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七色の大陸  作者: 108
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ep6:失われた記憶と世界の真実

「ああ、俺は…」


 ミルクラの言葉がアオの心に衝撃を与えたその瞬間、彼の心の奥底から閃光が走った。


 断片的な記憶が、波のように彼を襲う。


 かつて、彼は人神と称され、一つの世界を滅ぼした存在だった。


 だが、その行いの詳細は、濃い霧に覆われているかのように(おぼろ)げだ。


 苦悩に満ちたアオの肩に、温かい手が置かれる。


 タウィリの優しい瞳が、彼の心を包み込む。


 視線が交錯する瞬間、アオの心に熱い衝動が駆け巡る。


「俺は…!」


 言葉にならない感情が、胸を締め付ける。


 さらに、もう一つの温かい手が、アオの肩に触れる。


 アロハの瞳は、決意と覚悟に燃えている。


 アオとアロハの視線が交差し、彼は深呼吸をする。


「俺は…そんなことしない!」


 力強く、決意を込めた声が、夜空を切り裂く。


「俺は…この世界を守るために戦う!」


 過去の記憶は断片的で、詳細は霧の中。


 それでも、アオの心は確信していた。


 自分が何のためにここにいるのかを。


 彼は、人神ではないかもしれない。


 しかし、彼は戦う。


 この世界を守るために。


 月が唯一の光源となり、戦場跡を幽玄の世界へと変える。


 そこには、かつて人神と称されたアオ、七柱神に数えられるタウィリ、そして冥界の支配者ミルクラが立ち、運命の糸が交錯する。


 彼らの対峙は、静寂を破り、未来への扉を開く。



 ミルクラは冷酷な微笑みを浮かべ、不穏な言葉を吐く。


「挨拶だけよ。…いずれ、人神と決着をつけるわ!」


 ミルクラの唇に浮かんだ冷たい微笑みは、アカアンガを越え、タウィリへと静かに視線を移していく。


 彼女の声は静かでありながら、その中には強い決意が込められていた。


「…久しぶりね、天候神。…そろそろ、決着をつけましょうか」


 過去の戦いの重みと、これから始まる新しい戦いの予感が、その言葉一つ一つに宿っていた。


 ミルクラの言葉が虚空に溶け込む間もなく、タウィリは杖を振り上げた。


 稲妻が空を裂き、轟音が轟く。


 アカアンガが咆哮(ほうこう)を上げ、ミルクラは魔杖を構える。


 激しい戦いが始まった。


 雷鳴と咆哮が交錯し、大地が揺れる。


 アオとアロハは、その圧倒的な力に息を呑む。


 しかし、アオの目は、恐怖ではなく、静かな闘志に燃えていた。


 彼は、この戦いの意味を理解していなかったが、仲間を守るために、そして自分の存在意義を見つけるために、戦うことを決意したのだ。


 タウィリの瞳は、静かに燃え上がる。


 かつて人神と共に世界を滅亡の危機から救った彼は、ミルクラの野望を阻止する決意を固める。


「…待っておったぞ、ミルクラ。今度こそ、必ずそなたを止めてみせる!」


 静かな声に、揺るぎない決意と覚悟が込められている。


 不気味な沈黙が戦場を包み込む。


 その沈黙を破ったのは、ミルクラの意外な言葉だった。


「…今は、天候神と争う気はないわ」


 意味深な笑みを浮かべ、ミルクラはアロハを見下ろす。


「…あなたには、興味があるわ」


 その言葉の意味は、闇の中。


 しかし、アロハは肌で感じる、ミルクラの視線に込められた悪意を。


 アロハは、ミルクラの言葉に、言いようのない恐怖と好奇心が入り混じった感情を抱いた。


 なぜ、彼女が自分に興味を持つのか?


 それは、アオへの想いからくるものなのか、それとも…?


