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晩餐室で用意されていたご飯は、僕の知らない形をしていて、何かの順番でもあるのか、一皿ずつ持ち込まれていた。

それを、丁寧な動作で食器を操って切り分けて、口の中に運び入れるわけだが、殿下は食が細い性分なのか、あんまり食べていなかった。

対して、僕が初めてお目にかかった国王は、健啖家なのか、殿下の倍は食事をしていた。

晩餐室では、僕はおしゃべりが厳禁と最初に教えてもらったので、ただ殿下のそばに立って、食事を見守っているだけになっていた。そういえば僕のお夕飯はどこで食べれば良いんだろう。

これが、誰か先輩がいる職場なら教えてもらえるんだろうけれど、僕には先輩が一人もいない状況なので、なんとか自力で解決しなくちゃいけなさそうだった。

僕は殿下の食事のしかたを見た後に、またちらっと国王を見た。

国王は殿下とまるで似ていない。

それは、髪の毛の色や目の色が、全く違うからそう思うんだろう。国王は、太陽の色と呼ばれている神聖な金色の髪の毛をしていて、瞳も金色で、肌の色はこの地域でありふれている色の濃い肌をしていた。

体つきは比較的がっしりとしているが、殿下の体の方が見応えのあるものだ。配置の問題だろうか。

健啖家の国王は見事な立派な体になりそうなものだけど、こればっかりは親の体とかに似るから、なんとも言えない事かもしれなかった。

顔立ちとしては、凜々しい感じで、殿下みたいな美しさとは趣の違う整い方だ。

僕としては、どっちが父親に似ていて、どっちが母親に似ているのかが、失礼かもしれないけれども、ちょっと気になった事だった。

これだけ兄弟で似ていないってなったら、ね。どっちかが父親側で、どっちかが母親側だろうからさ。

そんな事を考えていると食事の時間は終わった。それにしてもなんだか張り詰めた空気の食事だった。

国王は殿下に何回か話を向けたけれども、殿下の方が短く切り上げてばかりだったのだ。

殿下は国王とおしゃべりするのが苦手なのかもしれない。

兄弟でもありがちな、兄さんや姉さんには話せないっていう、あの感じかもしれなかった。誰だってしゃべりやすい人と、そうじゃない人がいるわけだし。

さて、僕は本当におなかがすいたな。いつになったらご飯を食べれば良いのか。

そろそろ頭の中が、ご飯で一色になりかけながらも、僕は殿下の後に続いて、さっきの部屋じゃない場所に向かっていくのに、ついて行った。そして到着したのは、豪華だけど、ちょっとお城の中心からは遠くなった一画だった。


「ここは」


「俺の離宮だ」


「殿下の暮らしている空間って事であってますか」


「まあな。お前、何か食べるなら自分で適当に用意しろ」


「僕は自炊までしなくちゃいけないんですね!?」


求人情報だと、王宮の使用人は食堂でご飯にありつけると言う記載だったのに、殿下の側仕えだと自炊の能力まで求められるらしい。

いよいよ大変な仕事に就いてしまったかもしれない。

僕は叫んだ後に、よし、と気合いを入れた。


「わかりました! 勝手ながら、自分のご飯は自分でどうにかさせていただきます!」


「……お前前向きすぎやしないか。ここで大体の人間はくじけるぞ」


「なんだかよくわかってませんけど、ここから使用人用の食堂は明らかに遠そうなので、殿下の身の回りの事をしながら、食堂で自分のご飯を確保するのは、厳しいじゃないですか。だったら自分で何か用意しなくちゃ解決しませんし」


「自炊の経験があるらしいな」


「王都のご飯とは多分大違いなご飯しか作れませんけど、食べて死ぬものは作った事がないですね」


兄ちゃん達風謎鍋になるか、僕風謎草鍋になるかの二択だ、でもお腹を壊す草の見分け方はできるから、僕としては問題ない。


「……勝手にしろ。その前に俺の寝る支度を手伝え」


「はい」


そう言われた僕は、着替えを用意する仕事と、殿下の湯浴みの準備をおこなった。

そして。


「下がっていいぞ、食事でも何でも、自分の事をしてかまわない」


というお許しが出たので、もう腹ぺこ最大値なので、今日は簡単な草料理をする事に決めて、言われたとおりの台所という場所を目指したのだった。


「うわあ、知らない設備しか見つけられない」


僕は台所という、料理をするための専用の場所というのか、部屋というのかを見回して、それしか感想が出てこなかった。

僕は今まで、密林の自分の家の外で、焚き火をしてそこで煮炊きをするという経験しかない。そのため、台所の設備の説明がほしかった。これ全部、未知の世界過ぎてわからない。

