ep3:失われた記憶と運命の透明な束縛
西暦2038年、アオは絶望の淵にいた。
15歳の時、サーフィン中の大事故で兄を失い、生きる希望を失っていた。
両親の離婚、母親の再婚、そして新たな家族との出会い。
そのどれもが、アオの心を癒すことはなかった。
しかし、カイアだけがアオの心を癒すことができた。
そんなある日、アオは雷に打たれる。
目覚めたとき、彼は見知らぬ場所、七色の大陸の一つであるジーランディアにいた。
彼の目の前には、幻想的な美しさを誇るリケリケビーチが広がっていた。
その砂浜は、太陽の光を受けてキラキラと輝き、まるで星の砂が散りばめられたかのようだった。
一方、カイアは深い緑に包まれた未知の森の中で目覚めた。
彼女の周りは、生い茂る木々と鮮やかな花々で溢れ、まるで自然の楽園のようだった。
それぞれが自分が何者であるか、そしてここがどこであるかを思い出すために、新たな冒険と自己再発見の旅が始まった。
遥か彼方に広がる森は、神秘を紡ぐ天の織物師が巧みに織り上げたかのような景色を見せていた。
深緑の茂みとダークシェードの影が交錯し、生命が息づく森として存在していた。
その樹海を、年輪の記憶を深く秘めた老人が一人で静かに歩いていた。
彼の背中には、長い年月を生き抜いた証とも言える、歴史を刻んだシワがびっしりと重なっていた。
その老人の数歩後ろを、アオが追っていた。
アオの手首に巻かれている透明なものは、彼の新たな運命を示す証であろうか、それとも…。
それは手首を優しく包み込みながら、アオを引きつけていた。
「この手首に巻かれている、透明なモノは何だろう!?」
アオが困惑しながらも、強く引きつけられる好奇心に駆られて、そのモノに触ろうとしたその瞬間、老人は静かに足を止め、深く老練な眼差しをアオに向けた。
夕陽が低く沈み、その光が樹々の隙間からこぼれ、葉を優しく撫でながら地をオレンジ色に染めていく。
「自己紹介がまだじゃったのう。ワシの名はタウィリじゃ! 貴様ァの名は何じゃ?」
その声は木霊するような深さと共に、アオの心に深く刻まれた。
「…おりょ!? 名前が思い出せない…」
アオの顔には、突如として押し寄せる不安が曇りを落とし、その表情は晴れない雲に覆われていた。
記憶が霧となって漂い始め、それが心の奥深くを覆い隠していた。
「……それは、恐らく記憶喪失じゃのう。貴様ァはどこかで頭を強く打ったのか?」とタウィリが問いかけた。
その声は静かでありながらも、深い慎重さが込められていた。
タウィリはアオの淀んだ瞳をじっと覗き込んでいた。
そして、無言のまま、困惑するアオに対して、タウィリは優しく提案した。
「まぁええ、ワシの屋敷での休養が、過ぎ去った記憶を呼び覚ます鍵となるじゃろう」と、タウィリは何事もなかったかのように先を歩き始めた。
その言葉が、アオの心に微かながらも温かな慰めをもたらした。
アオは、忘れ去られた記憶を取り戻そうと内心で奮闘していた。
だが、彼の思考を遮るかのような濃霧が広がり、強烈な吐き気に襲われた。
結局、アオは考えるのを諦めざるを得なかった。
頭を両手で抱えながら、記憶の甦りを静かに待つのみだった。
〈タウィリさんの言う通り、少し休めば、記憶が戻るかもしれないっしょ!〉とアオは自分自身を励ました。
アオの手首に巻かれている透明な束縛をいじるその手は、何かを伝えようとしているかのように彼を見つめていた。
〈……全てを失ってしまったかもしれない。でも、なぜか分からないけど、心の奥底から何かが俺を前向きにさせてくれている。それは、古の時代から受け継がれた光かもしれないんだ。
だから、これが俺にとって新しいチャンスだと確信している。
タウィリさんから多くを学び、この手首に巻かれた透明な束縛の謎を解明したい。それが、俺の新たな運命だから!」と、名を失った少年、アオは心に決意した。
