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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
4rd Deduct 千夜一明の可惜夜

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79/98

因果なる習わしや

「なんと! また相談が来ちゃいました!」

「いや、俺が持ってきたんだけど」

「ぬふふ~ありがとね乃絃君! 素晴らしい助手を持って私は幸せだよ!」

 目に涙を湛える勢いで喜ぶ探偵の顔なんて見たくなかったが、割れ鍋に綴じ蓋というか、こんなクソゴミアホカスの擬人化みたいな女にどうにか振り向いてもらおうと考える奴もまた等しく頭のおかしい奴である。

「なあ、俺はいつ喋ればいいんだ?」

「悪いがこいつの一人芝居が盛り下がるまで待ってくれ。口を挟むな、ややこしくなるから」

 きっかけは朱砂野真千子のストーカー騒動を解決した事だ。後出しの結果論に過ぎないが相談箱に手紙が沢山入らないのは単純に実績がなかったから? 俺はてっきりこんな地雷原とも呼べない、常に爆破し続けている危険地帯に突っ込もうとする馬鹿はいないぜあっはっはと嘲笑されているとばかり思っていたのに。

 ともかく、相談が来てしまった。しかもコイツの目的は悩みがあるから解決したいのではなく、明衣の彼氏になりたいからだ。この時点で頭の病気か死にたがりか、もしくは救いようのないアホで、人間は内面よりも見た目が至上であり、たとえそいつが平然と人を殺したり犯罪を犯す事が出来てもとりあえずそんな事はどうでもよくて、ただ顔が良いから付き合いたくて。だから俺に協力してほしいと頼む。

 俺を彼氏と誤解しないのは大いに結構だが、ここまで愚かな人間ならいっそ勘違いしてくれた方がまだ救いようがあった。こんな奴は死んでもいいなんて言えないのが辛い所だ。明衣くらい腐り果てた犯罪者ならまだしも、ただ目の前の人間すら正確に量れない人間にはまだ生きる価値がある。

 俺はやめろと言った。アイツの所業を出来る限り説明したのに、それでも付き合いたいとかぬかしやがった。それどころかむしろ人を殺せるなら喜んでくれるのだろうかなどと画策し始めて手が付けられない。誰かコイツを逮捕した方が良い。親切心から通報しようとした俺を制するが如く相談に来てしまったので全ては後の祭り。相談者を逮捕しようなんて明衣が許さない。

 大体人を殺せるなら喜ぶなんて一体全体こいつは明衣の何を知っていると言うのだ。何も知らないからそんな事が言える。こいつが興味を示しているのは殺人ではなくて探偵っぽい事が出来る謎と人類最大の暗黙でありブラックボックスであるNGだ。人が死ぬ事を何とも思っていないし解明の為なら平然と殺す事を選べるが、殺す事は何とも思っていない。本当に心の底から明衣を理解し、寄り添い、心から愛する事が出来ると誓えるなら俺も馬鹿にせず一肌脱いでやろうという気にもなるが、この程度の理解なら交際なんてとんと無理だ。

「私が一人芝居なんていつしたの? あ、それともやってほしいとか! はいこちら、新しい相談者の間野陛太君です! クラスの皆からは陛下って呼ばれてますっ」

「呼ばれてないけどな。お前が一回聞き間違えただけ」

「あれ、そうなの? じゃあいいや。そろそろ何を相談しに来たのか聞かせてもらいましょう」

「………………もういいぞ」

「あ、お、オッケー。なあ彩霧さん。人を殺すのは良くない事だよな」

「うん、犯罪だからね」

「もし人を殺す事が場合によっては許可されてる事があったらやばくないか?」

「うんうん。やばいね」

「なんだこの話の流れ。場合によってはって明衣は許可もクソもなくやってるが。取り締まれよ警察」

「実は…………その、俺の実家は山奥にあるんだけど、そこが正にそんな感じなんだ。帰ってこいって呼ばれててさ。俺は……行かなきゃいけない。学校のスケジュールなんか無視してでも。そういうしきたりなんだよ。でも、その時何人か連れてきてもいい事になってるんだ。彩霧さん、俺の帰郷に付き合ってくれないか? 乃絃もついでに」

「ん? 殺人を勝手に容認してるのか?」

「そう!」

「淫祀邪教が根強く残ってるって事!?」

「そう!」




「事件が私を呼んでる!」




 因みに一応休み時間だったが、とっくに過ぎて教科担任もやってきている。だがそんな事とは無関係に明衣は盛り上がっていた。またとんでもない話を持ち込んでしまって。確かに好感触な相談だが、出鱈目は良くない。今時そんな場所は…………

