ep16:アロハの炎~守りたい仲間たちへの決意
その時、アロハが宙に浮いて、呪文を唱えた。
「……アウヒトロアテアトゥアムラアヒタンゴヒアテナコアァー!!
っええッーー! ム・ラ・ヒー!!」
アロハの心には、彼女の仲間たちを守る強い決意が宿っていた。
彼女は目を閉じ、過去の戦いの記憶を思い起こしながら、全身に魔力を集中させた。
その声は力強く、周囲の空気を震わせ、アロハの手からは炎が噴き出した。
その瞬間、ウルフィの鋭い爪がアオの腕を裂いた。
「うっ…!」
アオが痛みに顔を歪めると、彼の口からは苦痛の呻きが漏れた。
「くそっ…これくらい…!」
血がダラダラと腕から流れ落ちるのを感じながらも、アオは痛みを堪え、ふらつきながらも立ち上がろうとした。
その目は、前に立ちはだかるウルフィに向けられていた。
痛みに震える手で、アオは自分の腕を押さえながら、強い意志を込めて言った。
「こんなことで…俺は負けん…!」
「ギャアアアッ!」
ウルフィは痛みに耐えかねて悲鳴を上げた。
アロハの炎の塊が直撃し、彼の尻尾を焼き尽くしたのだ。
その瞬間、彼の銀色の毛が焼け焦げ、黒くなった尻尾が地面に落ちた。
「痛い…こんな…うぐっ…」
ウルフィは痛みで言葉を詰まらせながら、焦げた尻尾を見て絶望した。
かつての銀色の美しさは影も形もなく、その姿はただただ哀れで悲惨なものだった。
その時、森の奥深くから、地を揺るがすような轟音とともに、巨大な熊が現れた。
「ゴオオオオオン!」という響きが、木々を震わせ、空気を振動させた。
その体は、巨大な岩のようで、その存在感に圧倒された。
巨大な熊は、一見、ただの熊に見えたけれど、よく見るとその姿は普通の熊とは異なっていた。
彼女の名前は「森の熊さん」。
全身を覆う毛皮は深い茶色で、その中に紛れ込むように多くの小さな緑色の葉が生えていた。
それは、森そのものが一体化したかのような風貌だった。
その足取りは静かでありながら、一歩一歩が大地を揺るがす力強さを持っていた。
そして、森の熊さんの向かいから小熊が駆け寄ってきた。
小熊は通常の小熊とは異なり、体の一部が透明で、その透明な部分には小さな星々が輝いていた。
それはまるで、夜空をその身に纏ったような姿で、見る者を魅了した。
彼の首元には、星形の模様がちりばめられたマフラーが巻かれていて、星々は彼自身が生み出した光のように輝いていた。
「ねぇ、お母さん、僕、いつ大きくなるの? もう少しで、ウルフィの餌になるところだったよ」と小熊が尋ねた。
その声は鳴き声のようで、一見するとただの鳴き声にしか聞こえなかった。
アオがポウナムの力を使って、彼らの会話を理解した。
彼の目が緑色に輝き、言葉が心の中に直接伝わってきた。
「ほら、星の熊ちゃん、君はもう十分に大きいんだよ。大事なのは、体の大きさじゃなくて、心の大きささ」と森の熊さんが答えた。
その声は深く、まるで山々が語りかけてくるような感覚を与えていた。
森の熊さんの言葉は、特別な魔法の力で周囲の人間たちにも伝わるようになっていたのだ。
一方、ウルフィ族の兄弟、紺色と銀色もその場にいた。
「おい、ヒラワ、向こうに森の熊さんと星の熊ちゃんがいるぞ! おめぇがゆっくりしてるから逃げられちまった……」と紺色のウルフィが言った。
その声は硬く、ウルフィ特有の唸り声に似た音色があった。
千切れた尻尾をぺろぺろ舐めながら、「え、マジで? プルプル兄貴、俺たち、森熊に勝てんの?」と銀色のウルフィが尋ねた。
その声はやや甲高く、ウルフィの遠吠えのような音色があった。
「難しいかもしれん。だが、ウルフィ族の諺にもあるように、『一ウルフィ、千里を走る』。我々だって、負けてたまるか! ただ、多勢に無勢、今は去るのみ」と紺色のウルフィが答えた。
彼は、森の熊さんの圧倒的な存在感とアロハの強さに感銘を受け、退却することを選んだのだ。
その言葉に、銀色のウルフィは勇気をもらったようで、にっこりと笑った。
そして、ウルフィ兄弟は一緒に遠吠えをあげた。
「おーおーおー」というその遠吠えは、森の中に響き渡り、その場の空気を一変させた。
その後、ヒラワはアロハに向かって、「次に会ったら、お前を食ってやるからな!」と言い放ち、その場を去っていった。
その後ろ姿には、狼特有の力強さと勇敢さ、そして少しの皮肉さが感じられた。
しかし、アロハはただ微笑みながら、優しく言った。
「ヒラワくん、次に会ったら、一緒にお茶でもどう? 食べることばかり考えないで、時には友達と一緒に楽しむことも大切よ」と。
彼女の言葉は、彼らの心に響くように、優しさと温かさを込めていた。
「あれだけ、お母さんから離れないでって言ったのに、星の熊ちゃんは本当に好奇心旺盛なんだから、はぁ、困った熊ちゃんね!」