 アロハの心は、不安と期待が入り乱れる。


 冷酷な声音で、ミルクラはアカアンガに声を掛ける。


「…行くわよ」


 巨大な翼を広げたアカアンガは、夜空を切り裂き、月へと消えていく。


 タウィリ、アロハ、そしてアオは、夜空を見上げる。


 月明かりに照らされた三人の表情は、決意と不安に満ちていた。


「我々の前には未知なる挑戦が待ち受けておる。恐れることはなかれ。この星空の下、我々は一つじゃ!」


 タウィリの言葉に、アロハは希望を胸に新たな力を得る。


「そうだね、おじいやん! 未知への一歩は、いつだって心躍るものさ!」


 ミルクラの言葉は謎を深めるばかりで、彼女がアオとアロハに注目する理由も、その真意も掴めなかった。


 しかし、その不確かさが三人の絆を強くし、どんな未知や困難も乗り越える決意をさらに固めさせた。


 アオは、ミルクラとの戦いで感じた、底知れぬ力と孤独に思いを馳せる。


 それは、かつて自身が人神として振るった力と、どこか重なるものがあった。


「ミルクラも…もしかしたら、俺と同じように…」


 アオは呟く。


 その言葉に、タウィリとアロハはハッとする。


「そうか…ミルクラもまた、孤独を抱えているのかもしれんな」


 タウィリは、遠い目をしながら呟いた。


 アロハは、アオの言葉に、ミルクラへの共感と、それでも彼女を止めなければならないという決意を新たにする。


「アロハたちは必ずミルクラを救ってみせる。彼女を孤独から解放し、この世界を一緒に守るんだ」


 アロハの言葉に、アオは力強く頷いた。


 彼らの瞳には、未来への希望が輝いていた。


「でも、ミルクラはどうしてあんなにも世界を滅ぼそうとするんだろう?」


 アオは首を傾げながら尋ねた。


 タウィリは、少し間を置いてから口を開いた。


「それは、この世界の成り立ちと深く関わっているんじゃ…」


「世界の成り立ち…?」


 アオは興味津々に尋ね返す。


「ああ。この世界は、かつて人神と七柱神によって創造された。しかし、その創造には、大きな犠牲が伴ったんじゃ…」


 タウィリの言葉は、アオの記憶の奥底に眠る何かを呼び覚ますようだった。


 彼は、断片的に蘇る記憶の中で、光と闇が激しくぶつかり合う光景を見た。



「ところでさ、タウィリさん、さっきのミルクラのペット、めっちゃ怖かったけど、あれって何者?」


 アオは、アカアンガの威圧感を思い出し、少し冗談めかして尋ねた。


「アカアンガじゃ。冥界の番犬のようなものじゃな。ミルクラの忠実な(しもべ)でもある」


 タウィリは、少し困ったような顔で答えた。


「番犬って…あんなのが番犬だったら、泥棒も逃げるどころか腰抜かすよ」


 アオは、思わず笑ってしまった。


「アカアンガは、冥界の門を守る神獣じゃ。その力は強大で、闇の力を操る。しかし、その存在は、この世界のバランスを保つためにも必要不可欠なものなんじゃ」


 タウィリは、アカアンガの存在意義を説明した。


「ふーん、なんか複雑だな」


 アオは、首を傾げた。



 ……地震の恐怖が過ぎ去り、再び平和が訪れると、タウィリは旧友のようにアオに語りかけた。


「さあ、静寂を祝って、この古い魂と一杯やろうじゃないか!」


 荒れ果てた庭先には、割れたガラスや皿の破片が散乱していた。


 それでも、月明かりは優しく屋敷を照らし、どこか安堵感を与えていた。


 キッチンの扉を勢いよく開け、アロハは元気いっぱいに飛び出す。


「なんであたしをのけ者にするの? アロハだってお酒が飲みたいのよ。ねぇ、おじいやん、ちょっとだけ飲ませてよ?」


 しかし、タウィリは優しくも断固とした態度でアロハを諭す。


「アロハ、まだ15歳だからな。お酒が飲めるのは100日後じゃよ。アカデミーに遊学した時には、『幻酒・レワレゴロシ』で乾杯じゃ!」


 優しく微笑みながら、アオはアロハに興味を持って尋ねた。


「アロハちゃん、16歳の誕生日を迎えたら、遊学の旅に出るの? そのアカデミーってどんなところ?」


「そうじゃ、アロハが向かうのは、ジーランディアにある名高き魔法のアカデミーじゃ。


 そこは知識の宝庫であり、各地から来た魔法使いたちが集まり、互いの技術を高め合いながら、世界の奥深い真理を探究する場所じゃ。


