ep11:窓辺の光と冒険の始まり
風が柔らかく吹き抜ける中、アオは新たな旅路への一歩を踏み出した。
訪れた異世界は、神秘に満ち、奇妙な魔法が漂う幻想的な風景が広がっていた。朝の光が木々の隙間を縫い、地面に揺れる影を描き出す。その空気には、まだ誰も踏み入れていない森の香りが混ざり、胸をわくわくとさせた。
「さて、恐怖と興奮の狭間で揺れる心よ、未知との対話に備えようじゃないか。ワイテマの深部に住むマジュウとの出会いは、朝日が黒い空を破って昇る前に訪れるのじゃ!」
タウィリの声は雷鳴のように迫力があり、アオの胸に新たな冒険の扉を開く力を注ぎ込んだ。
驚きと期待が入り混じる中、アオの心は躍動していた。
「この新たな冒険に期待する気持ちは、未知の世界への一歩を踏み出す力になるっしょ!」
「えっ!? 本当に魔獣に会えるの?!」
アロハの声は部屋全体に響き、興奮と喜びが弾けるように伝わった。タウィリは微笑みを含んだ低い声で応えた。
「そうじゃ!」
その瞬間、アロハの顔に満月のような最高の笑顔が広がった。純粋な喜びが瞳の奥で輝き、彼女の無邪気な動きは部屋中に生き生きとした空気を運んだ。
「わあ! 本当に会えるなんて信じられない! アオくん、一緒に冒険しようね。怖いことがあっても、アロハがついてるから大丈夫だよ!」
まるで子供が新しい遊び場を見つけたかのように、アロハは部屋中を軽やかに踊り回った。その髪が風を受けて揺れ、瞳は宝石のようにきらめく。アオは思わず笑みを零す。
「ぅおおーッ! アロハのダンス、楽しそうすぎ! でも、壁にぶつからないかヒヤヒヤする…!」
タウィリはその様子を見守り、柔らかい笑顔を浮かべながら言った。
「そうかそうか、アロハは嬉しそうじゃな…だが、あの窓にはぶつかるなよ」
アオの心も自然とほぐれ、笑顔が広がった。
やがてタウィリが部屋を出ようとした瞬間、その足取りは一瞬だけ躊躇し、部屋に静けさを落とした。
「確かカフランギの衣装…」
期待と好奇心を抱えながら、タウィリは戸棚に手を伸ばす。アオの心は胸いっぱいに膨らんだ。
〈カフランギの衣装、どんなに格好いいんだろう…〉
しかし、タウィリが取り出したのは、伝統的な部族の腰巻と藁の雪駄だけだった。
「えええええーッ! これが伝説のカフランギの衣装!?」
アオの目には、想像していた華やかな装いとはほど遠い、質素な衣装が映った。上半身裸に腰巻、足元は雪駄――都会育ちの彼には、あまりにも衝撃的で滑稽だった。
「これじゃ、なんちゃってサーファーの方がお洒落じゃん…しかも、波乗り用のボードもないのに!」
思わず本音が漏れるが、タウィリとアロハの真剣な眼差しを見た瞬間、アオははっとした。
〈見た目じゃなく、本当の意味での強さを求めていたんだ…〉
タウィリは穏やかに語り始めた。
「これはただの腰巻と雪駄ではない。カフランギが代々受け継いできた、神聖な衣装じゃ。この腰巻は、ワイテマの森で育つ特別な植物の繊維で作られ、魔獣の攻撃から身を守り、傷を癒す力を持つ。そして雪駄は、大地との繋がりを強め、素早く動けるようにする。貴様ァが身に纏えば、戦士としての誇りと力を得るだろう」
アオは深く息を吸い、腰巻と雪駄を手に取る。葉の繊維の感触は柔らかく、肌に新鮮な刺激を与えた。独特の香りが鼻をくすぐり、森の空気を全身で感じるようだった。
腰巻には大小2組の球体が付いており、アオは目を見張る。
〈これが…ポイ…!?〉
古くから伝わる伝統の舞踏具、ポイ。それを手にすると、不思議な温かさが伝わる。振るたびに光が放たれ、周囲の空気が澄み渡る感覚。直感が胸を打つ――これで特別なことができる、間違いない、と。
