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七色の大陸  作者: 108
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ep1:蒼穹の果ての七色大陸

 蒼穹の果て、未来への扉が悲鳴のように静かに開く。


 過去と未来、希望と絶望が一つになり、深い闇の迷宮が広がる。


 この迷宮では、絶望が全てを呑み込み、希望の光は断末魔(だんまつま)のように輝く。


 勇者は、絶望の淵から天を仰ぎ、「…これで…終わりなのか…? まだ…何か…足りない気がする…」と叫ぶ。



 ――アオは、暗闇の中で目を覚ました。


 心臓が激しく鼓動し、冷たい汗が背中を伝う。


「また、あの夢か…」


 彼は、悪夢にうなされていた。


 あの日、牙を剥いた巨大な波に全てを奪われた悪夢。


 アオと彩陽(いろは)は兄弟であり、固い絆で結ばれた親友でもあった。


 二人は共にサーフィンに情熱を注ぎ、波に乗る喜びを分かち合ってきた。


 アオにとって、彩陽は太陽のような存在だった。


 いつも明るく、誰とでも分け隔てなく接し、そして何より、アオの才能を誰よりも信じてくれていた。


「アオ、お前は天才だ。いつか世界一のサーファーになるぞ!」


 彩陽は、いつもそう言ってアオを励ましてくれた。


 アオは、そんな彩陽の言葉に背中を押され、サーフィンに打ち込んできた。


 しかし、あの嵐の日、全てが変わってしまった。


 それは、二人がいつも練習していた地元の海岸でのことだった。


 台風が接近し、海は荒れ狂っていた。


 だが、二人はその巨大な波に挑むことを決意した。


 それは、彩陽が提案した「最後の挑戦」だった。


「アオ、お前ならできる。あの波に乗れば、きっと新しい世界が見えるはずだ!」


 彩陽は、いつものようにアオを励まし、共に海へと漕ぎ出した。


 しかし、その波はあまりにも巨大だった。


 アオは必死に波に乗ろうとしたが、バランスを崩し、波に飲み込まれてしまった。


 必死で海面へ戻ろうとしたが、意識が遠のいていく。


 薄れゆく意識の中で、アオは彩陽の悲痛な叫び声を聞いた。



 ――目を覚ました時、アオは病院のベッドにいた。


 だが、彩陽の姿はどこにもなかった。


 捜索は続けられたが、彩陽はついに見つからなかった。


 アオは自責の念に駆られ、サーフィンをやめ、生きる希望を失ってしまった。



「ほら、アオ。起きておいで!」


 聞き慣れた声がアオを現実に引き戻す。


 それは、カイアの声だった。


「…うぅん…?」


 彼は、まだ夢の中にいた。


「アオ、アオ…!」


 カイアの呼びかけに、アオはようやく意識を取り戻す。


「また、あの夢か…」


 アオは、自身の心情を独り言のようにつぶやく。


 カイアの顔は、太陽の光に照らされて輝いている。


「もう、オークランドに着く頃よ。早く起きないと、景色を見逃しちゃうわよ!」


 カイアは、アオに笑顔で語りかける。


「…ああ、そうだった…」


 アオは、まだ夢から覚めきれない様子で、ゆっくりと立ち上がる。


 その瞳は碧色へきしょく天色(あまいろ)をを宿し、世界を新たな視点で捉える。


「…何か夢でも見てたの?」


 カイアは、アオの表情を心配そうに見ている。


「…ああ、昔のことを思い出していた…」


 アオは、言葉に詰まる。


「昔のこと…? 何かあったの?」


 カイアは、アオの過去について何も知らない。


 アオとカイアは、数ヶ月前に出会った。


 カイアは明るく社交的な性格で、すぐにアオの心を開かせた。


 アオは、カイアには自分の過去を話せる気がした。


 しかし、まだ心の準備ができていなかった。


「…あまり話したくないんだ…」


 アオは、カイアの質問を避けるように言う。


「…そう…」


 カイアは、アオの言葉を尊重し、何も言わない。


「この飛行機はGL航空38便でございます」とアナウンスが再び流れる。


 空の旅をするカイアは、耳元で輝くコスモオーラのピアスと共に、未来への希望を輝かせる。


「アオ、見て。ここから見えるのが、わたしたちの新しい始まり。未来のキャンバスを見てみて!」


 彼女の言葉は、宇宙のように広がる可能性を示し、その黒い宝石のような瞳に映る青空は、無限の明日への扉を開ける光に満ちていた。


 窓の外に広がる青い海と白い雲の絵画のような景色。


〈…あの雲、まるで…彩陽の髪みたいだな…〉


 アオは、思わず心の中で呟いた。


「アオ、大丈夫? 顔色が悪いわよ」


 カイアは、アオの表情の変化に気づき、心配そうに声をかける。


「…ああ、大丈夫だ。ちょっと、昔の嫌なことを思い出しただけさ」


 アオは、無理に笑顔を作って答える。


 しかし、カイアはアオの心の奥底に潜む深い悲しみを感じ取っていた。


 彼女は、アオの手をそっと握りしめ、優しく微笑んだ。


「アオ、無理しなくていいのよ。もし話したくなったら、いつでも私に話してね。私は、アオの味方だから」


