178/206
9月5日 なす
「ご馳走様…む、お主珍しく箸が止まっておるの。これが苦手なのか」
「いや、苦手というか、食感がそこまで好きじゃないってだけで食べられないってことじゃないし、最後に取ってあるだけだから」
「言い訳がましいのう、お主に苦手な物があるとは…」
「別に麻婆茄子だったら食べられるよ、ただ焼き茄子とか御浸しとかの素材そのものの味がするやつはちょっと…」
「ふむふむ?そういうものか」
「ほらナスって少し食感が独特だし、色移りするでしょ、それに周り紫なのに中は白だし何と言うか野菜じゃないって思う時がある」
「最後の方はこじつけな気がするのう。焼き茄子はまだ食感が固めじゃが、それでも嫌か」
「嫌」
即答で答えたら、少し笑いながらそうかと言われた。
「好き嫌いは誰しも持ちえるものじゃ。からかって悪かったの」
「からかうのは良くないけどね、俺も嫌いなものは減らしていきたいとは思ってるからね」
「うむ!それが良いの」
「漱印は嫌いな食べ物とかないの?」
「無い」
自信満々に答えられて負けた気持ちになった。




