なるのを防ぐ手立てはないか。


 む。入場口からガキが一人。


「ママぁ! 早く来てよー!!」


 言動から察するに、このガキは早く魚が見たくて仕方がないらしい。上手く行けば、妨害に使うことができる。


 ガキの腕を捕まえる。


「……? だれ? どうしたの?」


 無垢な瞳を見つめつつ、俺は水槽を指差す。しかしガキは理解できないようで、不思議そうに首を傾げながら俺を見上げた。


 なんて出来の悪いガキなんだノロマめ。あと大体五センチくらいで唇と唇が衝突する。もう何をしても間に合わない。


 畜生……。


「だっ……駄目だ!」


 そう思った時、突然男の方が言った。


 急に何かと思ったら、そいつがキスを止めている。そしてやってしまった、とでも言いたそうな表情で周囲を見てすみませんと頭をペコペコする。


 そして女の方にコソコソと耳打ち。女の方はパッと顔を赤く。耳打ちの内容は『人前だからやめとこうよ』ってとこだろうか? ムカつくぜ。


 それに自律的に止まってくれたから良かったが、妨害は大失敗にほかならない。ついでになんかいい感じになってるし……リア充ハンターとしてそれは最悪だ。


「あの……どちらさまですか?」


 声をかけられた。未だに腕を捕まえていたガキの父親と思わしき男。こいつも童貞を卒業しているのだと考えると恨めしく、すぐにでも爆破してやりたい衝動に駆られるが今回のターゲットはお前じゃない。


 命拾いをしたな、とばかりにガキの腕を放し、おきみやげに父親を睨みつけてから例の馬鹿ップルを追いかけた。


 俺に追いかけられているとも知らずに、数々のコーナーを抜けていく馬鹿ップル。


 次のコーナーはクラゲで、いい雰囲気になること間違いなしだ。さて、そうくれば俺はリア充ハンターとして、必ず奴らのイチャコラを妨害しなくてはならないわけだが……おや? 気づけば後ろから負けヒロインズが……。これは……使えるな……。


 じゃあ、俺はこの辺で生物の説明でも読みながら時間を潰そう。上手く行けば、俺はあいつらのデートを大失敗に終わらせる事ができるだろう。


 ……へーん。この変な口のやつ、ゾウギンザメっていうのか。ほうほう、ナンコツギョ……ロレンチーニ……器官? あぁ……全然わけわからんな……。


 まあいいか。どうせただの時間潰しだ。負けヒロインズはもうすでに俺よりも先行してるし、ゾウギンザメに対する深い理解はデート妨害には必要あるまい。


 さて。俺もクラゲコーナーに進むとしよう。負けヒロインズは……よしよし、やはり壁の角から馬鹿ップルを見ているな。


 俺の作戦はこうだ。こっそり見てる彼女らにわざとぶつかり、壁の向こうへ誰か一人を弾き出す。おそらく気性が荒そうでかつ体重も軽そうな、金髪ツインテールが望ましいだろう。


 体重が軽いということは弾き出しやすく、気性が荒いということは反射的に騒ぎを起こしやすい。『ちょっとあんたなにすんのよ!』とか大声で叫んでくれれば、人は思いがけず事態を把握しようと目をやってしまうはずである。


 さらに、それが知人の声であればなおのことだ。そして負けヒロインズの存在に気づいてしまった馬鹿ップルは気まずかろう恥ずかしかろう。まともにデートを続けるなんて不可能なはずだ。


 幸せな恋愛を謳歌するなど絶対に許さん。俺はそのためだけにここまで奴らを追いかけてきた。絶対に、奴らのデートを『最高のデート』にしてしまってはいけないのだ。


 ターゲットである金髪ツインテールまであと5m……。待っていろリア充馬鹿ップルすぐにお前らの幸せデートを終わらせてやる。


 ツインテールに強めにぶつかる。ツインテールはふっとばされて、壁の角から飛び出した。


「痛ッ……!」


 かなり憤ってそうな声。いいぞ。その調子で俺にブチギレてこい。その声が馬鹿ップルのデートを粉砕する火薬の起爆剤となる……!


 さあ、さあ来い!!


