才能
人間は死ぬ前に走馬灯と呼ばれる人生の追体験をするらしい。
いなくなってしまった両親との思い出が見えている俺はもうすぐ死ぬのだろう。
違和感
バケモノには俺の剣が通るとは思えない、でもコイツの影になら通る、そんな気がした。
まるで影を切った経験があるように、当たり前にできることのようにそう思った。
「はあッ!」
裂帛の気合とともに振り下ろした剣はバケモノの影を切り裂き本体の胴体に深い切り傷を作った。
「グギャアアァァァァ!!!!」
とてつもない悲鳴が上がる。獲物が的外れの場所に振るった剣で傷を負ったんだ、当然だろう。
不思議ともう一度影を切り裂くことはできないと感じた。ただの勘だが、もし切れなければ地面を斬りつけることになってしまう。そうなればこの好機がパアだ。
ここからは普通に戦うしかない、ゴブリンすら一撃で殺せない俺にやれるのだろうか。
否、やるしかない。ヤツは深手を負っている、倒せなければ道半ばで死ぬのは俺なのだから。
「ブゥゥゥン!!!!」
「危ねえ!」
ヤツが滅茶苦茶に棍棒を振るう、得物が丸太並みだ、回避に集中しなければ一撃をもらってしまう。
傷を負わせたとはいえまだ致命傷には遠い、このまま劣勢だと先に力尽きるのは俺の方だ…!
また影が切れたとしても今度は警戒されてる、上手くいく未来が見えない。
お互いに決定打がないまま時間が経過したときもう一度感じた。
今度のイメージは俺の影が姿を変える感覚。イメージするのはヤツの傷を抉る影の槍
「貫け!!俺の影!!」
情けない大声とともに影から何本も黒い槍が飛び出し傷を貫いた。
「グガァっ!!」
傷を抉られた痛みでバケモノが倒れこむ、この機を逃すまいとバケモノに駆け寄り、首に剣を突き刺す。
感じたことのない抵抗を感じつつ差し込むと、断末魔の悲鳴を上げて動きが止まった。
「やってやったぞ!生き延びた!!」
「でも影は一体何だったんだ…?」
ふと浮かぶのは『異能』という言葉、魔法が当たり前のこの世界で魔法とは全く異なる力。
魔法がある程度体系化されている一方、異能はわからないことが当たり前、気づき一つが大発見になる限りなく未開拓に近い分野だ。
それでも不可解な点は残る、異能が発現するのは8~10歳という絶対に近いルールがあるというのに…
考えるのは後にしよう、剣も使い物にならなくなってしまったし早く町に戻らなくては…