ep4:闇に溶ける屋敷~未知への誘い
暗闇に溶け込むように佇む屋敷。
その背後で微かに人影が揺らめいている。
アオは心臓が高鳴るのを感じながら、一歩ずつ近づいていく。
夜の帳に包まれたその屋敷は、まるで異世界への扉を開く鍵のようだった。
闇を漂うトライバルな装飾は、未知との出会いを予感させる。
微精霊の光に誘われるように、アオは一歩ずつ、この世ならぬ場所へと足を踏み入れていく。
アオは感動で声を上げる。
「これは、幻想を結晶化させたような別荘だ!」
屋敷の荘厳な外観は、彼の心を強く引きつけ、離さなかった。
タウィリの声が、力強く、それでいてどこか温かみを帯びて空間を満たす。
「たじゃいまー! アロハ!」
アオは自然とその方向を見つめた。
少女が振り返ると、彼女の笑顔は朝日が海面を照らすように輝き、アオの心を瞬時に暖かくした。
その笑顔は、まるで魔法のようにアオの心をつかみ、離さない。
好奇心に満ちた眼差しでアオを見つめると、彼女は純粋な笑顔で問いかけた。
「おじいやぁーん、お帰りなさい! それで、君は一体誰?」
彼女の声は、冬が終わりを告げ、新しい季節が始まることを予感させるかのように、周囲の空気を和やかにし、心を温かくする。
少女は、まるで春風に乗って遊ぶ、いたずら好きな小鳥のように首を傾げ、茶目っ気たっぷりに尋ねた。
「それとも、おじいやんの新しいお弟子さんかな?」
彼女は異世界の森から現れたかのような妖精そのもの。
その姿は、周りを飛び交う微精霊たちをもしのぐ魅力で、アオの心を鮮やかに捉えた。
プラチナブロンドのショートボブは太陽光を反射して輝き、深緑の瞳からは無限の知識が垣間見える。
エルフを思わせる尖った耳は、彼女の非凡な存在をさらに際立たせる。
首にかけたグリーンストーンの首飾りは、その神秘的なオーラを一層引き立てていた。
生命の息吹を帯びた彼女の衣装は、色鮮やかな布と乾燥草で織り成され、微精霊たちがその周りで舞い踊る中、ただ一人、この世界に新たな光を放っていた。
アオは照れくさそうに首を掻きながら、少女の尖った耳の先を見つめていた。
タウィリは冒険家としての経験を生かし、孫娘に状況を説明する。
「この小僧ォはのう、ワシがリケリケビーチで偶然見つけた記憶喪失者じゃ。微精霊たちも彼に興味津々で近寄っておるわい。悪意は感じられんから、安心して接してみるとええぞ!」
アオは、彼を取り囲む微精霊たちの輝きの中で、確かな声で言った。
「記憶がないのは、まるで白紙のページのようだ。でも、それがどうした?
新しい物語を、今ここから書き始めるんだ。過去がどうであれ、これからの俺は自分で決めるっしょ!」
タウィリ老は、古木のように深く、そして穏やかに語り始める。
「この森はのう、生命の神秘に満ちた聖地じゃ。貴様ァの物語が、この森に新たな命を吹き込むんじゃ。心を森に開き、その鼓動を感じてみるのじゃ!」
タウィリの言葉に、アオの心に新たな風が吹き込み、何かが動き始めたのを感じた。
少女は弾むような声で宣言する。
「……君と一緒にこの森を探検するの、とっても楽しみにしてるんだからね!
