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神童 ー学園内抗争編ー  作者: Alice Lee


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Episode 3 闇賭博






 学園の食堂で起こった一抹の騒動は、一年の部D組担任教師、新隣二の登場によって早急な決着を見せる。


 ヒロト達はこの騒動の現場を見られた事で、祭りへの参加の道が閉ざされてしまうのではないかと不安を過ぎらせるのだった。


 新は笑顔を見せながら甲斐に尋ねる。ヒロトを解放し、テーブルに置かれていた申請用紙を手に取り目を通しながら。



「へえぇ……あの君が。祭りには興味がないと思ってたんだけどね。どんな心境の変化だい、甲斐君」



 席に戻り食べ掛けのパスタに手を伸ばす甲斐。「別に何も」、と答えたその口にパスタを運ぶ。



「それにヒロト。お前の名前も此処に書いてあるが、京子は知ってるのか?」



 ふてぶてしそうに席に着いたヒロトは「言ってねえし」、と口を尖らせるのだった。どうやら濔部との対決を阻まれたことが面白くないようである。


新も「やれやれ」と大事に至らなかったことに安堵しながらも、今年の祭りが大荒れになることを確信するのであった。



「まぁ俺はどっちでもいいけどさ、面白そうだし。それにリーダーが甲斐君なら間違いないでしょ。最盛期のソフィー・マルソーみたいに可愛いんだしさ。学園中の女性人気を独り占めするんじゃないかな。それに君は隠してるつもりだろうけど、本当は強いしね」


「気に入らないな先生。僕のこと女性で例えないでもらえますか。それに誰です、ダイソーって……聞いたことないですよそんな女性(ひと)


「そういえば君、可愛いって言われるのが嫌だったよね。すまん、ホント悪かった。で、ダイソーじゃなくて昭和を代表するフランス人女優のマルソーな。超絶可愛いんだぜ。目の前にいたら誰だって惚れちまうこと間違いなしさ。俺が子供の頃に憧れてた女優さんでね、その当時好きだった娘にどこか面影が似てるんだよね」


「どうでもいいですよ先生のそんな話。それより、今回の騒ぎは報告されるんですか、上に……」



 心配そうな面持ちで新からの次の言葉を待つ甲斐。豊満は黙って静観し、巳華流は落ち着きなく親指の爪を噛んでいた。


ヒロトに至ってはテーブルの上に足を放り投げ天井を仰いでいただろう。


飛んできた拳骨がガラ空きとなっているヒロトの腹に落とされる。


 床の上でのたうち回るヒロトを見て皆が同じ言葉を口から吐き出すのだった。


馬鹿だ、と。



「食事の席で誰がそんな態度していいって教えたよ。京子か? だったら京子に事情を説明して訊くしかないよなぁ。そう思わないか、ヒロト」


「や、めろ……。京子さんに、は……内緒、に、してん、だ、からよ……まつ、りに出るって、こ、と……」


「だったら話が早い。俺も上には報告しないし、京子にも内緒にしといてやる。その代わりと言っちゃなんだが、俺はお前達のチームに賭けさせてもらおうじゃないか。知名度の低い新参チームにわざわざ賭けるような物好きはいないだろうし、ここの備考欄に能力未使用者が二人もいると書いてあっちゃ、誰が泥船に乗ろうって思うかよ。だからこそ俺は敢えてお前達に賭けるのさ。大穴も大穴だからな」



 人一倍真面目で大人しい巳華流が新に尋ねる。話している内容が理解出来なかったようだ。



「先生、いまの話よく分からないんですけど……賭けるっていったいどういう意味ですか?」


「君は?」


「一年の部A組の巳華流といいます」


「ほおぉう……君か、A組の巳華流ってのは。君には尋ねたいことがあったんだけど、先ずは君の質問に答えないとね。賭けるってのはその言葉の通りだよ。君、トトカルチョって聞いたことない?」


「サッカーくじのことですか?」


「まぁ、間違いではないんだけど……俺が言いたいのは非合法な賭試合のことでね。優勝、準優勝のチームを当てて大金を得ようって話なのさ。ここだけの話、内緒で賭けに参加する教師も結構いるんだぜ。俺みたいにね」


「非合法って……いいんてすか? 先生達って、特別職国家公務員ですよね。バレたりなんかしら大変なことに……」


「いいのいいの。この学園の中って、ある意味無法地帯みたいなもんだしさ、合法も非合法もあったもんじゃないのよね」


「よく分からないですけど、分かりました」



 新はこの純朴な少年に特別の興味を抱いていた。A組であることがその最たる理由の一つであっただろう。数多い能力者達の中でもその能力の持つ特異性において頭一つ抜きん出た者達だけを選抜し集めたのがA組であり、更にそれを上回るのがS組であった。


いわば能力者達に割り当てられた階級のようなものでもあり、元A組であった甲斐がそうであったように、特殊な実験の被検体として選ばれたのが彼らであった。


つまり、学園上層部から脅威認定の印を押されたのが彼らなのだ。


ただし例外はある。


B組以降のクラスが人畜無害な軽度の能力保持者達で占められる中、甲斐、豊満といったAクラス級の能力を隠し持った者達が、下層クラスにはまだ何人も息を潜めているのだった。


