表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神童 ー学園内抗争編ー  作者: Alice Lee


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

Episode 7 鳴り響く開演のベル






 晴天の秋空高い屋外競技場。校舎エリアから少しだけ北上し開けた場所に、半ドーム型の競技場が姿を見せる。


普段は陸上競技やサッカー、また体育の授業で活用されていたが、その目的は基礎的な体力作りでありそれは前線での戦闘を念頭に置いたものであった。


その基準は非常に高く設けられており、習志野駐屯地に身を置く第一空挺団の精鋭部隊と同等以上の基礎体力が求められた。


その基準に満たない学生は、万年一年の部で過ごさなければならないのである。


 いま、競技場は盛大な歓声に湧いていた。その観客席には一年から三年の学生達で埋められており、一段と高い場所に設けられた屋内観覧席には、S級の神童十二名がそれぞれ仮面で顔を覆い隠し鎮座していただろう。


 これから始まりを迎えようとしている年に一度の重大行事、生徒会執行部役員選考闘技会、通称、祭り。


第一次選考の厳しい書類審査を潜り抜け、選び抜かれた十六チームによるトーナメント戦によって勝者が決まると、現生徒会執行部への挑戦権が得られるのであった。


その最終決戦で現生徒会執行部が負けるようなことになれば、新しい生徒会執行部が発足されるという決まりである。


 先ずはそのトーナメントの一回戦が二日間に渡りこの競技場で執り行われるのであった。


また二回戦目以降については、この富士宮学園敷地内の何時何処で行うか、運営からの通達によってのみ指示が出されることになっており、これが開催期間を長く据えている理由であった。


今日という日は、その祭りの始まりを告げる開会セレモニーであり、この闘いに参加する神童達の顔見せの場でもあっただろう。


 祭りに参加しない、また出来ない生徒達は皆同様に、普段の学生生活ではまたと見られない能力者同士の闘いとあって注目し、そして心躍らせていた。


それはなにも神童たる学生達だけに限った話ではない。


学園の教諭達を含めた神童計画に携わるあらゆる者達が、神童達による実戦データが得られるとあって注視しているのだ。


 開会式典に参加する列席者の中には学園関係者だけでなく、防衛大臣の職を辞した押井(おしい)英駿(ひでたか)に代わり新しく任命された前防衛副大臣、荒居(あらい)(がく)の姿があった。


まだ歳は四十前と閣僚の中でも飛び抜けて若い議員であったが、その力量は英駿をもってして傑物と言わしめたのだから跡を継ぐ形で任命されたのにも納得であった。


 彼、荒居学が式典に参加するのは今回が初めてであったが、前回優勝チームのリーダーが英駿の義理の息子である皇仁であることは聞き及んでいた。


その皇仁が消息不明となったことで英駿が辞任を決意したのだろうと推察はしていたが、何故姿を消さなければならなかったのか、その真相を探る目的もあったようである。


真実を知ると思われる学長、柴田直平が未だ瞑想の中にあり姿を見せない以上、大臣となった現在(いま)でも謁見を許されないのであった。


そう、この国立富士宮学園が防衛省管轄下の研究機関であるにも関わらず、学長柴田直平という存在はその組織図に記載されることはなく、歴代の内閣総理大臣でさえ頭が上がらないのだ。


勿論、極超機密な研究機関であるのだからその存在は隠匿されて当然である。


問題は、何十年にも及び日本国の戦略的防衛構想はこの柴田直平によって計画され進められてきた、という点であった。


防衛大臣任命の直後、英駿から裏日本の戦略構想と富士宮学園の真実を明かされたとき、彼、荒居学はその計画の核心である神童達を、その能力(ちから)を直に見て学長、柴田直平に問おうと考えていたのだ。


彼ら神童達を使って、世界を支配するおつもりか、と。


その為に英駿の義理の息子、皇仁を利用したのか、とも。


 入場曲が演奏され、順次競技場へと姿を現す参加チームの面々。各チームを引率するロボットの頭部から、ホログラムによるチーム名と選手名が順次空中へと表示されるのだった。