「乃絃君! まるで私達の故郷みたいだね!」

「一緒にすんなよ。誰が因習村出身だ。変な習わしはあったがそれだけで勝手に因習扱いしてやるな。お前がおかしいのはお前のせい、俺が不幸なのもお前のせいで、あんのクソ田舎が悪い訳じゃない」

「そんな事言わずに、行こっ! 確かめてみないと! 事件が私を呼んでるんだから!」

「人の話を聞けよ。はあ、もういいや。じゃあ次の休みにするか」

「それはお前が決める事じゃなくて、うちの当主様が決める事なんだよなー」

「は?」

 明衣みたいに勝手な奴は世界に何人いるのだ。将来は自分勝手が極まる傲慢な奴を蹴り飛ばす仕事に就職したい。


 ―――クソがよ。


 出鱈目で恐らく遠出させられるこっちの身にもなれと。出鱈目じゃなかったらそこは大変クソな場所で、明衣が盛り上がる事間違いなし。どっちにしても非常に迷惑。その内白髪が生えたら早めに染めよう。明衣と同じようになるのだけは嫌だ。





















「だからって当日なのかよ」

「急いては事を仕損じるけど、これは急いで正解だよね! だって電車の乗り換えが必要なんでしょ?」

「ああ。つーか放課後くらいに出ないと夜までに間に合わねえし、最後の駅から二時間くらい歩くぞ」

「…………どんだけ遠くの山奥を目指す気だよ。やっぱり俺達の故郷と一緒にするな、お前は」

 遠足気分か修学旅行か、何でもいいが明衣は窓の景色を見て興奮を隠しきれない様子。まだそんな遠くには行っていないが、駅弁があったら食べる勢いだ。こうなったコイツはもう遊び盛りの犬か何かとそんな変わらないので手を繋いで何処かへ行かないように監視している。陛太の村に関してはもうどうでもいいが、他の場所に迷惑をかけたくない。

「お前、定期的に帰ってたっけか。俺の記憶だとそんな事はないんだが」

「違うクラスだし知らないだろうが」

「いや分かるだろ。不自然な休み取る奴なんて話題になるわ。明衣が興味を持たない訳もないから、まるで示し合わせたように帰り始めたように見える、当主様だなんだと言って、別に逆らえない訳じゃなさそうだな」

「あー……まあ俺が居ても居なくても変わらないのは確かだよ。でもま、帰った方が印象がいいっつーかな。帰れるなら帰った方が良いよなって。いつか無理やり連れ戻しに来られたらいやだしよお」

「そんな滅茶苦茶な村への帰郷を明衣へのお近づきの印に差し出すなんて肝が据わりすぎだろ。アイツの事が好きなんてマジで言ってるんだな」

 間野陛太は胸の前で掌で筒を作ると、それが前に飛び出すようなジェスチャーを取った。本人の目の前では言いにくい、という事だろうか。明衣は全く気にしないけど。

「…………大きいのが好きなら俺が頑張って探すからコイツについては諦めてくれないか?」

「うちの学年に居ないだろ。知ってるぞ流石に!」

「…………じゃあこいつより顔が良い奴は…………いないな。髪が黒い奴なら沢山いる。そっちで妥協するつもりはないか?」

「ねえ!」

 駄目だこりゃ。明衣は眼鏡(度は入っていないので単なるオシャレだ)を掛けると、俺の方を向いて窓の外の景色を指さす。

「景色が段々緑化されていくのを見ると、遠くに行ってるって感じがするよねっ」

「元々言う程都会でもないけどな。遠くに行ってるというより故郷に戻ってる気がするよ」

「あ、確かにあそこも平地だったね! 高い場所は全然なくて、何処もかしこも家は老朽化が激しくて、神社は汚れてて、森だけが瑞々しかった。でも流石に山奥とは全然違うよ。人を殺す事が容認されてるって一体どんな治世をすれば成立するんだろ。気になる!」

 治世なんて大袈裟な表現だが、法律を無視しているという意味ではそこはもう別世界だ。人殺しの成立する世界が平和に生きられているとはとても思えない。丁度、明衣の傍に居る俺が全く平和に過ごせていないように。

 どちらも平和を乱す存在なら相性はいいかと言われたら、さて読めない。表面上は法律を順守しているような素振りを見せる彼女からその体裁すら取り上げたらどんな行動をするだろう。ろくでもない事になるのは分かるが、細かい挙動の予想は難しい。

「彩霧さんと乃絃の居た所も因習があったのか?」

「一緒にするなって言ってんだ。ちょっと変わった習わしがあっただけで人は死んでないし、むしろ感謝する人が沢山いたよ。外からな」

「閉塞的ではなかったよね。沢山の人が来てたし、沢山の人が来るから乃絃君もよく入り浸ってた! ね?」





 ……………………やはり、バレてる?

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