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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
4rd Deduct 千夜一明の可惜夜

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白の誘引

「鯨次郎が殺された!」

 翌日そんな騒ぎもあったが、俺達には全く関係のない話だ。明衣も事件性がない死には興味がないのか、出張る様子もない。それなら探偵助手である俺には尚の事出る幕はない。ただし夜帳さんの方は呼び出しを受けたので少々暇になった。

「やっぱり乃絃君の傍の方が私は落ち着くなあ。村の規則だから守るんだけどね、やっぱり私の事を分かってくれる人がいるってだけで心から安心するっていうか……」

「俺は夜帳さんの傍に居た方が落ち着くよ。お前の顔を視なくて済むと思ったら嬉しかったのに、変なトラブルだ。調べないのか?」

 接触が禁止なのではなく、別れて生活する事が規則。その微妙な制限に何の意味があるかは分からないが、初日がおかしかっただけで明衣が部屋を訪ねてくる事は想像に難くなかった。夜帳さんが居るなら追い返したかったが……今は条件を守れるので丁度いい。

 明衣は部屋のみすぼらしさを珍しがりつつも、俺の疑問に頭を振った。

「うーん、あんまりかな。だって因習があるんでしょ? 場合によっては殺人が許可される事もある村……今は何かとても重要な祭事を控えてるし、人が死んでも不思議はないんじゃない? こういう時は大抵お化けよりも人の悪意が動いてる事の方が多い。貴方も悪意の事は良く分かってるでしょ?」

「…………お前の事だな」

「ふふふ、確かにそうかもね。探偵は犯人にとっては悪意の塊だよ、だって解き明かそうとするんだから! 人が一生懸命隠そうとしてるのをどうして見破るんだって感じ?」

 村に入ってから明衣はずっと機嫌が良さそうだ。見てる限りはそう思う。何か起きるのを期待しているからだと最初は思ったが、殺人に興味がないとなると、もっと大物―――もとい大事を狙っているのだろうか。

「そういや、陛太の方も呼び出しか?」

「うん。陛太君が居たらこっちには来られなかったかもね。彼、私を乃絃君の傍に行かせたくないみたい! ちょっと気になる態度だよね、私と助手が揃ったら完全無欠ってのを知ってるのかも!?」

「いや、違うと思う」

 単に明衣の事が好きだから、俺に近づかせたくないだけだと思う。引き取ってくれるならその方が有難い。そう言いたいが、中々事情は複雑だ。アイツ如きに明衣を制御できるとは到底思わないし、明衣に放れられるとNGを安全に守る方法がなくなる。だがそれよりも何よりも一番の問題はアイツの命を誰も保証出来なくなるという事だ。これは決して優しさじゃない。


 俺が生きていられるのは探偵助手だからだ。


これは何度でも言おう。何せ事実十割だ。見ず知らずの人間だったならとっくに命はない。陛太の事なんて死ぬほどどうでもいいが、だからって死んでほしいとも思わない。彼はタダ明衣が好きなだけの、死ぬほど趣味が悪い男だ。

「アイツはお前が好きなだけだ。自分でも分かってるだろうに。さっさと振ってやれよ。それがアイツの為だぞ」

「振る……? 確かに私が好きなのは貴方だけど、それはまだダメだよ。彼は依頼主で情報提供者、それにこの村の関係者なんだから。まだこの村で何が起きるのかも観測してないのに見限るなんて。それとも嫉妬してるの? 思わせぶりもしてないのに」

 明衣は嬉しそうに俺の背後から肩に顎を乗せると、懐いた動物みたいにすりすりと頭を擦り付ける。

「推理以外では余計な事ばっかり喋るなお前は。入る時にあんなもの渡してきたのはどういうつもりだ? 役立つとでも?」

「役立つよ。これは勘だけどね。探偵の勘と女性の勘ってどっちが当たるのかな? 合算したら未来が読めたりして!」

 いい加減に鬱陶しいので追い払おうとすると器用に躱され逆に床へと押し倒されてしまう。今更気づいたが明衣も衣装を制服から真っ白い着物に着替えていた。あまり抵抗感はなさそうだ。似合ってるなんて思わないが、制服よりは懐かしみを感じる。

