28/206
6月21日 いやなもの
「そういえば夏休みはどうする、喜雨」
「どうするって何が」
「一度家に…いや、なんでもない」
家、と言われて思わず睨みつけてしまった。
おじいちゃんが悪いわけじゃない。ただ家に帰るということは父親に会わないといけない、それが顔に現れてしまっただけだ。
「そんなに自分の家が気に入らぬのか」
「何、藪から棒に。まさか聞いてたの」
「そのまさかじゃ。」
「別に特に意味は無いよ、深堀しても意味無いし」
「ふむ、なるほどな」
なんだ、何が分かった。
「父親とは関係が悪いこと、その事について深堀されたら辛いことかの」
…
なんで今日土曜じゃないんだろ、休日なら人少しくらい増えるのに…
「そんなこと言うでない。これ以上掘らない、約束する」
信用できるかと思ったけど、漱印が真っ直ぐ見つめてくる。
漱印の目って人とは違うんだな…そんな事を考えていないとなぜだか飲み込まれる気がした。
「夏休みなら、小夜ちゃんをバイトに雇うのはどうじゃ」
「え、気まづくなるから嫌だ」
なんでと訴える漱印に嫌という俺の攻防が静かな境内に響いた。
なぜだか救われた気がした。