 優勝旗を掲げ各チームの先頭を切る生徒に視線を向ける荒居であったが、彼の姿を見て不満を漏らすのであった。


その生徒こそ、皇仁に頼まれ会長代行を渋々引き受けた鬼蘢星であり、彼は左手をポケットに突っ込んだまま口には煙草を咥え歩いていた。


彼の後ろを歩くのは残る執行部役員の二名。


書記の池井日向と会計の(たいら)式部(しきぶ)という男子生徒の二人であったが、その二人は恥ずかしそうに視線は足元へと落とされていただろう。


 観客席からは鬼蘢星に対して悪意に満ちた野次が飛ぶ。中には飲みかけのジュースが入った空き缶を投げつける生徒も見られた。



「テメェ、皇仁会長に毒でも盛ったんじゃねえのか! 許さねぇからな!」


「悪知恵ばっかで大した能力もないくせに、会長って認めないんだからね!」


「くたばれ糞野郎!」



 これはもう悪意ではなく殺意であったかも知れない。元々、押井皇仁がその能力を開花させるまで、鬼蘢星のチーム、Monster Headはルール無用の悪名高きゴロツキ集団であった。


神童同士の闘いにルールなどあって無いようなものであったが、彼らは指定された試合以外の時に事故に見せかけ対戦相手に怪我を負わせたりと、その不当な手段には目を疑うばかりであったのだ。


しかもそれらは目撃者のいないところで行われ、いたとしても不慮の事故や病気に見舞われることとなる。


つまり、彼らの仕業であると証明出来ない以上、誰も彼らを裁けなかった。


勿論皆が彼らMonster Headの仕業であろうと勘付いてはいたが、我が身に危害が及ぶことを恐れ口を閉ざしたのである。


 悪政を強いたMonster Headによる生徒会執行部はその後、押井皇仁の登場によって自らその席を明け渡すこととなる。


チームのリーダーであり会長であった鬼蘢星が、皇仁に本物の帝王としての資質を感じ取ったからだ。


かくして、三期目を迎えたばかりの鬼蘢星が執行部の解散を告げたことにより、その年は例外的に四月に祭りが開催されるのだった。


しかも、解散に反対する仲間である筈の執行部メンバー達を、鬼蘢星は集中治療室送りにしてしまい、決勝戦はなんと不戦勝という形で皇仁達による新生徒会が立ち上がるのだった。


 鬼蘢星はその後、皇仁から今回の依頼を受けるまで、数々の問題行動に対する罰として学園の監房室に収監されていたのである。


その彼が解放されたばかりでなく、会長代行に選ばれたのだから皆の怒りが自然と向けられたとしても不思議ではない。


それを分かっているからこそ、執行部メンバーの池井も平も顔を上げることが出来ないのだ。


 荒居防衛大臣の目にも、鬼蘢星の姿は異質として映るのだった。



「皇仁君の代行と聞いてはいたが、あの風体はいったいなんなのだ……それに生徒達から随分と憎まれているようだが、あれで会長代行とは聞いて呆れる」



 開会と閉会のセレモニーのみに限り列席を許されている荒居にとって、実際の神童がどれ程の脅威になり得るか、自分の目で闘いを見られないことは大変なストレスであった。


世界の軍事的優位性を根本から覆すことになる、と前任の英駿から聞かされていたものだから、その存在のポテンシャルを測れないことは苦行のなにものでもなかっただろう。


 荒居の後方からスーツ姿の男が歩み寄る。セキュリティのスタッフに見えなくもないがそうではない。


大臣秘書官の一人であり、学園側と防衛省との間で情報の繋ぎ役を担っている男であった。


歴任の防衛大臣に仕えていた男であったが、彼がその役割を任されている理由は他の大臣秘書官とは一線を画していた。


彼は此処、富士宮学園の第一期卒業生であり、交渉人工藤と同期の神童であった。


名を西田(にしだ)雅史(まさし)