「乃絃君の方はどう? 私が一緒にいなくて寂しくない? ね、今はなんだか騒がしいし少しだけまた二人で調査しようよ。どうせ私達関係ないから、いつ終わるかは予想出来ないけどね」

「調査は構わないが、怪しい場所なんてあったか? 神社は多分……無理やり入らなくても入れそうだけど。どうも祭りで重要な役目がありそうだからな」

「それは思った! でも怪しい場所といえばあるでしょ? ほら、あの小島! 乃絃君、近くに行ったよね!」

「あー」

 確かに怪しい場所ではある。心を盗まれたかなんだったか、色々言われていたが水と建物の両方で立ち入りを禁じる程厳重だ。夜帷さんは俺の後押しがなかったら近づかなかったろうし、手前の湖でこそ遊ぶ子供は居たが、あそこに行こうとする人間は一人も居なかった。部外者たる俺達を除けば全員から禁足地として知られている場所。

「……行くのはいいが、どうやって行く? 舟を使えば目立つぞ。まあ普通に泳いでも目立つけど」

「それが問題なんだよねえ。夜にこっそりやればいいんだろうけど、お互い世話役の人がいるでしょ。あれはね監視役だと思うんだよね。おかしな事をしないように、何もしないまま祭事に参加してもらうように。殺人は起こりうる事だろうけど、予定はされてなかったんじゃないかな。容認と無法は違うからね」

「……となると殺人は俺達を参加させたくない誰かの妨害とか?」

「それはどうだろう。私達が来ようと来まいとやってたかもよ。例えば陛太君の帰還に合わせたとかね」

 明衣は俺の身体の上で手書きの地図を広げると、共有する為に降りてくれた。机の上に改めて広げてくれるようなので、中身を確かめる。

「昨夜沢山歩いて頭の中で作った地図なんだけど、これがこの村の全体図。怪しい場所はさっき言ったくらいしかないけど、地下の方からずっと人の声が聞こえるんだよね。凄いうるさくて、眠るのも一苦労だった」

「よく聞こえるなそんなの」

「地下といってもそんな深いところにはなさそうだし、褒めても何も出ないよ! うふふ、地下は何処から行くんだろうね。屋敷の中にはパッと見なかったから……何処かにはあると思うけど。ね、貴方は何処が怪しいと思う? 私、そこを調べに行く! 助手は屋敷の方で足止めお願いね!」

「……なんで俺が指示をしないといけないんだ?」




「助手の育成も探偵の役目っ! なんてね、たまには言う事を聞いてみたいだけ! 命令して、欲しいな!」


























「わ、私は何もしておりません!」

「ふーん。本当? 何にもしらないの?」

 足止め……そんな名目で明衣を自由にするのは気が進まなかったが早く行動しないとNGを守れないかもしれない。そう思ったら足が動いていた。そして屋敷に入ってすぐ、親戚一同から詰められる夜帳さんを発見した。

「何をしてるんですか?」

「部外者は黙ってなさいよ。関係ないのは明らかなんだから」

「そんな事言うなら俺の視界内で揉め事を起こさないでください。不愉快という一点で十分関係がありますよ。まさかとは思いますが、今朝の殺人で夜帳さんが疑われてるんですか?」

「ご、郷矢様。ここは全員夜帳でございます……」

「じゃあ千夜さんで。彼女はずっと俺の世話をしてくれてました。殺人の容疑者なんておかしいですね」

「だから、部外者は黙ってもてなされてればいいの! 関わらないで!」

「そうだそうだ、余所者が首を突っ込むな!」

「トラブルに首を突っ込むななんて規則はないでしょうに。無関係で如何にも立場の弱そうな人を総出でいじめるのが規則ですか? 俺は全くそう思わないので庇います」

 夜帳さんの前に割り込むように立つと、数的不利を嗤うように俺は親指を立てたまま下に向けた。





「証拠があるなら結構。でもないんでしょう。だからそうやって圧力をかける。嫌いですね。この場にいる全員、地獄に堕ちろって思います」








 ひとりぼっちをいじめる奴なんて死ねばいい。

 こっちは生きるのに必死なだけだ。何もしていないのに、どうしてそんな酷い事が出来る。

「疑うなら証拠を。それが出来なきゃお開きにしましょう。さ、証拠。証拠を出してください。今すぐ! 出せ! 出してみろよ!」

 

 

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