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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
1st Deduct イジメはペケ
9/97

怖気の探偵助手

「お、透歌。そんな所で待ってたか」

 一人ぼっちと思われた後輩は見覚えのない男子を連れて俺達の到着を待っていた。雨は自転車置き場の屋根で凌いでおり、その効果は傘なんぞより余程感じられる。

「……いや、悪いな。遅刻したつもりは全くないけど、本当はもう少し早く着くつもりだった。先輩として申し訳なく思う」

「あ、はい。あの、それはいいんですけど。絶対もっと言うべき事があると思います」

「ん……」

 視線を動かして、ああ、と納得する。確かにその通りだが、しかし開口一番に謝罪しなければ誠意を感じられないのも事実だ。ついでの様に謝るのは人生の先達として如何か。

「悪い。じゃあ改めて言わせてもらう」

「はい」


「隣の子は誰だ?」


「あ、そっち……」

 そっちも何も、一つだろう。俺も明衣もこんな男子を呼びつけた覚えはないし関わった記憶もない。だから悪戯に犠牲者を増やす様な真似はやめてほしい。俺はこの男子も出来れば生存させないといけなくなってしまった。

「ちーがーいーまーす! 郷矢先輩、どうして彩霧先輩を抱っこしてるんですか!」

「え? 色々と訳ありでな。明衣、濡れなかったか? 傘ちゃんと持ってたよな?」

「うん。持ってたよ。乃絃って口は悪いけど優しく持ってくれるんだね。あと少し道のりが長かったら眠ってたよ?」

「じゃあそのまま永遠の眠りについてくれ。投げ捨てるから」

「素直じゃないんだから。はい、じゃあお礼のキスでも」

 ぱっと手を降ろすと、気を抜いていた明衣が落下。尻餅をついてほしかったが普通に両足からの茶着地が間に合って、何事もなく探偵は再起動した。キスなんて冗談じゃない。今のは条件反射で手を離したのだ。何せコイツの唇は触れた個所から腐らせる事に定評がある。

「それで、貴方は?」

「俺は透歌の付き人です。蛹山唯戸さなぎやまゆいと。一人じゃ心細いって言うから……だから気にしないで下さい」

 右手をポケットに突っ込んで不安定な立ち方をする後輩は、明衣の事を知らないようだ。白髪に見惚れたかと思うとついでその面の良さを透歌を比較に実感して、最後に自己主張の強い丘陵を見て、目を瞬かせていた。

 また哀れな犠牲者候補が一人…………

「そっか。唯戸君、タダで引き受けたの?」

「え、そりゃあ……」

「蛹山君。そいつは隠し事を暴きたくなる最悪の奴だから、嘘を吐いてるならすぐに自白した方が良いぞ。これは先輩としてガチの警告をしている。従うかどうかは自由にしてくれ」

「…………?」

 口は新たな犠牲者候補に向けて、視線のみを長ヶ良透歌へ。明衣の本性を聞かせたからだろう、不安な素振りを隠せず、後ろ手を組んでゆらゆらと身体を動かしていた。途中で目が合うと、必ず逸らしてくる。

「いや、すみません。恥ずかしかったんで言わなかったです。今日付き人してくれたら付き合ってくれるって言うから」

「え、そんな交際って簡単なものなの?」

「人それぞれだな。お化けの検証しに行くんだから身体払ってでも用心棒が欲しい気持ちは理解するよ。唯戸君は空手部か何かか?」

「あ、俺は手芸部ですよ」

「何しに来たんだてめえ帰れ!」

「助手! そんな言い方しないの。私は何人でも歓迎だよ。じゃあ早速学校の中に入りたいんだけど……実は入る準備をしてないんだよね。助手が何とかしてくれるって私は信じてるんだけど……どう? 何か思いついた?」

「入るだけなら幾らでもあるけどな。一番怒られないで済む方法はどうしたもんか……まずは馬鹿正直に昇降口に向かおう。誰か今回の事とは無関係に遊びに来てるかもしれない」

 そんな治安の悪い偶然に期待して、俺は一足早く昇降口へ。一応先頭を買って出る事で何かあっても後輩二人を守れるようにという配慮だ。あまりにも慈悲深い先輩力に自分でも思わず感動してしまう。

 何でも良いから言う事を聞いてほしい。俺だって死なせたくないのだから。

「おお」

「どうしたの?」

「開いてる。まるで期待してなかったけどもう誰か中に来てるみたいだな。透歌、もしくは唯戸君。どちらかが呼びこんだ可能性は?」

「ない……と思います」

「俺もないです。あーでもこの学校って古くて警備システムとかも緩いから簡単に忍び込めるから、外でアンナコトしたい時にばっちりみたいな話ありませんでしたっけ」

「知らん。何だそのグレーな話は。二年生なら俺が知らないなんて変な噂だ」

「制服を着ていられる間は僅かだから思い出作りって事だね。納得した」

「するなよ。警察に捕まらないからって自由かお前。大体する相手もいないのに納得って寂しいぞ」

 明衣が無機質な視線をじっと俺に浴びせかけてくる。華麗なる無視を決め込むとこれ見よがしに胸を揺らしながら更に近づいてきて。また見つめて来た。

「ええい、俺を当てにするな! 助手の仕事は推理の手助け! 断じて名探偵様の性欲処理じゃございません! 大体探偵気取ってるけど開業してる訳でもないし、それで社会に貢献出来た試しもない! いいか、お前は素人だ! 名探偵? 馬鹿じゃねえの! モグリの推理上手が!」