政府の中枢で活動しているエージェントは内閣情報調査室の石原と彼、西田の二名であった。


本来であればもう二名の同期がいる筈であったが、その一人は富士宮学園に襲撃を仕掛けた甲斐であり記録上ではその存在そのものが消されていた。


残る一人は、最近になって音信不通となり現在もその行方を捜索中である。


同じく行方の分からない押井皇仁と何らかの関係があるのではないか、と学園上層部は考えているようであった。


 彼、西田が学園の卒業生であり神童であることを荒居は知らない。その荒居に対してそっと耳打ちする西田であった。


 防衛大臣荒居の顔に、深刻な陰が落ちる。これから起こるであろうと予測される大事に、何故この、よりにもよって祭りのタイミングで、と苦虫を潰すのだった。



「その情報は確かなんだな……?」


「信用に値する情報であります。大臣には即刻この場を離れて頂きたいと存じます」


「いま直ぐにか……」


「せめてこの開会セレモニーが終わり次第直ちに。浜田総理も対策を練るべく官邸で荒居大臣をお待ちしておりますので」


「分かった。君は官邸に向かうヘリの手配を済ませておきなさい」


「既に校舎エリアの校庭に隠密行動に適したヘリ、ロクマル改を待機させております。セレモニーが終わり次第ご案内致します」


「相変わらず仕事が早いな、西田君」


「お褒め頂き有難う御座います。わたくしとしましては必要な措置を講じているだけでありますので」



 荒居は秘書官西田に格別の信頼を寄せるのだった。自分の求める答えを、この男は理解しているばかりでなく最適最善の準備を済ませ応えてくれる。


いわば防衛副大臣に匹敵しうる存在であっただろう。


 入場行進を終え整列を済ませた生徒達は、号令と共に吹かれた喇叭吹奏の音を合図に、全体敬礼をするのだった。


その視線の先は勿論、防衛省のトップである荒居学大臣その人である。



(彼らが、この国の未来を背負わされることになる神童達なのか。こんな若者達を、まだ社会に出たことの無い彼らを、戦場に送り出せと言うのか……怪物、柴田直平よ……)



 神童とはいえその本質は人である。異能力があるというだけで兵器として教育されている彼らに、荒居はどのように声を掛けてよいか分からなかった。


その瞳から、自然と一筋の涙が頬を伝うのだ。


 再び号令を受け、敬礼を解き直立する生徒達。中央に並んでいた鬼蘢星が優勝旗を掲げ荒居の前まで歩みを進める。


 向かい合う二人。「優勝旗返還」、との号令を受けその手にしていた旗を片手で差し出す鬼蘢星であった。


 優勝旗を両手で受け取った荒居は驚く。「なんて重さだ」、と。軽々と手にしていた鬼蘢星であったがその重さはなんと60kgに及んでいた。米俵一俵を片手で担いでいたようなものだった。


何とか両手で抱えていた優勝旗を隣に立つ大臣秘書官の西田が横から手を添え預かるのだった。


それも軽々とである。


 元いた列に戻る前に鬼蘢星は、振り返るなり予定されていた選手宣誓を始めるのだが、投げつけられる大量のゴミや石で大臣に怪我でも負わせては大変と、半ば強制的に列へと戻されるのだった。


 観客席からの怒声が聞こえなくなると、そこでようやく荒居防衛大臣による訓示と開会宣言が行われるのである。


 荒居は暗記していた原稿通りの文章を読み上げていくのだがその終盤、チーム毎に整然と並ぶ生徒達の中でも特に目立つ存在に意識が向けられるのであった。



「なんでお前が祭りに参加してんだよ!」



 短髪赤髪の青年が隣に並ぶチームに向かって声を荒げていた。


それはチームに対してではなく、そのチームに属するメンバーに対してのものであっただろう。


 ヒロトの襟首を掴み口を塞ごうと躍起になっている潤布豊満。先頭で恥ずかしそうに頭を抱えているリーダーの甲斐繁成。その後ろでどうしてよいものか分からずおどおどしている巳華流圭佑。


