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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
4rd Deduct 千夜一明の可惜夜

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古き因果に名残なし

推理

「…………ここは」

「トンネルの先だよ千夜さん、と言っても一回も外に出た事ないんだったら分からないか」

「まさかこの国に未開の地の住人を連れ出せるイベントが残ってたなんてね。幾ら私が名探偵でもこれは推理しきれないよ」

「俺はお前のを推理って呼びたくないな。事前に知ってて、推理してる風に見せかけてるだけだ」

「乃絃君。確定情報も使わない推理なんてただの当てずっぽうじゃない。助手として私の姿勢に批判的なのはいい事だと思うけど、ちょっと苦しいよそれ」

「……ちっ。でも今回の一件を推理する……こうなるかもと予測するのは無理があるだろ。淫祠邪教の存在する村に行くと決まった時から村人を連れ出そうなんて俺達は誰も思ってなかった。それどころかお前は、全滅させる気でいた。違うか? 千夜さんの話を受けてからじゃない、最初から」

「んーっと、じゃあ乃絃君はさ、村の皆を解放したかった? 外の世界に、全員」

「何?」

「昔はどうか知らないけど、あの様子じゃ正しい信仰の仕方なんてもう途絶えているし、残ってても従わないよね。外の人を食い物に、自分達だけがぬくぬくと恩恵を受けられる儀式の何処らへんにこっちとの親和性があるのかな? 妖怪に居たよねっ、詳しくないけど! こんな感じで旅人を誘い込んで食べちゃう妖怪!」

「―――名探偵様は、人を殺す為なら尤もらしい理由をつけるのが得意らしいな。いっそ清々しいくらい気色悪いよ」

 俺達の故郷みたいに、ここも皆殺しにされた。千夜さんが生き永らえたのは本当に幸運としか言いようがない。何やら村の中では事情が変わっただのなんだの言っていたが、実際の真意なんて俺にも分からない。こんなに付き合いが長いのに、明衣の本音を悟れた事が……いや、一度もないかもしれない。本音と思っていた事も、一度考え直すだけで本音には思えなくなってくる。

「あ、あの……」

「お前がいい奴なんて千夜さんに勘違いされても困るからハッキリさせておくぞ。答えろ、この人を助けた理由は何だ? 何が狙いなのかそろそろ答えろよ」

「助手は助手なんだから探偵の趣を尊重しないとっ。全員を集めてこの中に犯人が居る! ってやったら、本当か? って聞いてくれるんでしょ? 貴方は私の最高の聞き手なんだからもう少しだけ待ってほしいな! 材料は揃いつつあるから」

「千夜さんは自分の住んでる場所を喪って右も左も分からないままここに来たんだぞっ? 選んだのはこの人の意思だ、助けたのは俺達だ。けど、だからってその後の事を全て了承した事にするのは残酷だ。教える義務があるだろ」

「教えたからって現実は変わらないよ。過去は戻らない。それは貴方も分かってる筈だよね。私達は取り返しのつかない事をしたんだ。それを受け入れた上で今がある。何かを知っていても知らなくても同じなら、知らない方が幸せかもよ?」


「あの!」


 すっかり千夜さんを置き去りに口論をしていた。誰かの為なんて偽っておいて、俺も結局こいつの事が嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで仕方ないだけだ。純粋に彼女の為の行動なんて存在しない。そうと分かっていても―――俺が優先したいのは親切よりも敵意だ。こればかりはもう、どうにもならない。

「お二人の仲が本当によろしいのかそうでないのか私には分かりかねますが、と、とりあえず喧嘩はおやめくださいませ。私を助けて下さった恩人様二人が争っているのは見るに堪えません!」

「争ってなんかないよ千夜ちゃん! これはじゃれ合いっていうか、ケンカップルって言葉は村にある? えっとケンカップルっていうのは―――」

 

 パァン!


 我慢の限界だった。衝動が抑えられず遂に手が出てしまう。明衣は真正面から拳を受け止めると、こちらを見もせずに「ね?」と首をかしげて見せる。

「j名探偵と助手の間には家族よりも恋人よりも強い絆があるんだよっ。箱入り娘の千夜ちゃんには分からないかな! ほら、乃絃も頷いてる!」

「とてもそうは見えないのですが……」

「お前なんかとカップルになった覚えはない。『妹』に婚姻届け渡す方がマシだクソ野郎。周りの奴が勝手に勘違いするのはまだしも、お前本人がその間違いを自分から広めにかかるのは遂に頭がイカれたか? いや、イカれてたな、お前は最初からそういう奴だ。目的不明のの癖に嫌がらせだけは念入りな邪悪の汚泥みたいな存在がお前だ。死ね」

「乃絃君は千夜ちゃんによっぽど優しかったみたいだね。普段からこんな調子だよ? あんまり気にしないで? で、私達の話を遮ったくらいなんだし、言いたい事があるならどうぞ?」

「…………ご、郷矢様の仰る通り、外に出たいと言ったのは私です。それによって何が起こったのかも理解しています。ですがその…………こ、これからどうすればいいのかは分からなくて」

 現時点におけるもっとも切実な悩みを聞き、俺の怒りは急速に冷えた。それはその通りで、ここから連れ出す以上の事は何も相談していないし、相談していないだけで決まっているとかそのような事実もない。


 これ、誘拐になったりするのだろうか。

 

 冷静に考えてやっている事が犯罪だ。明衣が傍に居るので警察が咎めてくる事はないだろうが、逮捕以上に解決しなければならない事が山積みだ。

「千夜さん。戸籍ってありますか?」

「こ、戸籍とは?」

「え?」

「ないよー」

 どこかから耳の腐りそうな間抜けな声が聞こえてくる。

「戸籍というのは身分関係を記録した書類で」

「だからないってば」

「お前に聞いてないんだよ」

「助手、仮にもこの名探偵の背中を見てるんだから少しは推理してみなよ。国があんな因習を許してると思うの? 戸籍があったら、ここの存在を把握してるって事にならない?」

「お前という存在を許してる時点で国も警察も信用ならない。大体陛太が学校通ってただろ。国が把握してなかったらアイツはどうなる? 学校に通える訳ないだろ」

「それについては後々調査しないとね。ふふ、当ててあげる♪ 正規の手続きを踏んで千夜ちゃんを貴方の家に居候させる気でしょ? だからそういうの気にしちゃうんだよね」

「郷矢様?」

「…………元々お前の助けなんかなくても助けるつもりだったんだ。辛い選択をしたならその後庇うのは俺の役目だろ」

 幸い、うちには既に『妹』が居る。誰かに教える義理もないが、遥とは血の繋がりも無ければ両親の内どちらかの連れ子でもない。それでも俺は彼女を兄妹だと認識している。『遥』を初めて家に連れてきた時、両親が温かく迎えてくれたのを覚えている。今更一人も二人も変わらないなんて図々しい事は言いたくないが、受け入れやすい土壌があるのは事実だ。

 それに千夜さんが居れば、『遥』は俺と喋らなくて済むようになる。

 俺の近くに居ればいつか不幸になるから。

 少しでも離れられるような土壌を作っておかないと。

「ほうら、助手は優しいんだよね。うん、受け入れるのは勝手にしたらいいと思うよ。でも……もしおかしな事に気が付いたらすぐ連絡してね? 私の推理はまだ終わってなんかないからさ。という訳でかえろっか!」

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