「……す、すみません」


 ……黒髪ロングがツインテールを壁の向こうに再び引き戻し、取り押さえた。そして青髪三つ編みがツインテールの口をおさえながら言った。


 ……お前らなにしとんねん。ふざけやがって。あとちょっとだったっていうのに。よくもまあこんなにも余計なことを。


 この状況から騒ぎを起こすには、ツインテールが自力で黒髪を振りほどくか……もしくは俺が大声を出して騒ぎを起こすしかない。


 だが、ツインテールは黒髪にヘッドロックをかまされてまともに動けなさそうだ。つまり騒ぎを起こすためには俺が大声を出すしかないわけだが……それもツインテールが騒いで馬鹿ップルが負けヒロインズの存在に気づかなくてはただ変なやつが騒いでいるだけである。


 それでデートを粉砕できるかと問われれば……まあ雰囲気を悪くするくらいならできるかもしれないが、粉砕は『無理』の二文字に尽きる。何よりも、この静かな空間の中で大声を出す勇気は俺にはない。


 故に


「あ、大丈夫です。こっちもすみません」


 こう言って立ち去るしかない……。クソ! 恨むぞ黒髪! 恨むぞ青髪! よくも金髪ツインテールの仕事を邪魔してくれたな!


 だがまあ、このクラゲコーナーにおいてあの馬鹿ップルに特に動きはなかった。それが唯一の救いか……。過ぎたことは仕方ない。切り替えて、追跡を継続しよう。


 ついて歩く。ついて歩く。ついて歩く……。水族館を抜けたが、ここまでに特に動きはない。売店コーナーでお揃いのアイテムを買いそうになった時は焦ったが、結局金欠で買えなかったようだしな。


 ……もう夜9時。そろそろデートもお開きの頃だろう。デートを壊滅させることは出来ずじまいだったが、まあ特に進展も無さそうなデートだったから多めに見てやろう。


 男の方が駅の改札を通る。女の方はそれを惜しむような目で眺めながら、反対方向へ歩き出した。


 さあ、俺はこの後どうしようか。新たなリア充カップルを探すか……それとも帰るか……。俺個人としては不完全燃焼だから、新しいリア充カップルを探してそいつらのデートを台無しにしたいところだ。だが、少し眠いな。


 ……やはり帰ることにしよう。睡眠不足になっては、明日も待っているまだ見ぬリア充ハンターの責務に支障をきたしてしまうだろうからな。


 俺はここまでチャリだから、駐輪場まで歩かねばならない。いや、面倒くさいことこの上ない……ん? 女の方が駅に走り出したな。何をするつもりだ?


 ……男の方を追っているようだが……借り物でも返すつもりか? いや、何かを借りていたような様子はなかったからありえない。


 すると……まさか!!


 即座に走り出す。女はおそらく、男に対して何かをするつもりだろう。それが詳しく何なのかはわからないが、リア充ハンター歴6年の俺の勘が言っている。『これはまずい』と。


 加速に乗る。女よりは圧倒的に足が速い自信があるが、なにせ向こうの方が駅までの距離が近い。捕まえられるかどうかはギリギリといったところだ。


 ……というか、捕まえてしまってもいいものなのだろうか。痴漢として道の真ん中で晒し上げられたりしたら堪らないが……いや、この際それはどうでもいい。人違いでした、とでも言って逃げれば済む。


 女がICカードを手にする。俺と女の距離は大体5m。俺は鉄道に乗るための物は何一つ持ってないから、改札を通られた時点でアウト……!


 急げリア充ハンター……!! 間に合えッ……!!