アオは上半身裸を少し恥ずかしく思いながらも、自分のアンダーパンツを腰巻の下に着け、愛用のブーツを履いた。
「よし、これで和洋族折衷っしょ! …って、ブーツと腰巻の組み合わせは完全にカオスだな」
鏡に映る自分の姿は奇妙に映ったが、心の中は確かな覚悟で満たされていた。
〈これも新しい自分だ。この姿で、この世界を生きる〉
着替え終えたアオは、部屋の奥で古びた地図に目を留めた。森の各地にマークがつけられ、ただの地図ではないことが直感で伝わってくる。
「これは…魔獣の生息地を示しているのかも?」
アオは地図を折り、腰巻にしまった。心臓が高鳴る。未知の冒険は、すでに彼の胸の中で始まっていた。
その時、アロハが突然ポイを振り回しながら転び、壁に頭をぶつけて「いたっ!」と叫ぶ。アオは思わず吹き出し、タウィリは顔をしかめつつも、くすくす笑っていた。
「次は魔獣よりアロハの方が危険かもしれんな…」
その後、アオは和洋族折衷の衣裳に身を包み、自信満々にタウィリとアロハの前に姿を現した。
彼の顔には、自分が選んだこの衣装に対する満足感と自信があふれていた。
「皆さん、お待たせ! 今日のテーマは『モテる部族のスタイリング・マスタークラス』だ!」
アオは胸を張り、舞台に立つと、その存在感は部屋中に広がった。まるで異世界のファッションショーのモデルのよう。
彼は腕を巧みに使い、右腕で口元を隠しつつ左肩に指先を添え、左腕の指先は右脇の下に軽く触れる…という、謎すぎるポーズを披露した。
「う、うわっ…そのポーズ、どうやって思いついたんだ…?」
アロハが目を丸くして驚くと、タウィリは頷きつつも苦笑いを浮かべた。
「ふぉっふぉふぉ、モロにカフランギみたいじゃのう…いや、少し動くと腰が外れそうじゃが」
アオは胸を張りつつも、思わず自分の腰を確認した。腰巻がくるくると回ってしまいそうで、戦闘中に脱げたらどうしようと、少し焦る。
「ちょっと待て、この腰巻、動きづらいし、雪駄でダッシュなんて無理じゃね?」
アオの小声に、アロハはくすくす笑いながら「でも、それがまた可愛いよ!」と無邪気に言い放つ。アオは思わず「いや、可愛いとかそういう問題じゃなくて!」と突っ込むしかなかった。
それでもアオは決意を固め、深呼吸する。
〈よし、これも新しい自分だ。この姿で、この世界を生き抜く…!〉
すると突然、アオがポーズを決めた瞬間、雪駄がカツンと床に当たり、大きな音が部屋に響く。
「わわっ、さすが和洋族折衷…音までインパクト大!」
アロハは笑い転げ、タウィリは顔をしかめながらも笑みをこぼした。
「これは…アオよ、君は衣装と一体化する前に床と一体化しそうじゃな…」
アオは照れながらも、誇らしげにポーズを続けた。
その後、アオはカフランギの魂を感じながら、心の中で問いかける。
「カフランギ、教えてくれ。このポイには、どんな力が秘められているんだ?」
すると頭の中に、カフランギの声が響く。
「アオよ、そのポイは祖先の守り神からの贈り物。自然の力を操り、魔獣と心を通わせることができる。しかし、心の強さと自然への敬意がない者には使えぬ」
「はい、必ず!」
アオの瞳には揺るぎない決意が宿った。
そして、アロハがポイを手に取り、軽やかに振ると、球体から優しい光が放たれ、周囲の木々がざわめき始める。
「ほらね、アオくん。精霊たちも応援してくれてるよ」
アオは目を丸くしつつ、心の中でつぶやく。
〈なるほど…笑いと驚きと光のショーまで、異世界は手加減知らずか…〉
その瞬間、アオはこのポイの力とカフランギの意志を胸に刻み、笑いも含めた異世界冒険のスタートを全身で感じていた。
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