チーム、Future Worldの面々に会場の視線が注がれるのだった。



「それはこっちの台詞でしょ! なんで病み上がりのアンタが祭りに出てる訳? 京子さんが許すわけないと思うんですけどぉ!」


「うっせえ、朱の分際で説教垂れてんじゃねえよ!」


「言ったわね……小学二年生にもなって教室で糞漏らしたヒロトのクセに!」


「も、漏らしてなんかねえよ! ちょこっとだけ、チビっただけじゃねえか。どっちが胸でどっちが背中だか分かんねぇまな板のクセしやがってよ」


「ちょっとそれ酷くない。保育園時代の私からしたら少し、ほんの少しは成長してんだからね!」


「なんだ、まな板に変わりねえじゃんよ」



 会場中がこの二人のやりとりに笑いを堪えていた。まるで夫婦漫才、とでも言いたげな温かい気持ちでその次の展開に期待を寄せていたと思われる。


 宇童ヒロトの幼馴染であり、神童の能力(ちから)によって瀕死のヒロトを救った救世女神、遠延(とおのべ)(あかり)。と、言えば大袈裟に思われるかも知れないが、実は学長である柴田直平がヒロト同様に最も重要視する人物であった。


その朱が、闘いなど毛嫌いするような誰よりも優しいはずの朱が、何故祭りに参加しているのかヒロトはどうしても理解出来なかったのである。


 そのような状況の最中にあって、教職員達が並ぶ関係者席に詰め寄る女性の姿があった。


一年の部D組担任教師であり三等陸佐、新隣二の前で立ち止まるなりその胸ぐらを掴み睨みつけるのだ。


寮母として学園で働く宇童ヒロトの義母、宇童京子であった。



「兄さん、知ってたんでしょ。ヒロトが祭りに出るってこと。何故教えてくれなかったのよ!」


「落ち着けって京子……俺も知らなかったのさ。まさかあのヒロトが祭りに興味あったなんてよぉ」


「嘘ばっかり! 副担任の仁木先生から聞いたんだから! ヒロト達のチームにボーナス全額賭けたってね!」


「わ、分かった分かった、俺が悪かったからそれ以上バラすんじゃないよ。確かにヒロトが祭りに誘われてたのは知ってたさ。でもな、京子に言ったところでアイツが諦めるような奴じゃないことくらい分かるだろ? 寧ろ、俺達の監視の目が行き届くならその方が安全じゃないかなって考えたわけさ」


「相変わらず兄さんらしい嘘ね。黙認したホントの理由は他にあるんでしょ。だからわざと祭りに参加させた……。もしヒロトの身に何かあったら、絶対に許さないんだからね」


「腐っても元特務課情報工作隊のエースってとこだな、京子……」



 胸ぐらから手を離し、会場を後にする京子。その背中に視線を向けながら新は心の中で呟くのだ。「すまんな京子。いまはまだ話せないが、その時が来れば必ず打ち明ける。それまでは、どうか我慢してやっくれ」、と。


そして階級別である席順により新の遥か後方で直立する仁木雫三等陸尉に対し、彼の心情は困惑を見せる。



(あの馬鹿、何処でその情報仕入やがった……まさか、ヴィッキィ……か? やれやれ、自覚の無い出来る部下を持つと先が思いやられるぜ、まったく。さて……いったいどこまで勘付いているのやら。ね、雫ちゃん……)



 幸いにも観客の興味はヒロトと朱に向けられていた為、それらのやりとりは周囲の教員達だけしか耳にしておらず、それもいつもの兄妹喧嘩が始まった、としか思われていなかった。


実際は、新が内密に進めている思惑に京子が鋭く切り込んだ一幕であったのだが、誰一人としてそれに気付いた者はいなかったのである。


思ったとしても、闇賭博についての痴話喧嘩、としか認識していなかったと思われる。


 新は乱れたワイシャツの胸元を整えると、グランドに整列する各チームを眺めながら考えるのだ。



'(今年は例年になく強豪揃いって感じだな。どいつもこいつも一筋縄じゃいかないだろうよ。さてさて、果たしてどんな大物が釣れるかな……頼んだぜ、ヒロト)



 荒居大臣による開幕の宣言が高らかに告げられると、空に向け多くの鳩が解き放たれると同時に音楽隊によるファンファーレが鳴り響くのであった。


それはこの会場にいる全ての者に、高鳴る胸の中で開演のベルが鳴っていると感じさせただろう。



 







いよいよ、祭りが開催されました。


誰と誰が、どのような能力と能力が、激しくぶつかり合うこととなるのでしょうか



そして、学園に忍び寄る謎の脅威


ヒロト君、頼みましたよ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