遭遇
初投稿です。お手柔らかにお願いします。
「ザシュッ!」
人気のない森に肉を切る音が響く。
「これで9匹目、今日のノルマまであと1匹か…」
E級モンスターのゴブリンの討伐報酬は10ミル、宿屋が食事つき1泊70ミルなので1日7匹は狩っておきたいところだ。
思い返せば冒険者になって2年が経とうとしている。14歳になり、成人まであと1年になってしまった。
普通の冒険者であれば半年もしないうちに最低のE級からD級に昇格するのだが、ルークは違った。
第一に魔法が使えない、さらに体も強くないためゴブリンを奇襲で討伐することで精一杯である。
異能も発現しなかったため、ルークだけの強みを持つこともできずE級に甘んじている。
「やっぱ才能ないよなぁ、俺…」
それでも冒険者を辞めるわけにはいかない。2年前のあの夜、両親を連れ去り村を燃やした連中を見つけ出すまでは辞めるわけにはいかないのだ。
「グギャァァァ!!!」
「!? なんだ今の声!」
他のゴブリンとは一線を画す咆哮、森の中に緊張が張り詰めていく。
ゴブリンしか現れないことから、『ゴブリンの森』と呼ばれる森に起きたイレギュラー、既にルークの脳内には撤退の二文字が浮かんでいた。伊達に2年間もゴブリンを狩っていたわけではない。
森の入り口まで急いでも10分はかかる… 焦って居場所がバレたら終わりだ。慎重に、絶対に見つからないように撤退、冒険者ギルドに報告に向かう!
入り口まで残り半分となった時、事件は起きた。
「ギャッギャ!」
通常ゴブリンに遭遇してしまった、さらに運の悪いことに飢えていたようで普段よりも大きな声で襲い掛かってくる。
「クソっ! 静かにしやがれ!」
ゴブリンを斬りつけると、普段一撃では仕留めきれないゴブリンが断末魔の悲鳴を上げて倒れる。成長を感じるが、今はそれどころではない。
その時先ほどよりも近い距離から異常なゴブリンの咆哮が聞こえてきた。それだけじゃない、明らかに重たいものが移動している音が近づいている。
「このままじゃ終わりだ、やるしかない!」
覚悟を決め、俺はヤツを待つ。1分ほどすると異常な体躯のゴブリンが現れた。
まず目につくのは3メートルに届くかといった巨体、通常の3倍近くの上背にはち切れそうな筋肉。
さらに通常汚い緑色をしている肌が暗い赤色に染まっている。
右手には丸太を削って作ったと思われる棍棒が握られている、おそらくあれを喰らったら一撃でアウト、良くて戦闘不能だろう。
「ギャガァァ!!」
バケモノは嬉しそうな声を上げる。明らかに俺を格下の獲物だと思っていやがる。
だが正解だ、隙をついて逃げようなんて甘い考えは見た途端に砕かれた。
もしかしたら救援がくるかもしれない、そんな笑えない希望を胸に俺は駆け出した。