 豊満は魔神の覚醒に立ち会い、その場で自らの能力を進化させた化け物級の能力者であったが、それを知る者はいまの学園には一人もいない。


覚醒した魔神に対し豊満と共闘した新でさえ、その能力のほんの一部しか目にしていなかっただろう。


だが新には分かっていた。


豊満の持つ能力があったからこそ、ヒロトをあの魔神から解放することが出来たのだと。


新は豊満に言った。


真の能力は誰にも明かすな、と。


そして上層部には虚偽の報告をするのだ。


彼の能力は肉体の硬質化と優れた自己再生能力である、と。


この学園の最高権力者たる学長、柴田直平が厚さ二メートルもの鉛で囲まれた部屋に閉じこもり、三ヶ月にも及ぶ瞑想期間に入っていたことで新の思惑は順調に事が運ぶのであった。


画して、ヒロトを受け入れることが決まっていた自分のクラスに、豊満を引き入れることに難なく成功するのである。


彼はヒロトの成長にとって必要な鍵である、と新の直感がそう働き掛けたのだ。


そして新の予測通り、やはりヒロトの周囲には強い者達がまるで吸い寄せられるかのように集まってくるのだった。


 新は膝を曲げ腰を落とすと、顔を近づけ巳華流の怯えた顔を繁々と覗き込むのだった。巳華流に興味を抱いたもう一つの理由、それを探るため新は少年に尋ねるのであった。



「巳華流、って言えば珍しい苗字だから間違いないとは思うんだけどさぁ。君って、あの巳華流千河(みかるせんが)と何か関係があったりなんかするのかな?」


「先生……まさか祖父のこと、知ってるんですか?」


「それが知ってるんだよねぇ。まさかあの伝説の武道家、巳華流千河に孫がいたとは……やっぱ思ってた通りだったよ。いやなに、俺もこう見えて代々続く武道家の端くれだからさ、若い頃は出稽古がてら他流の道場に乗り込んでは暴れてた黒歴史があるわけよ。当時の俺は馬鹿で無知で無鉄砲だったから知らなかったのさ。同じ日本に巳華流千河という化け物級の武道家がいるってことを」


「じゃあ先生は、祖父と闘ったんですか?」


「闘っちゃあいない……恥ずかしながら初手で意識を飛ばされちまってその後はタコ殴りさ。気が付けば稽古をつけてもらおうと一年間道場に無理矢理居座り続けたんだけど、まったく相手にされなくてね。もうあれから二十年近くが経つんだけど、最近嫌な噂を耳にしてね……あの化け物、巳華流千河が亡くなった、って」



 巳華流の耳がピクリと動き反応を見せる。それは触れて欲しくない彼にとっての禁忌の領域であっただろう。拳を固く握り締め、視線を足元へと落とすのだった。


当然、新はその心理的動揺を見過ごす筈もなく、胸に秘めたる真実に迫るべく言葉を投げかけるのだ。



「俺は耳を疑ったさ。だってよ、還暦前にしてまだまだ現役最強と言われていた漢だぜ。それが突然亡くなったなんて信じられるかよ。でもね、君が彼の孫だと聞いて納得したよ。君がこの学園にいるってことは……つまりそういう事だよね?」



 押し黙る巳華流の表情は怯えから苦痛へと変わっていた。胸が締め付けられ歯を食いしばる。


 ヒロトはそんな巳華流を見兼ねて新に飛び掛かるのだが、彼よりも早く新の頬を叩いた者がいた。


甲斐である。



「こりゃ驚いた。まさかこの俺に平手をくらわせる奴がいたとはね。流石だよ、甲斐」


「コイツを泣かせたら、僕は貴方を生かしちゃおけない」



 甲斐の本気がヒロトや豊満に悪寒を走らせる。其処に立つ優男の背中が、とてつもなく巨大に見えるのであった。


 豊満が「お前、ホントにあの甲斐なのか?」、と尋ねるのだが、その声は彼の耳には届いておらず、甲斐の周囲は淡い緑色に発光していただろう。



「いいのかい? こんなところで君の能力(ちから)を使えば、祭りどころの騒ぎじゃ済まなくなるよ」



 新に諌められ甲斐は平静を取り戻す。閉鎖された実験棟の有り様を思い出した彼は呼吸を整え謝罪するのだった。それに伴い緑色の発光現象も収まりを見せる。



「すいません……能力を使うつもりは無かったんですが、身体が勝手に反応してしまいました」


「その様子だと巳華流君が国立富士宮学園(ここ)に来た経緯について何か知っているみたいだね。いや、別に話す必要はないしプライベートなことに踏み入るつもりはないんだけどさ、思ったことをつい口に出しちゃう悪い癖でね。俺の方こそすまなかった。まぁ、祭りに参加するのは自由だけどさ、その前に騒動だけは起こさないでくれよ。なんせ俺はお前達のチームに冬のボーナス全額突っ込むつもりなんだからね」



 新の発言に呆れる四人の頭の上をトンボが横切り点を並べ飛び去ってゆく。「じゃあな」と背中越しに手を振り立ち去る新であった。


 四人は中断されていた食事と、チーム会議を再開するべく席に着くのだが、改めてリーダーを誰にするかを問うと、皆が揃って甲斐を指さすのであった。


意義なし、と。






祭りに向けヒロト達はチームを組んだ。


リーダーである甲斐の秘められた能力の恐ろしさは、学園四天王ですら一目置いていただろう。



また同時に、他のクラスでも新たなチームが組まれようとしていた。


次回「覗くなよ!」


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