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冥府魔道の君はNG  作者: 氷雨 ユータ
3rd Deduct オニナキの夜

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女か男かそれとも愛か、かがみよかがみかがみさん。世界で一番罪深い人はだあれ?

 体育館に戻ってきた。トレンチコートの怪人は体育館の外側から俺達を追跡するように動いている。

「あいつは、体育館の中に入ってこないのか? でも入ってきた痕跡を俺達は見つけた筈だ」

「呪いは根付くよ。前からあんなのが居たなら七不思議にでもなってると思うのは自然な流れだけど、よく考えてみてよ。学校の七不思議。ここじゃなくて、一般的なのでいいけど」

「……廊下とか屋上とか音楽室とか理科室とか、トイレとか踊り場の鏡とか? 後は校庭、校長室、保健室……思いついたのはそれくらいだけど」

「大事なのはそこに人通りがあったかなかったかだよ。この手の話題をすると対抗で出てくるのが誰も使ってない旧校舎の話だけど、旧とだけあって昔は使われてたよね。もう分かった? 怪異が出る場所は例外なく人と接点があるの。それも、かなり」

「そう、だな。順序で言えば人と関わりがある場所に噂が生まれて、嘘にしろ本当にしろあそこには近づくなって言われてそこが曰く付きスポットになるって感じだろうよ。最初から近づくなって言われてたら真実も分からないし、牛の首みたいになる」

「そうだねっ。で、話を戻すけど、体育館の外周って人が寄り付くと思う? あんな雑草しかないのに。告白をこっそりするだけならもっと幾らでもいい場所あるよね。夏なんか虫とか沢山いて告白どころじゃないと思うし。そもそもここを侵入ルートに選んだって事は普段から人が来てない証明でもある。見えてるってだけ。その見えてるってのも遮蔽物がないって意味で、人間は意識外の事柄にはたとえ実際は見える状況でも見逃す事が多い。練習中に外の道路を誰が通ったなんて分からないよね」

「…………つまりあれだな。お前が言いたいのは、噂や曰くにならない程人通りが皆無だったから誰かがここを侵入ルートに選んだ。噂や曰くにならない程人通りが皆無だった事と怪異の有無はイコールではないと」

「そう!」

 人通りがないので噂にならなかっただけで、実際には過去に何かあってその場所に祠モドキの何かが立てられている……それが明衣の推理だ。雨に濡れる当人は肯定も否定もしないが、過去に何もなければあんな物が積み上げられたりはしないか。

「話を戻すね。呪いは根付くって所。呪いっていうのはさ、子々孫々にも通じてしまうような強力な概念なんだよ。末代まで祟るとかって言うでしょ。あの怪異もその類なんだと私は思ってる。そしてそんな怪異にいざ付け狙われたら……そいつがしつこくない保証なんて誰がしてくれるの?」

「…………つまり体育館に入ってきたのは、呪いの対象者が居たから? 犯人は女子バスケ部って事か?」

「それだったら、真千子ちゃんが今頃無事じゃ済んでないよ。でも近いね。真千子ちゃんの関係者…………そう、私が現在生き埋めにしてる岩垣先輩なら?」

「ちょっと待て。筋は通ってるが、アイツらはそもそも『かがみしめし」を試しに行ったから呪われたんじゃなかったか? それとこれと関係は―――」

 いや?

 よくよく考えたら順序がハッキリしていないだけだ。ただ学校探索に乗り切った時と真千子と岩垣の証言から、偽物の真千子と岩垣が存在するという話になって、きっかけがあるとすれば『かがみしめし』だろうという流れだっただけ。時系列も因果関係も判明していないが……ただ一つ、この瞬間は違う。

 状況が保存されているなら。正にこの雨の降った校舎は過去の時間軸であり、それに相応しい証拠も残っているのではないだろうか。

 バスケ部が普段使っている更衣室に足を運んでみる。男として多少抵抗はあったが使っている人物がいないので一先ずそんな場合ではない。

「盗撮写真はどう説明する? 確かあの写真の角度だと―――あった。空気の抜けたバスケットボールが被さってるな。カメラも黒っぽいし、意識してないと気づかないか」



「さあここで、問題の写真を見てみましょうのコーナー!」



「どうしたんだよ」

「雨って音が通りやすいから!」

 理由とは言えないような理由で話を切って、明衣は懐に持っていた盗撮写真を取り出した。誰がこれを俺達に渡そうとしたのかも気になるが、肝心なのはカメラを設置した犯人だ。意識外の場所なんてここを使用してないと分からないけど。