「ご、郷矢先輩。声が大きいですよ。誰かいるなら気づかれるかも……!」

「所でモグリの推理上手って何ですか?」

「多分処女の床上手から来てると思うんだけど。でも推理って別に探偵やってなくても上手い人は上手いから微妙に意味が通らな」

「分析するな、腹立つから」

 明衣が妙な事を言うせいでまだ学校に入ってもないのに疲れた。ここらで状況を整理しておくと、学校には誰か居る。複数人か単独かは分からないがそれは確実だ。そしてそれが『ぼっとん花子』と関係している可能性は低い。


 ―――遭遇したくないな。


 明衣から守るべき人物が増えるなんて考えただけで悍ましい。もう手が回らない。見殺しにしてほしいと言われたら喜んで手は出さないが、そうでないなら基本的には助ける方針だ。お願いだからエッチな目的で潜入しているなら教室か何処かで盛っておいてくれないか。トイレではなく。

 集中すると目を閉じる癖がある。視線を降ろすと、明衣は俺の指を使って勝手に指切りしていた。

「……………………やめろ」

「あ、起きた」

「寝てはねえよ。ちょっと状況を整理してただけだ。でも運が良かったな。これで誰かが侵入した事が明らかになっても怒られずに済む。そいつらのせいにしよう」

「因みに郷矢先輩、もし閉まってたらどうやって開けるつもりだったんですか?」

「鍵を破る。自称名探偵の助手をやるとな、勝手にスキルを押し付けられるんだよ。なんで、この程度の鍵だったら開けられる。古い鍵だしな」

 だが鍵破りの痕跡は残るだろうから、もしかするとそれがどうにかなって俺に辿り着く可能性がある。それすら気にしなくていいのは朗報だ。

「え、じゃあ鍵が新しかったらどうするんすか?」





「普通に割るけど」





 道徳に明衣は代えられない。






 

 













 夜の学校の薄気味悪さを手伝っているのは間違いなく消火栓の赤い光と非常口の緑色の光だ。これのせいでただ薄暗いだけの景色にやや非現実的な色が加わって、まるで別世界に来た錯覚を覚える。ライトを誰も持ってきていなかったので携帯で代用、目的地は一つだ。学校全体を探すつもりはない。『ぼっとん花子』が居るのかどうか。まずはそれを確かめたい。

 四人でまとまって歩いていると、ただでさえ老朽化の著しい廊下が一層激しい軋みを上げてわざわざ俺達の居場所を教えてくれる。普段はなんて事ないが、こう中途半端に暗いと不安だ。照らしているのは正面であり、足元は全く見てすらいない。もし急に穴が空いたとしても気づかず落ちていくだろう。そしてその先に……地面があればいいが。

「女子トイレの怪談だから明衣か透歌のどちらかに調べてもらいたいな」

「え、こんな時に性別で括るのはナンセンスだよ。どうせ誰も入ってないのに」

「再現を試みるならまずは定石に則るべきだ。女子トイレには女子が入る」

「わ、私は嫌です! こんな怖い所……」

「透歌ちゃん! じゃーんけーんぽん!」

「え、え、あ―――!」

 一方的なジャンケンの結果、パーを出していた明衣が勝利した。俺に泣きついていた後輩を引きはがすと女子トイレに笑顔で押し込もうとする光景は狂気である。用心棒として連れられてきた唯戸君は何の役にも立たない。

 だから手芸部は帰れと言ったんだ。

 無能な用心棒に早い内に見切りをつけたのか、透歌も俺に向かって手を伸ばしている。


「―――待て待て明衣。分かった。こうしよう。透歌には入ってもらうが、一度みんなでトイレの中に入ろうか。それで、出る時に置いていく。それでどうだ? 透歌?」

「う、うう……………………せ、先輩。絶対助けてくださいね…………」

「直ぐに駆け付けられる場所には居とく」

 女子トイレの中に入ると心がざわつくのは心霊的なモノだろうか。いいえ、単に罪悪感や後ろめたさがあるからです。誰も居ないのはそうだが、変態っぽい。

「個室トイレに物を入れると叫び声が聞こえるらしい。一人になった後、試してくれ。いいな?」

「乃絃君。外に出てよー」

「……そんな訳だ。居なきゃ居ないでいい。頼んだぞ」

 明衣の言葉を無視したくても出来ないのは辛い所だ。半端に透歌と明衣に物理的距離が生まれたら、移動過程でNGを踏んで死亡する可能性がある。具体的な範囲や条件が分からない以上、警戒し過ぎて損はない。

 そういう警戒を明衣は見破ってくるのだが、何年も付き従ってきたのだから疑いなんて持っていないと信じたい。

 外に出て、ある程度の距離を取った。明衣は俺の手を握って教室の向こうに引っ張り込むと、上半身を廊下に出して様子を見ている。

「郷矢先輩って、あの人の彼氏ですか?」

「違う。殺すぞ君」

「えー絶対嘘ですよ。揉んだ感想とか聞きたいだけなのに。あ、それとも本人の前じゃ言い辛いですかね」

「深夜テンションもいい加減にしろよ……でもそうか。君は交際を条件に来たんだったな。考え方の根幹が下半身にあっても仕方ないか。悪かった」

「…………えーと、あれ? 馬鹿にされましたかね?」











「「ィゃあああああああああああああああああああ!」」

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