台所には多少の材料があるという説明を、殿下はしていたけれども、それがどこにしまわれているのかもわからない。

仕方がない。

僕は食事のために台所を、荒らすように探し回る事に決めて、空きっ腹を抱えて作業を開始したのだった。


「……見事に干し草しかない」


僕は台所という設備を、今までほとんどの殿下の使用人が使っていなかったという現実に、直面した。あさりまくった台所の戸棚とかに、乾燥させた草しか見つけられなかったのだ。後、贅沢な事に大きな桃色の岩塩。草と岩塩。……謎の草鍋しか作れない。

仕方がない。

僕は干し草のかけらをちぎって口に入れて、どれくらいならおなかを壊さないで食べられるかをそこで判断しつつ、草と水と岩塩を少し削ったものを、僕の日常では驚くほかない金属のお鍋に入れて、散々悩んだ後に、火をたいた痕跡がかろうじて残っていた場所に火をおこした。

もう謎の鍋しか僕はご飯としてありつけないのかもしれない、と思いつつも、できたての謎草鍋が五分かそこら辺でできあがる。

それを地べたに座り込んで、せっせとお腹に収めていた時である。

僕は殿下の声と思われる、うめき声を聞いた。


「!?」


一体何なんだ。僕は食事を中断して、殿下の寝ている一番豪華な調度品の部屋に飛び込んだ。


「殿下! どうしましたか!」


「……っ、ぐっ」


殿下は、嘔吐していた。なれているのか、壺に顔を近づけて、ごぼごぼと胃袋の中身を吐き出している。


「殿下!」


ええと、こういう時はどうするんだっけ、と思いながらも吐いているなら全部吐き出させた方がいい、と僕は判断して、きびすを返して、謎草鍋の汁だけ、コップに移し替えて持って行った。

それから別のコップにも、水を入れてそれも持って行った。


「……どうして、気がついた」


「うめき声が聞こえたからです! 先に水を飲んで、気持ち悪かったら全部吐き出してください。それを繰り返した後に、気持ち悪くない草汁を飲んでもらいます」


「……」


僕の声が強い調子だったからか、殿下は水を飲んで、それを胃袋が受け付けなかったのかまた何回か吐いて、吐くのが落ち着いたら、僕は目の前で草汁のコップを傾けて一口飲んで、温度を確認してから、それを殿下に手渡した。


「……とんでもない匂いだ」


「台所にあった草で作った草汁です! とりあえず、飲んでお腹を壊したり気持ちが悪くなったりしないのは、これが僕のお夕飯なので保証します」


「……」


殿下はいやそうな顔をしながらも、草汁を飲み干した。

それからぼそりと言う。


「何をどう調合した」


「適当にあった草を味見して、大丈夫そうな量を混ぜて、水を入れて煮込んで、岩塩を削って味をつけただけです」


「……俺はとんでもない奴を採用したらしいな」


「そうですか。でも仕方がないじゃないですか、台所って場所に、ご飯の材料になりそうなもの、干した草しかなかったんですから」


「……そうか」


吐き疲れたから、一気に眠くなってきたのか、殿下が欠伸をする。

僕はそんな殿下が寝るのを手伝った。

眠くなるのは体を回復させるためだ。眠れるなら大丈夫。

これが吐き続けて、何も受け付けないってなると、もう一大事だから、人をたくさん呼んで助けを求めるしかない。

だが殿下の様子から、これは大丈夫そうだ、と僕は直感的に思った。

そのため僕は、眠ろうとする殿下にこう宣言した。


「ご飯を食べたら、殿下の足下で今日は休みます。具合が悪くなってきたらすぐに、何かできるように」


「勝手にしろ」


殿下はそう言って目を閉じたので、僕はもう冷め切っているだろう草鍋を平らげるべく、台所に戻って、大急ぎで草鍋を平らげた後、歯を磨いて、言った通りに殿下の寝台の足下に、ごろりと転がって寝たのだった。

僕の家では立派な寝床というものは存在しない。

大体ちょっと厚めのわらを編んだものを敷いておやすみなさいだったので、立派な織物が広げられている殿下の部屋は、ふわふわの寝床と言って差し支えなかったのだった。


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