黒鬼
「イザベラ！！ 全開で頼む！！ 一撃貰ったらお陀仏だ！！」
「了解！『強化結界！』」
イザベラの異能『識別結界』と回復魔術の合わせ技で味方の身体能力を向上させる。
この能力があるため、イザベラは回復魔術師ながら前線に立っている。
「マーク！ノア！右のヤツを全力で倒せ！！」
「「了解！」」
「いきますよマーク！」
「我に任せろ！」
『雷鳴魔術 雷牢！』
『反射攻撃 最大出力！』
ノアの魔術で雷の檻に閉じ込めた黒鬼に対し、マークが放った全力の攻撃が命中する。
煙の中から出てきた黒鬼は焦げ付いているものの、ダメージを負っているようには見えない。
「そう簡単にやられる相手じゃありませんね…」
「そのようだな、ここからは溜めつつ攻めるとしよう。」
マークの持つ盾は魔盾と呼べる代物で、受けた魔法をチャージ、増幅して放つことができる。
ただし攻撃をチャージするためには同じだけの魔力が必要である。
魔力が多いが、攻撃魔法が得意ではないマークに最適な武器である。
「ルーク！影で支援してくれ！俺と左のヤツを獲るぞ！！」
「了解！」
「影よ！縛り付けろ！」
ルークの詠唱も空しく、影は動く気配を見せない。
「不発！？感覚は完璧だったはず！」
「落ち着け！！ お前のペースで攻めれば良い！！」
「喰らいやがれ！『獅子剣 玲瓏！』」
炎の斬撃が黒鬼に向かっていく。しかし黒鬼は左手で斬撃を払うとレオを睨みつける。
「コイツ相手じゃ直接斬らないと無理みてえだなァ！」
レオは叫ぶと黒鬼に向かって突進していく。
黒鬼も咆哮を上げ、レオを迎え撃つ。
『獅子剣 陽炎！』
「ガァァァァァァァァ！！！！」
レオの剣が届く前に、薙ぎ払った右手が襲う。
「ドガアアン！！」
とてつもない音を立ててレオの体が木に衝突する。
「レオさん！！」
「心配すんな、陽炎で直撃は避けて… ゴホッ！」
「ここからは俺がやります！レオさんは回復を！」
俺が不甲斐ないせいでレオさんがやられた、俺が弱いから影が無ければ戦力にならなかった！
だったらせめて影だけは、異能だけは、負けるわけにはいかない！！
「いくぞ『憶影』」
『影式充填：一層』
ルークの詠唱で影が広がっていく。影がレオの所に到達すると、彼の体から痛みが少しだけ引き再び戦線に戻ることを可能にする。
「こいつはどういうことだ？ 痛みが引きやがった…！」
「グっ…」
魔術の使えない人間が他者の傷を癒した。当然代償は大きく、レオのダメージをルークが肩代わりしただけに留まらず、ルークの全身を激しい痛みが襲っていた。
「ルーク、お前…！」
「レオさん、俺は大丈夫です、こいつを倒しましょう！」
大丈夫とは言ったものの痛みで気絶しそうだ、早く決着をつけなければまずい！
今なら影は俺に味方してくれるはずだ！
「影縛！」
黒鬼の影から飛び出した黒い鎖が四肢を拘束する！
黒鬼が鎖を外そうと藻掻いている隙をついて再びレオの一閃が奔る！
『獅子剣 開闢！！』
炎を纏った剣が黒鬼の首に浅からぬ傷を残す！
「グルルルァァァァ！！」
「ドサっ…」
絶叫が木霊すると同時に黒い鎖が崩壊する。
限界を超えて異能を行使したルークに限界が訪れたのだ。
「ルークッッ！！」
呼吸はある、だが俺の傷を治してくれたんだ。無事なわけがねぇ…
俺ももう限界だ、ノアとマークなら必ずやってくれる。あのクソジジイが帰りやがったことに感謝だな。
目の前のコイツさえ斬れば俺たちの勝利だ。
もうひと踏ん張り、やってやるとするか。
『憶影』と書いて『おもかげ』と読ませています。
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