 手を伸ばす。同時に女が改札を切って駅の構内に……入って行った。あと数cmだったのに……捕まえることはできなかった。


 女が男に駆け寄る。男のコートを掴んで身体を密着させ、背伸び……。この瞬間、二人の唇同士が交わった。


 街は冷たく、人々は何も目にしなかったかのように通り過ぎる。


 駅の構内の黄色い蛍光灯が、二人の周囲を幸福と恋愛の成就で満たしているようだった。


 キスは続いた。たったの数秒間。それでも、その数秒間は見事なまでに俺の心と、リア充ハンターとしての矜持を粉々にしていった。


 女は恥ずかしそうな顔をしながら俺が膝を折る改札の隣の改札を通って、足早に駆けていった。俺はそんな女を、生気を失った目で見えなくなるまで、追い続けることしか出来なかった。


 よろめきつつ立ち上がった。


 駐輪場へ向かって歩き出す。全てが打ち砕かれたリア充ハンターの足は遅く、まるで死にそこないのそれであった。


〜〜〜


 錆びたチェーンが嫌な音を立てて車輪を回す。ペダルを漕ぐノロマな足が止まったのは、とても小さなボロアパート。


 錆びた急な階段は足が乗る度にギシリと軋む。階段を登ると部屋が三部屋。201、202、203と来て『比里』の表札が掛かった202号室のドアを開けた。


 その時、ふと思った。


 俺はもう辞めるべきだろうか。リア充ハンターなんて不毛なこと。俺がどんなに策を巡らせようとも、どんなに妨害しようとしても愛し合う二人は止められないのだ。


 なんだか自分のちっぽけさが笑えて……は来ないが、惨めだとは思う。最悪なことに愛は偉大だ。最強の力だ。だからこそ、最強の力に敵対する自分が本当に惨めでならない。


 愛と幸せはほとんど等しい。つまり誰かのデートの邪魔をすることは、誰かの幸せを壊すこととさほど変わらない。悪行だ。


 ならば何故俺はそんな悪行を働く? 己が幸せのためか?


 わかっている。誰かの幸せを壊したところで必ずしも自分が幸せになるわけじゃない。なのに俺は何をしている?


 俺はブレーキのないスポーツカーだ。尽きない僻みをガソリンにして、切れることのない燃料でひたすら走る、誰かの幸せを壊す。


 幸せを壊すことは虚しい。何にもならない。だけど辞める気にはなれない。


 答えが出ないまま、パソコンの電源を入れた。ブルーライトを撒き散らすスクリーンが暗い部屋を照らす。


 ネット上には『彼女とイルミネーションを見に行った』だとか『告白に成功した』だとか、そんな幸せな投稿が溢れている。


「虫唾が走る……」


 独りでに漏れた呟くが、暗く狭い部屋に木霊する。つくづくリア充が嫌いなんだなと嫌でもわからせられてしまう。


 俺より幸せなやつが、俺は嫌いだ。大嫌いだ。だが、それは誰かの幸せを壊すための口実にはなり得ない。


 しかし、だからといってリア充ハンターをやめてしまったら、俺には何が残るだろうか。友なし。恋人なし。定職なし。24歳フリーターの、俺に。


 リア充ハンターを辞めること。それは自己の喪失にほかならないのではないかと思ってしまった。フリーターなんて探せばどこにでもいる。リア充ハンターは俺の唯一のアイデンティティと言っても過言ではないのかもしれない。


 自己を保つ。そのために俺はリア充ハンターをしているのだと、今気がついた。リア充ハンター。それは空っぽな俺の骨組みだったんだ。


 自分勝手だと、誰でもそう思うだろう。俺だってそう思うとも。だが、俺はリア充ハンターとして活動することが多分好きなんだ。


 他のことをしろよ? 知るかそんなもの。好きなことはもう見つけてるのに、どうしてそんなことをする必要がある?


 リア充共よ。お前らはどうせ有り余るくらい幸せだろう? なら精々、俺の楽しみくらいには付き合ってくれよ。


「よっしゃああぁぁッ!!! リア充なんてクソ喰らえだ! みんな不幸になっちま――」


 ドンッ!!!


 隣人からの壁ドンに驚いたが、まあいい。そんなことより、俺は自分に気がついた。


 ありがとう。名も知らぬリア充馬鹿ップルよ。元を辿れば君らのお陰だ。


「さて。明日もやるぞ。リア充ハンター」


 俺はそう言って、今日がクリスマスであることを忘れさせてくれるような、心地の良い薄暗い空を見上げた。

この後もたくさん短編小説をあげる予定なので、作者フォローなどしていただけると幸いです!

☆☆☆や♡もたくさんお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