 カイアの言葉は、アオの心に温かく響いた。


 彼は、カイアの優しさに触れ、少しずつ心を開いていくのを感じていた。



「…ねぇ、この飛行機、何かおかしいかも?」と、カイアの小さな声が聞こえてくる。


 その声には、紛れもない震えが混ざっている。


 彼女は窓の外を見つめていた。


 暗転(あんてん)、眼下に広がる外の景色は、黒雲に覆われ、雷鳴が轟いている。


 その声を聞き、一瞬、アオの心臓が高鳴るのを感じた。


 それは不安と期待が入り混じった、この世のものとは思えない感情だった。


〈なんだろう、なぜか子供の頃から雷雲と雷に興奮するんだよな〉とアオは思い、その心は、そびえる雲と雷に興奮する異質な感情と、新たなる世界への期待感に引き寄せられていく。


 アオの心臓はドキドキと激しく鼓動し、そのワクワクする感情が口元を緩ませてしまった。


「でも、この飛行機大丈夫かなぁ。まさか墜落しないよね?」と、カイアの声には不安が滲んでいた。


 その声は、明らかに彼女の不安を物語っていた。


「…カイア、イダミチさんのお守りが旅の守護神だ。この小さな魔法が、俺たちをどんな試練からも守ってくれる!」と、アオの声は、固い信念に満ちていた。


 その信じる心が、二人を未知なる世界へと導く灯火となった。


 彼の信頼感と安心感が、この旅の不安と期待を包み込んでいった。


 しかし、その一瞬の平穏は突如として崩れ去った。


 それまでの穏やかな空間は、一瞬で混沌と化した。


「キャーッ!!」


 突如、機内に悲鳴が響き渡った。


 ゴゴゴゴゴゴ…


 エンジンが唸りを上げ、飛行機は激しく揺れ始めた。


 ガタンッ! ガタンッ!


 座席が大きく揺れ、乗客たちは前後左右に振り回される。


 その揺れは、乗客たちの恐怖心を煽り、一体何が起こったのかを問う声が飛び交った。


 アオとカイアは互いの手を強く握り締めた。


「大丈夫だって、カイア…俺たちは大丈夫だ!」


 アオは握りしめるカイアの手を確かめ、頼もしく語りかける。


 悲鳴は、機内中に響き渡り、その声はまるで生き物の断末魔のようだった。


 天井のパネルが剥がれ落ち、「バキッ!」と割れる音が響く。


 酸素マスクが虚しく宙を舞う。


 子供は泣き叫び、「怖いよ!」と震える声が機内に広がる。


 大人は顔面蒼白で祈りを捧げている。


「ゴロゴロ…」と雷鳴が近づき、突然、「ドーン!」と爆弾が炸裂したような轟音が機体を襲い、右の翼が稲妻に撃たれ、「バチバチ!」と火花が散った。


 機体は大きく傾き、「ギシギシ…」と機体が悲鳴を上げるように軋みながら、制御不能に陥っていく。


「ギャアアアアア!」


「誰か助けてくれー!」


 乗客たちは阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図と化し、恐怖のあまり座席にしがみつき、泣き叫んでいた。


「緊急事態発生! 緊急事態発生! 乗客の皆様は、速やかにライフジャケットを着用してください!」


 キャビンアテンダントの女性は、必死に声を張り上げ、乗客たちを落ち着かせようとする。


 しかし、彼女の瞳の奥には、どこか諦めにも似た感情が垣間見えた。


 その時、彼女の胸元で光るペンダントが、不気味な輝きを放ち始めた。


 その光は次第に強さを増し、機内を淡い光で満たしていく。


「…アオ、もしかして、私たち…」


 カイアは、震える声でアオに尋ねる。


 アオは、カイアを抱きしめ、力強く頷いた。


「ああ、きっとそうだ。でも、大丈夫だ。俺が必ずお前を守るから」


 アオの言葉に、カイアは安堵の表情を浮かべた。


 次の瞬間、キャビンアテンダントの女性が二人の前に現れた。


「もう時間ね。さあ、行きましょう」


 彼女は、穏やかな笑みを浮かべながら二人に手を差し伸べた。


「あなたは…一体?」


 アオは、戸惑いながらも尋ねる。


「私は、この世界の案内人。あなたたちを、新しい世界へ導くために来ました」


 女性は、そう言って二人を光の中へと誘った。


 二人は、光に包まれながら、彼女の手を握り返した。


 そして、次の瞬間、彼らの意識は、暗闇の中へと吸い込まれていった。


 ゴゴゴゴゴゴ…


 その時、稲妻がジグザグに闇を裂き、雷鳴が空を揺らし機内に響き渡った。


「――BANG――」突如、機内が光彩の膜に包まれ、アオとカイアはその中にいた。


「――――うわああああああああぁー!!」


 世界は一瞬で白く染まり、アオとカイアの意識は次の瞬間、彼らが知っていた現実から切り離された。



 ……そして、アオが転移したのは、七色の大陸が広がる全く新しい世界だった。


 そこは見たこともない鮮やかな世界が広がっていた。


 大地は七色の光を放ち、空には虹色の雲が浮かんでいる。


 木々は宝石のように輝き、川は液体の光のように流れている。


 遠くには、天を衝くような巨大な山が見え、その周りには不思議な形の森が立ち並んでいた。

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