「…………おい。この子、こっち見てないか? この真ん中の、青い下着の子」

「うん、顔はそっぽ向いてるけど目だけがこっち向いてるね。まるでこっち気づいてるみたい! この子についてちょこっと調べてたんだけどさ、どうも岩垣先輩と付き合ってたみたいだよ?」

「……それは、真千子の前って意味か?」

「うん、そうだろうね。だって真千子ちゃんの愚痴言ってたもん。ずうっと悪口をね。乃絃君に鞍替えしようとしてるとかそんな話」

「鞍替え……岩垣先輩もそんな勘違いをしてたな。鞍替えも何も交際はしてないが」

「だから、このトラブルをきっかけに近づこうとしてるんじゃないかって考えてるんだよ。ほら、真知子ちゃんと一緒に帰ってるでしょ? それは貴方からじゃなくて頼まれた身体よね。そういう行動の積み重ねが疑念を生んだ」

 その真千子は単に怖くて俺を頼ってきただけだからとんだすれ違いだが、筋は通る。岩垣先輩のあの激昂ぶりからして真千子の事は相当入れ込んでいただろうし、真千子も押し切られてつい了承したと言っていた。用済みになった……言い方は悪いが妥協彼女だったなら捨てられるのは当然だ。盗撮を助けたのが彼女なら盗撮を実行に移したのは岩垣先輩という事になる。盗撮写真には真千子もきちんと映っているから、目当ては彼女の下着姿だったのかもしれない。

 入る必要性は全くないと言いたいが、バスケ部だって用事もないのに体育館へは行けない。ここでは状況が保存されているだけで実際は練習中だったのではないだろうか。だから彼女が席を外せるのは一瞬で、侵入してから設置までは岩垣先輩が行うしかなかった……。

「……岩垣先輩が犯人だと考えた場合、関係者はこの女子って事になる。そこで突っ立ってるトレンチコートの怪物に目をつけられてるのは真千子じゃなくてその二人? おい話がややこしくなってきたぞ。じゃあ『かがみしめし』は無関係だったのか?」

「少なくともこの一件ではそうだよね」

 


 俺達が勝手に話をややこしくしていただけ、とも言うが。


 

 あれだけ動き回っていて『かがみしめし』は無関係とか、何の冗談だ。骨折り損にもほどがある。

「あーとりあえず整理するか。犯人はそこのフェンスを飛び越えて侵入し、バスケ部内の協力者に侵入の手助けをしてもらってカメラを設置。その後どうにかして盗撮写真を手に入れた」

「その時たまたま崩しちゃった祠には実は怪異が居て、今まで人が来なかったから落ち着いてただけのアレは怒りだして犯人を捜してる。侵入を助けちゃった子も関係者として認められたから体育館の中にもちょくちょく侵入してくる。多分ね、あの怪異は待ち伏せしてるんだよ。もう一度犯人が来たらその時に……さ」

 だが写真は手に入れたし、そもそも本命である真千子を手に入れた事で犯人―――岩垣が足を運ぶ事はなくなったので、度々ここから出現しては消えていくだけの不審者になってしまったと。


 ………………。


 ………………。



 …………。


 守ってやる義理がない。

 どうやって推理を誤認させようかと思ったが、明衣は俺をついていかせる為にわざわざ順序だてているだけで随分前から気づいていた。今更ミスリードなんて通用すると思わないし、本当に原因がそれだったら盗撮を企んだ彼の自業自得だ。そういう背徳的な行為はプレイに留めておかないと大変な事になる。

 多くは警察の厄介として、今回は怪異の恨みを買った。

 呪いは根付く。怪異は三か月以上も怒りを燻ぶらせて待っている。今は無害でもいつ有害になるか分からない。鎮めようとするなら……まさに、古来の様式が必要か。

「……まさかお前、その為に棺桶に入れたのか?」





「いーや全然。でもなんとなく、長生きはしなさそうな気はしてたよ。さあて、ここまでは全部証拠から流れを作る推理っ。正解か不正解かは、ご本人様に確認してもらいましょー!」





 













 生贄。

 供物。

 何でもいいが、非常に元気がよろしい。生き埋めにされていたとは思えない。

「い、嫌だあああああ! 出して……出してくれ……暗い! やめろ! 監禁だ! 犯罪だ!」

 棺桶の扉を叩く音がする。だが入り口は釘打ちされており、自力で開けるのは不可能ではないだろうか。火葬するつもりもなければ土葬するつもりもない鉄の棺桶は降りしきる雨の中ズルズルと引きまわされて学校に連れていかれる。

「はいはーい。話は処で聞きますからねー」

「処刑の処とか口語で分かんねえよ」

「助手が分かったからいいもん」

「うざ」


 ドン。バン! ガン! バタバタ!


