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眠ったら僕は女の子……らしい。  作者: 家具付


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神官や魔術使い達が皆いなくなった後に、僕はじっと動かないで考えた。

国王はどうやったってイシュタさんと僕を同じ物だと思い込んでいる。

それか不都合な事から目をそらしている。

これをどうにかする事は、僕の管轄外でやれない事だ。

僕はそれならどうすればいい。

簡単なのは逃げ出す事。ここからの脱走だ。

しかしそれが一番の最善の答えか、と言われたらそれはさっきも考えいていたけれど、最善ではない気がして仕方が無い。

たくさんのかわいそうな人を巻き込んで、僕はそれでも脱走するべきなのだろうか。

僕は人殺しにはなれない。

そして、僕が逃げると言う道を選ぶと、たくさんの人の命が失われかねないと言う事実からも、目はそらせない。

法的に罰する選択肢として、処刑は少ない。

でも、国王が気に入らない相手を処分する事は、珍しい話ではない。

国王や王族が処分に悩むのは、それなりの地位にいる人間だけなのだ。

……誰か、僕の味方になってくれる権力者が欲しい。

ネフェル殿下の事も心配だ。あの人は今何をしているのだろう。

それらを、膝を抱えて座り込んで、じっと考えて、考えて。

今の僕にできる事は、好機を待つ事かもしれない、と言う事に考えは落ち着いて、とりあえず期間としては一週間と決めた。

一週間が経過しても、何も改善しないなら、僕は自分を守るために、ここから逃げ出して、ネフェル殿下の所に行く。

そうでも考えないと、僕は頭がおかしくなりそうなくらいに悩むので、当面の計画はそういう物にしたのだった。




「……騒がしい」


僕はそして、あと一日で一週間が経過するという所まで、じっと時を待っていた。

その間は、国王もここにどうしてか来なかったし、神官も魔術使いも来なかったので、とにかく一人という事だけが大変だった。

一人ではろくな事を思いつかない物なのだ。

とにかく体を休めて、もしもの時に動けないなんて事がないように準備をしていた数日。

僕は僕の閉じ込められている秘密の隠れ家の周囲が、妙に騒がしいので、窓から外をそっと覗いた。僕の姿が見られないように細心の注意を払って。

そうすると、隠れ家の出入り口のある場所が妙な揺らぎを見せていて、何かが起きているって事だけは伝わってきた。

何が起きているんだろう。誰が何をしているんだろう。

あれは僕でもわかる。何かの魔法の力が働いているのだ。

僕はそれをじっと見つめて、それが僕にとって有益かそうじゃないかを確かめようとした。

その時だ。

稲妻に似た大きな音が響き渡って、出入り口の場所が、何か透明な物が木っ端みじんになる不思議な音を伴って開いた。

僕はその大きな音に耳を塞いだのだが、それでも耳の中がわんわんとするほどの大きな音だった。頭の中身が揺れそうなくらいの音。

その音を聞いて反射的にしゃがみ込んだので、また僕は窓からそこを覗いた。


「……えっ?」


僕はそこから現れた数人の人達に目を見張り、彼等の中の何人かが、こっちを見上げて怒鳴ったので、それが誰の声なのかわかった瞬間に、はめ殺しの窓を蹴り壊した。

僕はこれでも結構足の力が強いのだ。獣相手に蹴りで戦った事も、学校に行っている間は数知れずってくらいだったのだから。


「ホルス!! そっちだろ! 無事か、反応しろ!!」


「兄ちゃん!! ハトホル兄ちゃん!! セクメト兄ちゃん!!!」


僕は窓を蹴り壊して、そこから体をねじ込んで、半分建物から落っこちそうになりながら、久しぶりに見た頼もしい兄ちゃん達の方に飛び出した。

背丈が小さくてひょろりとしているセクメト兄ちゃんが、僕を受け止めようと走ってくる。

それに、周囲を見回しながらも恰幅のいいハトホル兄ちゃんが続く。


「兄ちゃん、にいちゃん、兄ちゃん!!! うわああああん!!! 助かったああああ!!!」


僕は二人にぎゅうぎゅうに抱き締められながら、半分泣きながら、そう言った。


「ホルス、やべえって話を、お前の上司のネフェル殿下の手紙から知るのがめちゃくちゃ遅れた!!」


「村までは手紙が届いていたんだけど、うちまで誰も届けに来る事が無くってね、用事があって村に行って始めて、君の手紙とか、ネフェル殿下の手紙とかがある事を知ったんだよ」


「うん、うん、うん」


「まったく。こんな目くらましの魔法のかかった、出入り口まで入念に魔法で封印されている隠れ家に、閉じ込められてるとか想定外だっての! ハトホルと二人がかりで封印ぶっ壊したぜ」


「セクメトの馬鹿みたいに強い衝撃魔法がなかったら、どうにもならなかったね」


「……あ、兄ちゃん達は、僕がホルスだってわかるの? こんな女の子の見た目になっちゃったのに」


「あ?」


「え?」


僕は二人との再会のうれしさから一息ついて、自分が二人の知っている姿とは大違いだって事を思い出して、おそるおそる聞いてみた。

そうすると、二人は今それに気がついた、みたいな顔で顔を見合わせて、こう言った。


「俺等知ってたし」


「君への忠告は知っていたからこそのものだったんだよ」


「兄ちゃん達、どうして、じゃあ隠してたの?」


「だって言っても信じられるわけ無いだろう。寝てる間だけ女の子になるなんて、なんかの悪い冗談にしか思えないだろ」


「自分で認識できない事を言われても、納得できるかって言われたら疑問だものね」


「だから、一人で寝なさいとか、そういう事を言ってたの?」


「そうそう」


「そういう話なら、適当にホルスも問題を想像して納得してくれるかな、と思ってさ」


二人の兄ちゃんは交互にしゃべって、僕は涙を拭いた。


「……女の子でも、僕がホルスだってすぐわかったの?」


「だって面は変わらないだろ」


「俺たちのかわいいホルスだろ? 男の見た目でも女の見た目でも」


「違いない。意見が合うな、ハトホル」


僕はそれを聞いて、肩の力が抜けるようだった。

女の子でも、男の子でも、兄ちゃん達には関係が無いんだって、その言葉からも伝わって、ほっとしたのだ。

僕はどうやらネフェル殿下以外の誰もが、僕が女の子の見た目になった事で対応が変わった事、国王さえおかしくなった事が、思っていた以上に辛かったみたいだった。


「さて、ここからさっさと出て行くぞ」


「でも、そうしたら兄ちゃん達ただじゃすまないんじゃないの?」


「あ?」


「ううん、俺達をどうこうするって事は、国王様にも不可能な事だし、俺達は陛下の命令もあって、ここを探し当てて、ホルスを助けに来たんだよ」


「陛下ご自身が、来たかったみたいだけどな。手が空かないって事で、俺等に任せてくれたわけだ」


「国王が……自分で?」


意味が全くわからない。ここに僕を閉じ込めたのは国王なのに、国王が僕を助けるように言ったなんておかしくて。

わからない、と言う顔をした僕に、二人は言った。


「とにかく、こんな辛気くさいところからはさっさと出て行くに限るんだ。陛下もめちゃくちゃ待ってるしな」


「宮廷生活は俺等の性格には合わないんだけどねえ」


「言うなハトホル。お前くらい穏やかならまだいける。無理なのは俺の方」


「セクメトは苛烈だからねえ」


訳がわからないまま、僕は兄ちゃん達に連れられて、やっと、この忌々しい場所から出ていく事ができたのだった。

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