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最終面接はかなり数が絞られるから、面接官と一対一で行われるという事前説明があった。

そして、面接の内容を第三者に話した事がわかったら、その時点で失格だとも言われた。

それに僕はほっとした。話の中身を他の人に聞かれないから、笑いものになったりはしないだろう。

笑われても、自分で考えた最高の自分の主張なのだから、僕は胸を張って最終面接だって受けたい。

部屋の前に何人もの人が座って待っていて、僕も同じように待っていて、どんどん名前ではなくて番号で呼ばれて、扉の中に入って、数分経過したら皆、顔をこわばらせた状態で出てくる。早い人は一分もかからない。そういう人は、顔色がものすごく悪かった。

最終面接は誰でも緊張して、何か失敗した事を言っちゃうのだろう。

だから顔がかちこちにこわばっているんだ。

僕もきっと、面接が終わったら同じようにがちがちの顔で出て行くに違いない。

そんな事を思ったんだけど、あえて耳を澄ませて、扉の中を盗み聞きする事はしなかった。

だって卑怯だし。他の人の話を盗み聞きしても、僕が他人の自己主張を生かせる訳もないし。

そうして僕の番号が呼ばれたから、僕は中に入って、扉を閉めて、それから一回頭を下げた。

「失礼いたします」


「ああ」


僕の声に、そう返したのはこの短い人生で一度も聞いた事がない、とてもなめらかな、低い楽器のような聞き惚れるような声だった。

面接官がこんな格好良い声でいいんだろうか。

そう思いつつ、僕は顔を上げて、それから目を丸くした。

目の前には一脚の椅子がある。その向こうに、机があって、その前に面接官が座っている。

その人が……世界の人間の大半が、ごつごつの芋みたいに見える位に整った顔と体つきの人だったのだ。髪の毛の色は濃い茶色で、光の加減で黒くも見える。この国の人では珍しくもない、色の濃い肌はニキビとかしみとかしわとか、欠点になる要素が見つからなくて、僕を見ている顔は同じ人間に属するの? って聞きたくなるくらいに整っている。人の顔を整っているって思ったのは人生で初めてだ。僕の大好きな兄ちゃん達とは大違いだなって思った。

比較対象がいない顔で、その顔の中でとてもきれいな緑の目が、僕の反応を見定めている。

僕は大きく息を吸い、口を開いた。


「本日はお時間をいただき、誠にありがとうございます」


「座れ」


「はい」


ここからは最終面接で、いくら面接官がとんでもない色男でも、僕を主張しなくては望みは叶わない。

僕は椅子に座って、いくつかの彼の質問に答えた。

応募の動機とか、得意な事とか、なぜか休日にしている事とか。

待遇の話も出た。王宮の使用人は交代制で、決まった休日は夏の大祭の時くらいで、それも部署によってはずれ込んだりする事。

そりゃあ、中庭のお世話は、皆一度に休んだら誰もお水をあげないから、ずれこむだろう。

僕は納得して頷いていた。

そんな時、面接官はこう聞いてきた。


「お前、俺に自分の魅力を言ってみろ」


「はい! 行きますよ!」


僕は言われたので、元気よく返事をしてから、面接官をまっすぐに見つめてこういった。


「応募したたくさんの人達の中には、僕より遙かに素晴らしい能力の人がいっぱいいるでしょう。皆きっとすごいです。でも」


僕は大きく息を吸い込んで、断言した。


「僕を選んで、大損はさせません!」


「そりゃあ、大きく出たな」


そう言って面接官は軽く笑って、これで面接は終わりだと告げてきた。

僕は何か、答えを間違えたんだろうか。

そうも考えたのだけれども、僕は何一つ後悔する失敗をしたつもりはない。

そのため、立ち上がってまた、面接官に頭を下げて


「失礼いたしました。お時間をくださってありがとうございました」


と言って、面接室を出たのだった。

その後の人達は、やっぱり顔ががちがちになっていたけれども、確かに事前情報全くなしに、あのすごい顔と体を見たら、皆ああなるのもわかるから、馬鹿にした気持ちにはならなくて、皆そうだよね、と仲間みたいな気分になったのだった。


そして最後の合格発表は、最終面接までたどり着いた人達を、お城の広い空間に集めての発表で、僕はそれまでの間に、いくつか面白い話を聞いていた。

なんでも、最終面接の会場のどこかに、偉い人が面接官として来ていたらしい。

侍従長と言われる人が面接にいたという噂もある。

これは面接の内容をしゃべっている事にぎりぎりならないらしくて、多分面接の中身というのは、自分がどう言った事を聞かれて、どう言った事を答えたか、っていうのなのだろう。

偉い人がいたらしいとか、そういう不確定な噂は、大目に見てもらえるのかもしれない。

でもそれを聞いた人達はざわざわして、どこかで偉い人に見られていて、大失敗していたらどうしようとか言っていた。その気持ちはよくわかる。

ほかにも、国王の側仕えの希望は今回の応募者の大多数で、良いところの出身の人が多くて、どこかで家柄争いが起きて騒ぎが起きていたとかもある。

僕には関係がない話だ。僕は中庭の手入れの使用人を目指しているんだから。

皆顔色が悪くなっている中、僕も同じような顔色の気がしつつ、合格発表を知らせる、使用人の中でもちょっと格上の人が壇上に上がって、合格者の番号を呼ぶのを聞いていた。

ここで番号を盗むとかいう可能性があるけれど、応募の時点で番号は決定していて、そこで個人情報が結構知られているから、なりすましとかは難しいんだ。たとえなりすましをしても、手に書かれた評価も確認されるし、髪の毛の色も目の色も肌の色も、そして学校の最終試験の結果も、皆そっくりにするのは普通はできない事だから。

それに、文字の書き取りもある。名前を書いたら一発で本人かどうかばれる。

筆跡は、見た目よりも真似するのが難しい。あの長い手紙の書き取りで、筆跡は王宮に把握されているしさ。

そして……僕の番号が近くなってきて、心臓の音は最大になっていて、そして。


「……!!」


僕の番号が呼ばれて、僕はほかの合格者と同じように、前に進んだ。


「合格おめでとう。これが王宮使用人の腕輪だ」


合格発表の使用人の、これから先輩の一人になるその人は、そう言って僕に、ほかの合格者と同じように、使用人の腕輪を渡そうとして……籠の中から、一つ取ろうとして、戸惑った。

「……君はこれじゃなかったな、こちらだ」


その人は、大きな籠ではなくて、小さめの箱の中に入れられていた、ちょっと趣の違う腕輪を、僕にはめてくれたのだった。

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