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4月7日 はざくら
境内に広がる桜の花びらをかき集めながら、横目にアイツを見る。
アイツは緑が増えた桜を見上げながら綺麗だと呟いていた。
「花が散った桜ってそんなに綺麗じゃないだろ」
そう呟くと、アイツは目を丸くした。
「人間はそう思うのか、もったいないのぉ...確かに桜の花は愛らしい物じゃが、新芽が息吹く様は新しい何かを伝えようとしてる様で綺麗じゃ」
再び桜を見ると、小さい新芽が出てることに気がついた。
「桜の花びらは散るから儚いのではなく、散って次の代託す...とわしは思うぞ。それに青々とした緑も爽やかで綺麗じゃないか」
不本意だが、アイツに葉桜の良さを教わらなければ、桜の良さは花しかないと思っただろう。
「意外とすぐ側に良い物が転がっていたりするものじゃ、楽しまねば損じゃよ」
笑みを浮かべるアイツが腹立たしいが、一理ある。
気を紛らわすように再び薄桃色の花びらを集め始めた。