だから、一緒にこの森の秘密をすべて解き明かしましょう!」
微精霊たちが舞い踊る深い森の中、一人の少女が興味津々な眼差しで少年を見つめていた。
少女の名前はアロハ。
彼女の視線の先には、記憶を失ってしまった少年、アオがいた。
「ねぇ、私のこと、もっと知ってほしいな。アロハ、私の名前。親からもらった、とっても大切な名前なんだ。
だから、アロハって呼んで。記憶を失ったとしても、私の名前だけは忘れないでね!」
彼女はそう言って、星空のように輝く笑顔を見せた。
アオは緊張を振り絞り、精一杯の声を弾ませた。
「よ、よろしく!」
その瞬間、アオの心はアロハの笑顔に包み込まれ、新たな希望が芽生え、未来への道が開かれたように感じた。
月明かりに照らされた古風な屋敷は、幻想的な夢の舞台のよう。
圧倒的な魅力を放ち、アオの心を捉えて離さなかった。
タウィリは、宇宙の調和を象徴するような温かみのある声でアオを迎えた。
「若き旅人よ、このジーランディアの地に足を踏み入れたことを歓迎するぞ。我が屋敷は、夢と希望の宿る場所じゃ。ここで、心の疲れを癒やし、新たな力を得るがええ!」
タウィリは温厚な笑みを浮かべ、アオを見つめる。
その眼差しは深い愛情に満ち溢れ、アオの心を優しく包み込む。
タウィリは見た目とは裏腹に温かい魂の持ち主であり、アオの未来を照らす灯火のような存在だった。
タウィリは、かつて世界を救った英雄だった。
しかし、愛する者を失った悲しみから、この静かな森に隠遁していた。
アオの出現は、彼の心に眠っていた情熱を呼び覚ました。
彼はアオと共に、再び世界を救うための冒険に旅立つことを決意する。
「えっと、君と話すと、心がポカポカするんだ。まだ出会ったばかりでおかしいかな?
でも、君がそばにいると、何だか安心できるの……」
アロハの優しい言葉がアオの心を温めているその時、ふとした動揺が彼を襲った。
静かな空間に溶け込むような地下室からの微細な異変が、彼の安堵を一瞬で霧散させたのだ。
地下室の扉がかすかに揺れる音が、静けさをかき乱し、アオの心に不安の種をまいた。
〈夢だったのか、それとも…?〉
不安と好奇心が入り混じる。
幻か現実か。アオは目を疑い、心臓が早鐘のように高鳴る。
再び扉を見つめるも、揺らめきは消え、静寂だけが戻っていた。
何が起こったのか、確信が持てない。
「夜が深まると、この森は漆黒に染まり、魔獣たちがその牙を剥く時がくるのじゃ。だが、恐れることはない。ワシの屋敷は、結界のもと、安寧の港じゃ!
さあ、ホットな食事と温かい笑顔が待っておるぞ。ところで、今日のディナーは何じゃ?」
タウィリの言葉に頷き、アオは深呼吸をする。
不安を押し殺し、心を落ち着かせようとする。
アオの手首に巻かれた透明な束縛が、かすかに光を放ち始めた。
それはまるで、アオの心のざわめきに反応しているようだった。
その屋敷は静かに月明かりに照らされ、その美しい姿は幽かなざわめきとともに、不思議な魅力を放っていた。
「ほんとに、こんな美しい森に魔獣が出てくるなんて、信じられない!」
アロハの言葉に、タウィリは厳かな表情を崩さずに答えた。
「この屋敷には魔獣除けの結界が張られておるから、アロハは心配しなくても大丈夫じゃよ!」
そんなやり取りを経て、彼らは美しい月明かりの元で、静謐な一時を楽しんだ。
異世界の七色の大陸では、人々は『魔獣』という存在の噂におののいていた。
しかし、その恐れも、この温かな屋敷の壁が阻むかのようであった。
アオは手首の光が消え、安堵のため息をついた。
〈この光は、俺を導いてくれるのかもしれない…〉
アロハは鮮緑色に染められた唇を尖らせ、「魔獣なんて、一度でいいから見てみたいもんだよ!」と子供のように地団太を踏んだ。
タウィリは彼女の好奇心を誉め、「魔獣というのはのう、我々が警戒を怠らない理由となる存在じゃ。じゃが、見たいというのなら、機会があれば見せてやろう。ただし、安全な距離からじゃ!」と語った。
アロハの元気な笑顔に、タウィリは心を和ませ、「……魔獣には、きっといつか出会えるはずじゃ。さあ、宴の始まりじゃ!」と声を上げた。
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