 アロハもそんな学び舎で、自らの力を磨き、この世の真実を見つけ出すんじゃろう…」


 タウィリは誇りに思いながら言葉を紡いだ。


「それってリアルにすごいっしょ! アロハちゃん。俺も一緒に行けたらなぁ…」


 アロハは優しく目を輝かせて言った。


「実は、アロハにはカフランギっていうお兄やんがいて、王都のアカデミーで学んでるんだ!」


「え、アロハちゃんにお兄ちゃんがいるなんて、初耳だよ!」


 アロハは、少し恥ずかしそうに笑った。


「そうなの。カフランギお兄やんは、いつも冷静で頼りになる存在。魔法の才能もずば抜けていて、何でも完璧にこなすの。


 でもね、たまに子供っぽいところもあって、そういうギャップが可愛いんだ」


 アロハの目には純粋な尊敬の光が宿っていた。


「うん、お兄やんは本当にすごいんだ。アカデミーでトップクラスの成績を誇り、どんな質問にも即座に答えてくれる。お兄やんのようになりたくて、アロハも毎日勉強に励んでいるんだ」と語り、その目は輝いていた。


 アオは驚きつつも、アロハの言葉に感銘を受けていた。


「そうなんだ。アロハちゃんのお兄ちゃん、すごい人なんだね。それなら、なおさらアカデミーに行ってみたいっしょ!


 アロハちゃんやカフランギさんみたいに、俺も成長できるかもしれないから…」


 アロハはアオの言葉に微笑み、「うん、きっと君もすごく成長するよ。アロハたちは一緒に頑張ろうね! それに、ビストロ・トヨウケにも一緒に行こうね!」と力強く言った。


 アオはその提案に目を輝かせ、「うん、それ、メチャムチャ楽しみっしょ! ビストロ・トヨウケっていうのもすごく気になるし、アロハちゃんと一緒なら何でも楽しいと思うよ!」


 タウィリもその話に深く興味を示し、「ビストロ・トヨウケは、ただのレストランではない。そこで作られる料理は、食べる者に特別な力を与える。


 それが何かは、自分で見て感じることだ。じゃから、そこへ行く日を楽しみにしておるよ」と力強く語った。


 アロハは、ビストロ・トヨウケの料理について、次のように説明した。


「ビストロ・トヨウケの料理はね、ただの料理じゃないのよ。


 例えば、『七色のスープ』は、一口飲むと、まるで体が虹色の光に包まれるみたいに温かくなって、傷や疲れが癒えていくの。


 黄金のステーキは、噛むたびに口の中に太陽の光が広がるような味がして、力がみなぎってくるのを感じるわ!」


 アオは、その説明に目を丸くして驚いた。


「そんなすごい料理があるなんて、信じられない!」


「ビストロ・トヨウケは、ただのレストランじゃないのよ。そこは、夢と希望を与えてくれる場所なの!」


 アオは、ビストロ・トヨウケに行くことで、自分の冒険に必要な力を得られると確信した。


 そして、その日が待ち遠しくてたまらなかった。


 それは、三人の新たな誓いであり、未来への一歩でもあった。


 その後、タウィリが大きな樽を持って再びキッチンから現れた。


「小僧ォ、これは幻酒じゃないが、こっちはチェロ芋の酒だよ!」と言いながら、その樽から注がれた葡萄色の液体を木製のグラスに注いだ。


 その酒は、まるで熟した果実のような、甘く芳醇な香りを放っていた。


 グラスに注がれると、液面が月明かりを反射し、宝石のように輝いた。


 アオはその神秘的な色合いと香りに目を奪われながらも、一つの疑問を抱いた。


「――命と愛が永遠に続くようにピコルア!!!」


 タウィリの言葉と共に、アオは未知の酒を口に運んだ。


 その瞬間、舌の上で甘く濃厚な味わいが広がり、喉を通る時には、ほんのりとした温かさが全身を包み込んだ。


 アオは目を閉じ、この不思議な感覚をじっくりと味わった。


 どこか懐かしい、そして、未来への希望を感じさせる味だった。


「これは…すごい!」


 アオは思わず声を上げた。


 彼の心には、この異世界での冒険が、彼の失われた記憶と、未来への道を照らす光となる予感がした。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


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