ふと意識が戻ると、周囲は完全に暗闇に包まれていて、静寂が広がる森の中には一切の騒音がなかった。
日が沈み、夜の幕が下り、星々がひとつひとつ明るくきらめき始めた。
それぞれの星が独自の輝きを放ち、森全体がその光で照らされて神秘的な雰囲気に包まれていた。
アオの目の前に、色とりどりの光が浮かび上がる。
「なんだこれは…?」
タウィリが微笑む。
「微精霊じゃ。珍しいのう、歓迎しとるようじゃ!」
アオは目を丸くする。
「歓迎? 俺を?」
タウィリは続ける。
「この世界はのう、見えるものだけが全てではないんじゃ。見えないもの、感じるもの…それら全てが大切なんじゃよ。
微精霊は、見えない命の存在を教えてくれるんじゃ。それを理解できる者こそ、真の冒険者と言えるんじゃ!」
アオは微精霊の光を見つめ、考え込む。
「真の冒険者か…」
微精霊の光を頼りに、運命の紡ぎ手となったアオとタウィリは、迷宮のような森を抜け、遂にその旅の終わりを告げる屋敷が見えた。
その佇まいは、まるで時を超えて古の誇りを守り続けるかのように、暗闇の中でもひっそりと威厳を放っていた。
屋敷は、まるで生き物のようにその光を吸収し、周囲の静けさが一転して生命力に満ちた場へと変わった。
アオがその不思議な光景に心を奪われていると、タウィリ老は彼に向かって言った。
「見よ、小僧ォよ。それがマラマランガララじゃ。奴らの尾は特別な発光器を備え、酸素と触れることでこの美しい光を放つんじゃ!」
アオはその話に目を輝かせ、さらなる知識への渇望を覚えた。
「このマラマランガララはのう、リケリケの守り神のような存在じゃ。彼らが光を放つ時、それはこの地に平和が訪れる証じゃ。しかし、光が弱まる時、それは闇が迫りくる前触れでもあるんじゃ」
タウィリは、アオにマラマランガララの重要性を説いた。
アオは、この不思議な生物たちが、この世界のバランスを保つ鍵を握っていることを理解した。
「あ、あれは何ですか、タウィリさん?」
透明な球体のような微精霊が、静かに光を放ちながら二人の前に現れた。
その中には、まるで深遠なる宇宙を思わせる無数の色とりどりの光が舞っており、神秘的なリズムを刻んでいた。
タウィリは目を丸くし、驚きを隠せない様子で微精霊を見つめた。
「ウォフォン、何とも奇妙な微精霊じゃのう。こんな微精霊、ワシの長い神生で初めて見おるぞ!」
微精霊は静かに光を強め、厳かな声で語り始めた。
「我は、遥か彼方の星より来たりし精霊。まだ生まれしばかりなれば、定まりし形を持たぬ。
されど、汝らの未来を導かんと、この広き宇宙を旅して来た。
汝らの未来は、未だ誰も見たことのない光に満ち溢れておる。
それは、希望の光、そして試練の光…。
今はまだ、全てを明かすことは叶わぬが、必ずや汝らと共に歩むであろう」
微精霊の言葉に、アオは不思議な懐かしさを感じた。
それは、まるで遠い昔に聞いたことのある声のようだった。
微精霊がその言葉を終えると、アオとタウィリは眩い光に包まれた。
次の瞬間、二人は目の前に広がる屋敷の門の前に立っていた。
「ああ、あれが我が自慢の孫娘、アロハじゃ!」と、タウィリが高らかに笑った。
その声は森全体に響き渡り、その場の雰囲気を一変させた。
一方、深い森の中で、カイアは必死にアオの名前を叫んでいた。
「アオ! どこにいるの?!」
彼女の叫びは、虚しく森に吸い込まれていく。
その時、彼女の目に飛び込んできたのは、不気味な光を放つ巨大な影だった。
「キャーッ!」
カイアは恐怖のあまり、その場に立ちすくんだ。
生物は、ゆっくりとカイアに近づいてくる。
「助けて! 誰か!」
カイアは、絶望的な叫び声を上げた。
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