森の熊さんは、深い愛情を込めた声で言った。
その目は、親ならではの苦笑いと、慈愛に満ちていた。
星の熊ちゃんは、母の言葉を聞きながら、頭を下げて言った。
「ごめんなさい、お母さん。でも、僕、色んなことを知りたいんだ。だから、ちょっとだけ、冒険してみたかったんだよ!」
その声には、子供ならではの無邪気さと、探求心が詰まっていた。
ウルフィ族が去ったことでホッとしたアオは、その場でへたり込んだ。
疲労と戦いの後の解放感に身を任せながらも、彼は何とか立ち上がり、血が滴る腕を抑えつつ、星の熊ちゃんに声をかけた。
「星の熊ちゃんも大変だったろうけど、君が無事で本当に良かった。俺の名前はアオ。これから、よろしく」
その声には、友情と安堵の感情が混じり合い、ふたりの間に新たな絆が生まれたことを示していた。
星の熊ちゃんは、アオの言葉に微笑みながら、「ありがとう、アオ兄ちゃん。君がいてくれて、本当に助かったよ」と言った。
そして、星の熊ちゃんは、アロハに向き直り、「お姉ちゃんも、ありがとう。僕、また冒険したいと思ったら、今度は、君と一緒に行きたいな」と言った。
アオは、星の熊ちゃんの冒険心と、その純粋な目に心を打たれた。
そして、自分も同じように、この森の謎を解き明かしたいという気持ちが芽生え始めた。
「こんにちは! 星の熊ちゃん、アロハよ。おじいやんを助けるためにこの森を彷徨ってるの…」
森の熊さんは、アロハとアオに向かって、「二人とも、本当にありがとう。星の熊ちゃんが無事で、それが何よりだわ。あなたたちには、感謝してもしきれないわ」と言った。
その大きな体を揺らしながら、優しく微笑んでアオに近寄った。
「アオちゃん、怪我してるのよね? お礼に、このおばさんが手当てしてあげるから巣穴まで来てちょうだい!」
その声は柔らかく、母性溢れる優しさが伝わってきた。
アロハはアオの傷を見つめ、その顔に心配の色が浮かんだ。
「アオくん、大丈夫? ちょっと痛いかもしれないけど、私の癒しの魔法で少し楽にしてあげるね」
彼女の声は優しく、その言葉には深い友情と愛情が込められていた。
アロハの手から光が溢れ出し、その光がアオの傷口に触れると、痛みが和らぎ、傷口がじわじわと癒えていくのが感じられた。
その光は、まるで春の陽射しのように温かく、アオの心にまで届くようだった。
しかし、森の熊さんは頭を優しく振った。
「アロハちゃん、アオちゃん、ウルフィの爪や牙には、ちょっと厄介な毒があるの。それに効果がある特別な薬があるから、ぜひ来てちょうだいね!」
その言葉は知識と経験を感じさせ、その声は優しくも力強く響き渡った。
アオは、森の熊さんの言葉に、ウルフィ族の出現がただの偶然ではないかもしれないと感じた。
もしかしたら、この森の平和を脅かす何かが存在しているのかもしれない。
夜空に無数の星が瞬き、森の静寂に包まれたその瞬間。
星の熊ちゃんが、まるで夜空を歩くかのように、ふわふわと体を揺らしながら、アオの足元に近づいてきた。
その愛らしい姿は、透明な雲のようで、ひと目見ただけで心が和む。
小さな体には、ふわふわの毛並みが優しく包み込み、瞳には無邪気な輝きが宿っていた。
星の熊ちゃんの瞳は、夜空の星々がそのまま映し出されているかのようにキラキラと輝き、その毛並みは月明かりで柔らかく光っていた。
その光景は、アオの心に深い感動を与えた。
「アオ兄ちゃん、おうちにおいでよ!」
星の熊ちゃんの声は、夜風に乗って優しく響き渡る。
その声は小さくも、そこに込められた愛情と純粋な気持ちが、アオの心を温かく包み込んだ。
星の熊ちゃんの瞳は、まるで無数の星々が宿っているかのようにきらきらと輝き、見る者すべてを魅了する力を持っていた。
アオは、星の熊ちゃんからの温かい言葉に、思わず涙がこぼれそうになった。
傷ついた体だけでなく、心まで癒されたアオは、星の熊ちゃんを抱きしめ、「ありがサンクス、星の熊ちゃんのおかげで、俺は元気になれたっしょ!」と、心からの感謝を伝えた。
アオは、星の熊ちゃんからの温かい言葉を胸に、心から感謝の気持ちを込めて頷いた。
そして、森の熊さんの巣穴へと続く道を進み始めた。
巣穴に入ると、そこは広々としており、木の葉や苔で柔らかく敷き詰められていた。
暖かな焚き火が中央にあり、その周りには手作りの木製の家具が並んでいた。
巣穴全体が、まるで家族の愛情が詰まった温かい空間のようだった。
アオは、この温かい巣穴で、星の熊ちゃんやアロハ、そして森の熊さんと共に、新たな冒険の始まりを感じるのだった。
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