 抵抗は空しい。こう見えて明衣の力は結構強いから、この程度の抵抗で棺桶を引く縄から手が離れるような事はない。少し考えれば分かる事だ。体格的には成人男性と遜色ない男性を引きずっているようなものである。それに鉄の棺桶を加えた時の重さがどれだけの物かは想像もつかない。

「一応聞きたいんだけど、岩垣先輩。女子バスケ部に侵入して盗撮したか?」

「なんだそんなのは! 知らない! カメラなんか仕掛けてない! 出せ! だせええええええええええええ!」

 必死な叫びも豪雨にかき消されて何とも空しい。まるで雨が―――あの怪異が俺達を助けているみたいじゃないか。

「ここから坂道か。助手、向こう持ってね。流石に重いや」

「…………仕方ない」

 二人がかりで供物を運ぶ。これで怒りを収めてくれれば事件は解決? 少なくとも相談箱に入れられる悩みは解決するか。

「なあお前も男だろ!? 真千子と付き合ってんだろ!? エロいの分かるだろー! 裸見たかったんだよ俺は!」

「付き合ってないって話をした筈なんだけどな。エロとかそういうのは、俺からはノーコメントだ。今はそういう話をしたい気分じゃない。これからも多分そういう気分になれない」

「ていうか自供しちゃうんだ! びっくり!」

「お、俺を何処へ連れてくか知らんが逮捕だ! 二人とも逮捕で警察行って死刑だ! 分かったらすぐやめろ! これは人権侵害だ!」

「警察の人は正義を分かってくれてるから、私達に手なんか出さないよっ。そういうのはもうすっかり周知されてると思ったのに」

「正義じゃなくて、お前が弱みを握ってるからだな。何したか知らないが悪辣な野郎だ。確かに地獄行きみたいな真似をしてるけど、それはお互い様じゃないですか岩垣先輩。もういいだろ、もういいじゃないか。人殺しを何とも思わないクソ探偵、それに付き合うゴミ助手、そんで下半身に脳みそがツイてそうなハッピー高校生。全員地獄に行くなら順番の問題だけだ。アンタが最初に行くだけ、大丈夫、俺達も直に行くからさ」

 

 ドンドンドンドンドンドンドンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!


「いいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああだあああああああああああああああああああ!」


 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!


「誰も死なないならそれが一番いいけどさ。今回は最初から手遅れだったみたいだ。探偵助手をしてるといつも犯罪の片棒を担がされる。慣れたし、飽きたよ」

「ふふ、でも助手は今回クリティカルな証拠を持ってきてくれたし、とっても有能だったよ! 後でお礼が出来ればいいけど……勿論、私が出来る事ならね!」

「死ね」



「それは、貴方がシたい事なんじゃないの」


 ………………。

「お前の殺し方」

「ない!」

「何も出来ねえじゃねえかカス。二度と口開くな」

「うーん。いい雰囲気だからてっきりお部屋にお邪魔したいとかそういうのだと思ったのになー」

 トンボ返りのように、再び公社へと到着した。後は一人で大丈夫との事で、また明衣に任せて横をついていく。引きずられた棺桶がコンクリートに擦って「ギギギギ……」と鋭い音を立てている。

 体育館の外周をぐるりと回ると、トレンチコートの怪異が絹擦れの音を激しく立てながらゆっくりとこちらに近づいてきた。ここからは土で、金属の擦れる音が聞こえないのは彼としても……


「ひっ―――!」


「どうかしたのー岩垣先輩」

「あ、あの音だ! お、俺が窓を開けろってやってた時後ろから聞こえて! は、速く入れろって叫んでバレそうになった! なんだ! 結局なんだったんだ! お前ら俺を何処に連れてきた!」

「あー」

「…………」

 棺桶を引いていた縄から手を離すと、明衣はトレンチコートの怪異に向けて渡し、くるりと踵を返した。道中、すれ違いそうになる俺の肩を引っ張りながら。

「さ、後は当事者同士でお話の時間。探偵の役目はここまでだよ!」

「どんな殺し方をするか楽しむ趣味はないなんてな」

「元々そんな趣味はないよ! それに、元々誰からも忘れられてたんだからさ、仕返しの瞬間も見ないであげるのが私達に出来る気遣いだと思わない?」

 怪異に気遣いなんてこいつは本当に。別の怪異は殺したくせに一々都合のいい奴だ。




「今日は本当にお疲れ様っ。打ち上げにカラオケでも行く? また乃絃君の声が聴きたいなっ」

「お前はいつもそれしか言わない」

「うん。貴方の声、大好き!!」



 












「なんだ、おい何処行った! ここは何処なんだよさっさと俺をもどふごおが   ろ   へ お」

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